勝利条件:不明
「……で、また戻ってきたのかお前は」
「またお世話になります。とりあえず一緒に坐りますか」
「結構だ」
この男は女神とやらの奇跡で脱獄を果たしたにも関わらず、「ただ、魔族の方々も坐ってもらえると思いまして」という理由だけでまた戻ってきた。常識的に言って正気とは思えない。
場所は同じ地下牢だが、今回は魔王城ではなく、支城にある牢だ。防げない脱獄方法を持っているのであれば、牢の厳重性はあまり意味がない。
むしろ、脱獄されても心臓部から遠く、かといって監視が行き届かないほど離れていないこの牢が選ばれたのだ。
ただし、看守含めた人員は前回と同じ者が充てられた。理由は説明されていなかったが、仮に前回、勇者が我々に何かを「仕掛けて」いたと仮定して、他の人員に同様の被害が出るのを防ぐためだろう。
率直に言って不愉快だが、かといって文句を言うものでもない。これが俺の仕事だ。
「前にも言った気がするが、仕事中だからな」
「なるほど、仕事熱心なことは我が宗派でも推奨されることです。前にお世話になったときにあなたの仕事を拝見しましたが、毎日決まった仕事をよどみなく、淡々とこなす姿はとても尊いものです」
「簡単な仕事にしか能がないだけだ」
「そんなことはありません。規律・所作を守り日々を過ごす。これは我々の理想となんら変わらない。まさしく威儀即仏法、作法是宗旨です」
「……イーギソクブッポ?」
「はい。威儀即仏法、作法是宗旨。威儀は身なりや所作のことですが、それがそのまま仏の教えということです。作法も大切な教えの根幹ということですね。即ち、あたなは既に日々修行されている」
「……俺としては、日々の糧を得るため働いているだけだが」
「私は仏法を勧めますが、実はそれを知っているか理解しているかはさほど重要ではない。それを実践できているかどうかが重要です。あなたはそれができている。あなたは尊敬されるべきだ」
「……」
これ以上聞いているとこの男の術中にはまってしまいそうなので、沈黙で返すことにした。他ならぬ自分のためにできることをしているだけなのだが、だからこそこんなに褒められたことはなかった。
「坐って貰えるのがベストですが、確かにあなたの作務を邪魔するのはよくない。今日の所は一人で坐らせてもらいましょう」
今日の所は、というのが気になるが。彼はいつもの坐禅を始め、一言も発しなくなった。
「……」
「……」
「……」
「……」
飯の時間まで、やることがない。
「……」
「……」
暴れられたり、怒声や泣き言を聞かされるよりはよほどマシだが……。
「……」
「……」
「……」
「……」
これ、座ってるか立ってるかが違うだけで、実質俺まで修行に参加しているんじゃないか?
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……(ググゥ~)」
道安の腹の音が響き渡る。
ククク。俺の勝ちだ。
この場合、何が勝ちなのかさっぱりわからないが、俺はちょっとだけ嬉しくなった。




