シェフを呼んできてくれ
「シェフを呼んできてくれ……だと?」
「はい。あなたがたの呼び方ではなんというか分からなかったので、シェフと言ってみましたが……個人的には典座という呼び方がしっくりきます」
「テンゾというのは分からんが、料理番なら確かに居る。飯が不満だったか?」
「いえ、逆です。丁寧な仕事ぶりを見て、どんな方が料理されているのか、会ってみたくなっただけです」
「今日の飯はただの芋粥とゴマ塩だと思うんだが……」
「華々しさは関係ありません。そもそも囚人に贅を尽くした食事など出ないでしょう」
囚人の自覚があったのかこいつ……。
「囚人かどうかはさておき。季節、蓄え、技術、知識、時間……食事を用意するには、様々な制約があります。それでもなお、食べる者のために最善を尽くす心というのは一品一品に現れるものです」
「そういうものか」
「そういうものです」
「……ちょっと待ってろ。料理番を呼んでくる。多分休憩中だろう。……ぶっきらぼうな奴だ。機嫌が悪くても知らんからな」
「ありがとうございます」
看守は牢を出て特設の厨房に料理番を呼びに向かった。
前回だったら分からんが、今回は宰相様直々に、勇者との交流は許可されている。……まぁ、俺たちを介して、何か探りたいのだろう。
(……そんなに褒めるところがあったか? 今日の飯……)
看守は頭をひねる。
実は勇者の飯が特別に質素なのではなく、ここで働いている人員は全て同じメニューを食べている。
もちろんよく動く人員には量が多めに支給されるものの、効率を求める軍では人によっていちいちメニューを替えている余裕などないのだ。
(うーむ。分からん……)
厨房をノックする。ややあって、予想通り不機嫌そうな料理番が出てきた。
「……貴重な昼寝の時間になんだ」
「勇者様がお呼びだ。なんでもシェフ殿の仕事に感銘をうけたから直接お目にかかりたい……だとよ」
「ハァ?」
その反応、分かる。
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「……どうも勇者殿。勇者殿が召し上がるお食事を担当させていただいている者です。寝起きですいやせんね」
「いえいえ、とんでもない。お呼び立てしてすみません」
皮肉が通じているかどうか曖昧な反応であったが、道安は丁寧に頭を下げた。
「……人類の希望たる勇者様が、そんな簡単に魔族へ頭を下げていいんですかい?」
「勇者なんてたいそうな肩書を頂いていますが、正直なところ、私は人類だ魔族だなどの区分に興味はありません」
「ほほぅ。そりゃ大層なこって」
料理番はめんどくさそうに後頭部を掻く。ボリボリと豪快な音が静かな地下牢に響き渡った。
「私が向き合うのは、目の前の縁だけです。それを手放すことで見えてくるものがあります。坐るべきです。あなたもとりあえず坐りましょう」
「……ほんとに聞いた通りなんだな」
「だろ?」
看守から事前に聞いていた通り、この男と会話すると必ず結論が「坐りましょうか」になると聞いていたが……あまりにもその通りすぎて、もはや笑うしかない。
「俺は業務に忙しいんでね。おっと昼寝だって重要な業務だぞ。いわば自分の身体に対する仕込みみたいなもんだなガハハ。で、話は終わりか? 坐る気はないから、そのための説法なら帰るぞ」
「説法よりもただ坐っていただければ十分なのですが……残念です。では本題はおいておいて、話したかったことを」
話は本題じゃなかったのかよ。看守は心の中でツッコミをいれる。申し訳ないが、自身が当事者じゃないならちょっと面白い。
「なんだ? 明日は芋よりも豪華な具をご所望か? 喜べ明日は豆粥だ。大豊作で腐るほどあるから飼料に回されているらしい。われら家畜程度のメシを作る大役を仰せつかっているんだ腕がなるぜ」
実際味は悪くなく、普通に人類や魔族も食べる豆だから、なんの問題もないのだが。料理番は毒を吐きつつ両手を広げてみた。
「いえ、芋粥はとても美味しかったです。芋粥も丁寧に作られているのが分かったのですが、特にゴマ塩」
「ゴマ塩?」
ゴマ塩など、ただの調味料では? 看守はまた首をかしげる。
「えぇ、あのゴマ塩。あれ、あなた時間をかけて挽いてらっしゃいますよね?」




