今は、まだ、友達
「プロならもっと粘ってよー。……でも、聞かなくても、なんとなく、ホージョーサンがなんて言ってくれるか分かっちゃうな」
「話が早いですね……そうです、結局、坐るだけです」
「シンペーくんは別のブッポーも教えてくれたって言ってたよ?」
ホージョーサンは目をパチクリさせてこちらを見た。おや、私とシンペーくんに交流があることが意外だったのかな?
「お二人は頻繁にやりとりされているのですか?」
「そりゃ誰も表立って言わないけど、私の結婚相手筆頭だし? 表立って『勇者』としてブランディングされているのはシンペーくんだし。……嫉妬しちゃった?」
「いえ、むしろいいことだと思います。彼には不安定なところもありますが、この縁が良い縁であることを心から願っています」
「ぶー。少しは戸惑ってくれればいいのに……まぁでも、前に会った時より、なんかいい男になったかなって、正直思っちゃった。こんな箱入り娘の上から目線だけどね。もしかしてホージョーサンがなにかした?」
「私は一緒に坐っただけです」
「だろうねー」
あまりに想定通りすぎる答えで笑ってしまった。ホージョーサンもうっすらとした微笑みを浮かべている。
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実際、彼は刹那的な関係を改め、淡々と仕事を続けていると聞いた。
そんな前情報があったから、私は前回会った時に問いをぶつけてみたのだ。いまだにカワイイ女の子から言い寄られるんでしょ? もったいないとか思わないの? と。
「正直もったいないと思うことばかりだ。言い寄られるたび、相手の子を押し倒したくなる」
私がバッサリと問うと、彼もアッサリと答えた。おいおい正直すぎんか? 前はもっとヘラヘラしながら当たり障りのない返しをしていたのに。
「でも……そうじゃきっといけないんだって、思うようになった。いや……取り繕わないで言えば、言い訳する苦しさから逃げたっていうのが、正確なところかな……」
「苦しみから逃げた?」
「そう、『やりすごす』っていうのかな……道安さんが言ってくれた、『悪人のままですが、少なくとも自分を見つめる悪人になれた』っていうのに救われたんだけど……そうしたら、今まで自分が感じていた虚しさが、余計に浮き彫りになったんだ。それは前から僕の苦しみになっていたんだけど……それが、朧げながら見えてきたんだ」
「うーん分からないでもないかなー。坐っていると逆に普段見えないものが見えるというか。むしろ坐っている、何も考えていない時間との落差で、それが分かるというか……」
「そうそう。で、この前もカワイイ女の子が来たんだけどね。期待してしまう自分の裏で、別の自分が囁くんだ。苦しむぞって」
「……そっかー。あんたも苦労しつつ、一段上のハゲになったんだね」
「ハゲは失礼だよ」
ハハハと自然な苦笑いを浮かべる彼。彼は、最初に会った頃とは変わった。少なくとも、自分の弱さを曝け出すことができるくらいには、強い男になったんだと思う。
「……じゃあ、私が今言い寄ったらガマンできる?」
変わる前の彼には絶対言わない問いだ。根拠はないけど、同じく坐り続けた人間として、彼は安易な行動を取らないだろうと、妙な確信があった。
「君から言い寄られたらガマンできないだろうね。君は無関係とは言えない。知り合って長いし、頻繁じゃ無いけど会話だってしてきた。それに、なにより、一緒の人に坐禅を教わって……彼の言葉を借りるなら『縁』を感じている」
恥ずかしそうに、でも一切の言い訳を挟まず、シンペーはまっすぐこちらを見て続けた。
「だから、君がいい加減な気持ちで僕に言い寄らないことが、何故か確信できる。同じ坐禅に親しむ者としてね」
その言葉を聞いて、表情に見惚れて。
心の中にポゥッと、小さな火が灯る。この気持ちの名前に、心当たりがある。
でも、その意味は考えずに、すぐに手放す。
今はまだ……友達。うん。そう、友達だ。
「……ばーか。そもそも全然タイプじゃないから、そんなことしませんよーだ」
「手厳しいなぁ」
シンペーは困ったような、それでも清々しさを感じる苦笑いを浮かべていた。




