村娘、再来
様々な村を訪れた道安一向だが、領地の端までたどり着いた道安はいったん王城へ引き返すことになった。
つまり、既に訪問済みの村に寄りつつ、きた道を戻ることになる。
道安はそれぞれの村の顔馴染み以上となった人々と再会を喜び、ともに坐った。
そんな旅のためか明らかに元気そうな道安だったが、王城にほど近いある村の前で顔をわずかに引き攣らせる。
「……勇者殿。この村でなにかやらかしたのか」
「……」
道安は澄んだ目のまま村の簡素な門の前で立ち尽くしていた。護衛騎士も、その道安の隣に並んで立つ。
「……前に来た時、ここの娘さんに、その……言い寄られた上、寝込みを……。お恥ずかしながら、逃げ出してしまいました……」
「そりゃまぁ……もったいない……って言っちゃいけないんだよな。若い男なのに厳格な勇者殿のことだ。間違いを犯す前に必死で逃げたんだろう」
わかっていただけますか。
そう顔に書いてあるような表情のまま、道安は門を見つめている。
この前まで護衛もつけないで一人、王城周りの村を回っていたと聞いていたが。なるほど、護衛を求めたのは命の危険よりこっちの危険の方が深刻だったのかもしれない。
「この村も皆、素直に坐禅を受け入れてくれました。彼女も例外ではない。坐禅の姿は執着や煩悩に囚われない姿です。流石に、これだけ期間が空いていれば私への執着など無いと信じたいのですが……」
「……まぁ、今回は俺も居る。いざとなったら大声でカツとでも叫んでくれ」
「それは私の宗派ではなく、お隣の宗派の定番ですね……なぜそれを?」
「軍で流行ってるんだと。短い掛け声だから、たまたま被ったのかもしれん。それよりほら……お迎えが来たぞ」
なにやら考え事をしていた道安の目が見開かれる。視線の先には、満面の笑みで腕をぶんぶん振っている美人が居た。
なるほど、あれが道がフった娘さんか。次の修練は倍の負荷にしてやろう。
「ほら、敵意はなさそうだし、殺されるわけじゃないんだ。行くぞ」
なかなか珍しい複雑な表情をしている道安を引っ張り、護衛騎士は村の門をくぐった。
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「道安さんが教えてくれた坐禅の習慣で、いままで喋ったことのなかった人とも接点ができて……そして出会ったこの人と、私結婚したんです!」
こいつ、フった女にフラれてやがる……
到着早々招かれた一席で、娘は大層幸せそうに報告をした。
勇者よ、今日の修練は無しだ。酒じゃなくてホージチャでも、今晩は付き合うぞ。
「それはなによりです。出家した私は妻を持つつもりがありません。しかし、在家の方が正式な関係の相手と一緒になることは問題ありません。ぜひ誠意ある関係を築き、幸せになってください」
……案外大丈夫そうだな。
ちょっと挙動不審だった道安は報告を耳にするや、すぐにいつもの平静を取り戻し返答した。
うーむ、俺だったらしばらく枕を濡らすところだが……
「それとほら! この子が私たちの娘です!」
後ろでニコニコしていた青年が背後の布団から赤ん坊を抱き上げる。
いくらなんでも展開が早過ぎないか……いや、村に住んでいるとそういうもの……?
流石に勇者も驚きを隠せまい、と思って彼を見てみるも、道安は微笑を崩さない。
「これはみるからに元気そうなお子さんだ。惜しむらくは、まだ坐禅させるには早いことくらいでしょうか。いえ、しかし覚えるなら早い方がいいかもしれない。どうですお嬢さん、とりあえず坐りましょうか?」
意味もわかっていないだろうに、きゃっきゃと笑う赤子に、みんな満足そうだ。
「道安さん、赤ちゃん相手でも全く変わらなくて最高です! 娘が大きくなったら、教えてあげてくださいね」
「是非。心から楽しみにしてますよ」




