キャッキャッとはしゃぐ魔王
前室を経て、道安はついに魔王の王室へと案内された。
前室よりはるかに小さく、生活感がある空間というより部屋。そこの、玉座というにはあまりにも普通の椅子に、魔王は座っていた。
「魔王様、連合王国の三代目勇者を連れてまいりました」
「よくきたな勇者よ。私は魔王国のトップを務める魔王だ。この度は…………えーと、やっぱいつもの調子で話していい??」
「どんな調子でも私は気にしません。初めまして。道安と申します。とりあえず坐りましょう」
「ケラク! 本当にとりあえず坐りましょうって言った!」
「言いましたね……」
キャッキャッとはしゃぐ魔王を前に、道安はやや毒気を抜かれてしまった。実はさきほどから驚きっぱなしで、いつもと違い本当に「とりあえず」坐ることを勧めてしまった。
そんな道安の自省をよそに、魔王は椅子から立ち上がって道安の目の前まで歩いてくる。
「勇者って呼ぶのも堅苦しいから道安って呼ぶね? 私のことはパージュンって呼んでほしいな」
「分かりましたパージュンさん。あの……仮にも初対面で敵国の人間に、そんな近づいて大丈夫なのでしょうか」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
パージュンは興味津々に道安の周りをぐるぐる回りながら彼を観察している。
後ろでケラクが止めにかかろうとしているが、気にせずぐるぐるするパージュンを前に、そのままのポーズで固まっていた。
「ほうほう……これが異国の異端宗教家かぁ……」
「……」
パージュンは成人とするにはやや幼い印象を受ける、見目麗しい女性だった。発言が見た目以上に幼さを補強しているのを抜きにしても、一国のトップとは思えないような存在、というのが正直な感想だった。
そんなパージュンが、道安の目の前で止まり、子どもが無邪気に質問するようなトーンで尋ねた。
「で、道安は私を洗脳しに来たの?」
「ある意味ではそうかもしれません」
「おまっ……」
ケラクが咽るような声を出して止めに入るが、パージュンは気にせず続ける。
「洗脳っていうのは悪い言い方になっちゃうけどさ。道安は要は相手によりよい生き方を体験させたいんでしょ? その結果が受け取りかた次第で洗脳に見えるだけで」
「事情や信念は人によって様々ですから強要はしたくないですが。それでもほとんどの方には坐ってもらいたいと思っていますね」
「じゃーやってみたいなー」
「では今すぐにでも」
「……魔王様、さすがに」
道安としてはなんの問題もないのだが、ケラクがおろおろしている理由も分からなくはないので、流石に両者の顔を伺う。
「ケラク。前にも言ったけど。仮に私が洗脳されても、魔王国には関係ないから」
慈愛に満ちている、とも取れるが、少し「暗い」笑顔でパージュンはケラクを制止する。
ケラクはたっぷり15秒ほど考えて、口を開いた。
「…………。……危険だと判断したら、止めに入りますからね」
「うん。ありがとっ」
苦渋の表情を浮かべるケラクと、今度は太陽のような笑顔のパージュン。
「……では、改めて」
本当にいいのかはさておき、許可は取れた。道安はパージュンに坐り方の説明を始めた。




