魔王パージュン
「確実なことは私にはわからないけどさ、ケラクは操られてないと思うよ? というか、ケラクに分からないなら、私に分かるわけないじゃんか」
「……宰相としては不安ですが、魔王様の直観を信じましょう」
「うん、それでいいよ。というか、ケラクを処刑なんかしたら、ふつーに考えて少なくない同胞が路頭に迷うよ? もっと自分を大事にしなー」
「はい、ありがとうございます」
魔王様は聡明だが、必ずしも細かいことに気を回すタイプではない。
彼女の真価、というと不敬だが、彼女本人が語る通り、彼女が魔王たる所以はその「常時発動している能力」にある。
だからこそ、具体的な魔王国の運営に関しては、トップとしてはいい加減と言えるような部分もある。
ケラクのような有能な部下がいてくれるからこそ、成り立っているという見方もできるが。実際のところ、彼女は自分がただの象徴であり、「装置」であると考えている。だからこそ、実務に関しては、口を出さないことが多い。
そんな彼女からすれば、三代目勇者はいてもいなくてたいして変わらない程度の存在なのだろう。
ケラクがそう納得しかけたところで、魔王様が口を開いた。
「でも、その勇者にはちょっと興味あるかなー。会ってみたい」
「……どんな危険があるか分からない男ですよ?」
「でも、苦しいのが消えるっていうのが本当なら、悪いことじゃないじゃん。そういう考え方、私は好きだよ? まー、私の『能力』使ったほうが現実的だと思うけど」
「……」
ふっと笑う魔王様。
ケラクは彼女の言う「能力」が幾たびも同胞を「救った」ことを知っている。何回も、本当に何回も。
その成果を目にしているからこそ、魔王様がたまに浮かべる、憂いを帯びたような笑みの理由が分からなかった。
「万が一私が洗脳されたらさ、そしたらケラクが私を拘束してよ。私の『能力』は私の意志関係なく発動し続けるだろうし」
「……やはりやめましょう、魔王様」
「やだ。会う」
ぷくーと頬を膨らませる魔王様。子供のような表情だが、ケラクはこの表情が嫌いではなかった。ものをねだらない魔王様が、まれに見せる不満を表明する表情。ケラクとしても、あまり断りたくない表情だった。
「……では、私と、専属護衛の同席であれば、短時間はいいでしょう。その代わり、魔王様になにか危害を加えようとしたら、彼はどうなるか分かりませんからね」
「なるべく殺さないでねー……まぁでも」
楽しそうに、でも、やはりどこか影のある表情で笑う魔王様。
「死んじゃったら、また誰かに『産みなおして』もらえば、きっと悪いことじゃないよね?」
「……そうですね」
そう。魔王様はおよそ我々が考える、究極に近い楽園を再現できる。彼女であれば、そんなおとぎ話でしか聞かない奇跡も、現実にできるだろう。
「……では、彼を連れてきます。魔王様、また、何日か後に」




