表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界禅僧はとりあえず坐る  作者: ホゲファイブ
魔王城編 ― 第二の矢
PR
59/94

みんな仲間で、みんな苦しんでる

いかなるアプローチであれ、相手を洗脳したいなら、「それは洗脳ではないか?」という問いに肯定しないだろう。肯定した瞬間、相手に斬られてもおかしくない。


洗脳ではないとしたらこの男は何を目的でここに戻ってきた?


現状考えられるのは三つ。


・諜報。なんらかの手段で距離関係なく情報を連合王国軍側に伝達する術をもっており、魔王軍の情報を集めるために潜入している。

・撹乱。適切なタイミングで魔王軍の中心で騒ぎを起こし、より重要な攻撃の布石となる。または、撹乱情報をこちらに刷り込みに来ている。

・流刑。連合国内でなんらかの理由で勇者が邪魔になったが、自分たちの手で始末できない事情があり、適当な理由で敵陣に送り込まれた。


そして信じがたいが、もう一つの可能性。


彼が言うそのままの理由。すなわち本当に坐ることしか考えていない。


「順に聞いていく。目的は諜報か? 残念だが、我ら魔王軍拡している情報などほぼないぞ。『切り札』ならあるが、知りたければ別に教えてやる」


「失礼ながら、国同士の高度な情報戦にはあまり興味が持てません。そんなことより坐りましょう」


「ならば撹乱か? そもそもお前が勇者で、しかも存在を知っているものはわずかだ。お前がいくら騒いでもこんな僻地では本丸に影響はない」


「そもそも騒ぐ気はありません。ずっと黙って坐っていたいです。一緒に坐りましょう」


「では流刑か。寝返る、というと目覚めの悪い表現だが、もし魔王様の理念に賛同するなら今すぐ仲間に迎える用意があるぞ」


「私はもう人生で帰依すべき法を見つけました。あなたが魔王を心から信じられるのは素晴らしいことだと思います。でも、そんなあなたの中にも確かに仏はある。それらは両立できると思います。ですから坐りましょう」


もしかして実際に坐るのはブラフで、「坐りましょう」という単語を複数回聞かせるのが条件か? まずい、だいぶ聞いてしまったぞ。話の主導権を握り返さなくては。


「……貴殿が言うことはにわかには信じがたい。正直、今私が持っている事実を照らし合わせると、貴殿は連合国に無駄な任務を強いられているか、もしくは疎ましいから敵の手によって意図的に処理されかかっている哀れな男だぞ」


「そんなことはないと思うんですよね……素直じゃない人もいましたが、みんな結局一緒に坐ってくれましたし」


「それは貴殿が都合よくとらえているだけではないか? しかし……そうではあってもなくても、だ」


ここに来て、ケラクは今までの慇懃無礼な雰囲気を緩め、少しだけ身を屈めて勇者に目線を合わせた。


「我々魔王国は、そちら連合国では随分邪悪な存在として語られていると聞く。お互い少なくない数の殺し合いをしてきた仲だ。全てを否定することはできぬ。しかし、我が魔王国はどんな種族であっても、同じ方向を向くものを拒まぬ。たとえいかに無能だろうと、いずれ裏切られようともな……」


「……」


「勇者よ、我らが魔王と、一緒に歩む気はないか?」


「願っても無いことです」


「……えぇー……」


世界一話が通じないと思っていた男があっさりとうなずく。呆然とするケラク。


「……そうか、では、我々の側につくということだな?」


「そうではありません。そもそも敵だ味方だと分別をするから苦しむのです。ケラクさんだろうが魔王さんだろうが、共に歩むべき一切衆生しゅじょうです。ぜひ共に並んで坐りましょう」


やっぱり通じていなかった。……なぜ今ほっとしたんだ、私は。


「そもそもなぜ貴殿はそこまでして坐らせるのを勧めるのだ。控えめに言って聖人というより狂人だぞ」


「それは坐って確かめてください……と言いたいですが、これで坐ってくれる方、最近あまり居ないんですよね」


今まで目を合わせず、壁に向かっていた道安は、ここで初めてケラクに目線を合わせた。


あぁ、私の理想とする禅僧はこんなに喋る僧ではないのに……


「それはあなたが苦しんでいるからです。……そして、これ、いろんな人に言ってますが、外れたためしがない。みんな、苦しいんです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ