また生まれることができる
ケラクが指差した方向。そこにはまた別の男女が静かに座っていた。
一見他の組と変わらない、幸せそうに見つめ合う男女。
しかし、彼らの間には机が置いてあり、机には小さな布が敷かれていた。
道安が覗き込んだところ、その布の上には髪の束が置かれているようだった。
一体誰の髪なのか。道安がなんとなく察した瞬間。男女の間に男が現れた。
不思議な発光も、激しい旋風もなく。一瞬前には確かに存在しなかった男がなんの前触れもなくそこにいた。
「……」
驚愕に目を見開き、絶句する道安。しかし、そんな道安など気にせず、三人は幸せそうに微笑みあっている。まるで彼らが「親子」であるかのように。
「……これが魔王様による真の救済だ」
「……すなわち、転生ですか?」
道安は予想を口にし、ケラクはあいまいに肯定した。
「そうとも言える。貴殿の想像通り、二人の間にある髪は戦死者のものだ。今ここに現れた男は死ぬ前の記憶と、二人の子として生まれたという自覚を持つ」
「……望めば子が生まれる。望めば、温かい家庭の子としてやり直せる、ということですか」
「そうだ。これ以上の救済を、私は知らぬ」
道安は即座に思った。間違っている。直感がそう告げたが、幸せそうな三人を前に、言葉に詰まった。しかし、なんとか言葉を紡ぐ。
「……再び戦場に行って死んでしまうことに、悲しみはないのですか」
「私は子を授かったことがないから分からん。しかし、きっとまた生まれることができのならば、問題なく幸せなのだろう」
「……それでも、死者がそのまま戻ってくるわけではないはずです」
ケラクはかつて見送った部下の一人を思い出した。何食わぬ顔で戻ってきたものの、記憶が混ざりあったせいか、同一人物とは思えない誰かとして帰ってきた彼のことを。
前世の記憶を持っているからといって、縁もなかった男女の子として生まれたら、それはかつての死者ではない。
「それは理解する。多くの者は気にしないだろうが、正直、貴殿の意見には汲むべき部分がある」
それでもケラクは、想いを振り払って言った。
「しかし、見ろ、誰もが、幸せそうじゃないか」
「……」
道安は黙って考えていた。
変わり続ける根拠なき自己だからこそ、今が尊い。
この考えはおそらく死ぬまで変わらない。
しかし、三人は幸せそうだ。
そして、それが別れによって反転しても、「また生まれることができる」という希望の灯は、きっと途絶えない。
考えこむ道安へ、ケラクが続ける。
「貴殿は敵の要人であるが、貴殿なら話しても問題ないと判断した。いくら貴殿がこの事実を連合王国に報告したところで、夢物語と受け取られるがオチであろう。貴殿が宗教家であることも誤解に拍車をかけるだろう」
そして、今は拮抗状態にある戦争だが、もはや魔王軍側では「死」が問題ではない。ゆっくり時間をかけ、種族分け隔てなく信仰を集めれば、連合王国に「勝つ」のではなく「吸収する」ことができると考えている。
改めて道安に向き合ったケラクはこう結んだ。
「そして、貴殿は他人の幸せを真に願える人間のようだ。だからこそ、この奇跡を、そして魔王様による統治を、貴殿は受け入れてくれると思ったのだ」




