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異世界禅僧はとりあえず坐る  作者: ホゲファイブ
魔王城編 ― 第二の矢
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脇役

自分なんかより、遥かに強く、優しく、勇敢だった。


お互い一兵卒だったから目だった戦果を挙げた訳ではないが、常に前線で戦い、敵軍の恐怖と上官の信頼を勝ち取っていた。いずれ上に行く男。だれもがそう思っていた。


しかし、ある日、なんてことない戦闘で、いつものように飛んでくる矢が、たまたま彼の足を直撃した。


戦争では日常茶飯事、ほんとうによくある矢傷だが、たまたま、彼の矢傷病を得、みるみるうちに腐っていった。たまたま、でも日常茶飯事、よくある除隊のシナリオだった。


患部を除き、激痛に耐えながらも歩けるようになった彼は、命に別条ないところまで回復したものの、走ることは叶わなくなってしまった。


魔王様の奇跡により、幸せな日々を送ることもできたはずだ。


しかし、廃兵となった彼は、料理番として働くことを選んだ。自分だけ救われるのではなく、少しでも誰かの力になるため。


料理が趣味だと言っていた彼は、こちらのほうが天職だと喜んでいたが、看守はどこか複雑な気持ちだった。そんなはずはない。彼には栄光が似合うはずで、本人だってその光が見えていたはずだ。


それが、料理番。前線に立つ「主役」のために、ひたすら餌を作る「脇役」。


本当に才能がなく、看守に左遷された自分などより、苦しいはずだ。


そう思っていたが、彼はいつもぶっきらぼうに、それでも明るくふるまっていた。それが看守にとっては痛々しかった。


それでも、看守と料理番は仕事に手を抜かなかった。それは、「主役」すら満足にできない「脇役」としての負い目だったのかもしれない。


日々だけが過ぎていった。なにも目に見える戦果などない、ただ、目の前の仕事をこなすだけの、何も残らない日々を過ごしてきた。


----


(それを、この男は……)


救ったのかもしれない、と思うとしたところで、看守は首を横に振った。


救われてなどいない。我々の日々は一切変わっていないどころか、こうして本城勤務からも外れてしまった。おそらくこの勇者の命運と一蓮托生の、使い捨て人員だろう。


(……ただ、あの男は、我々の仕事を肯定した。一心に仕事をすることが尊いのだと)


敵の言葉を手放しに喜ぶべきではない。この男は、こうやって人身を掌握してきたのかもしれない。冷静になるべきだ。


(……しかし、)


しかしなんだ? 少しぐらい喜ぶべきだと? 今まで頑張ってきたのだから、肯定を受け取り、誇ってもいいのではないかと?


「……」


「……」


相変わらず、地下牢は静かだった。居るのかいないのか分からないほど静かな男しか収監されていない地下牢は、何も考えていない男と、複雑な、しかし決して悪くない気分で考えを巡らせる男の二人だけがいる空間だった。

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