切ないくらいに、なにも残っていなかった
頭の中に、呪いの言葉が響いている。
「この国の礎になれて光栄です……それは本心です……そんな顔しないでください。いつもみたいに、毅然な態度のケラクさんじゃないと、誰もついていきませんよ」
「お前に言いたいことはたくさんある。しかし、このままあの世に持っていくとしよう。だから、お前も怒りは全部あの世に持っていけ。お互い持ち帰ったものを、あの世で見せあおう」
「宰相。あなたが、私の代わりに、この国を見届けてください」
ずっと、私はどうすればよかったのか。これからどうするべきか。ずっと、ずっと考えてきた。
……今。はじめて、それを「眺める」だけにとどめた。
彼らは……静かに消えていった。
いかないでくれ!
いつものように、そう心の中で叫べば、彼らはまた色濃く現れ、同じ言葉を繰り返すだろう。
私は、ひきとめないで、見送る。罪悪感が湧いてくる。
しばらくして、その罪悪感すらも、静かに消えた。
切ないくらいに、なにも残っていなかった。
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「らちが明かない」と残し、ケラクは地下牢を後にした。
道安は、「また会いましょうね。そのときこそ、一緒に坐りましょう」と言い残し、そのまま喋らなくなってしまった。
「……」
地下牢に、いつもの静寂が戻る。
『あなたに効かなかった』ことをあなたが学べるかもしれない。だから坐るのです。
(……)
彼は、私にうんざりするくらい、坐禅を勧めてきたが、決して強要はしてこなかった。呪いをかけるのではなく、ただ勧める。まるで、おすすめの風邪薬でも紹介するように。
(……筋は通っているの……か?)
(……いや、わからない。私には、理解できない。むしろ、理解する必要は、ない)
どんなに苦しくても、私が信じるのは魔王様ただ一人で、彼女が作り出す真の平和だけだ。だから、今は坐禅なんてどうでもいい。それは平和になってからでいい。
(……しかし、平和になって、それでも苦しみがそのままだったら……)
彼と並んで坐っている姿を想像しかけて、やめた。魔王様の理想が実現したら、考える必要もないことだ。
「……現状を、魔王様に報告しにいこう」
依然、三代目勇者の目的・能力は不明。しかし、目立った悪影響は今のところ見られない、と判断している。
そして、この報告が「すでに洗脳されている」と判断されるのであれば、今すぐこの場で私を処刑してもらって構わない。
覚悟を決めて、ケラクは魔王城へ向かった。




