再度捕まりに行く禅僧
「………ただいま戻りました。ご心配をおかけしたようで」
「殺す気か!」と頭をはたいたら流石に坐禅を解いて謝罪する道安。教皇はなんともいえない苦笑いを顔にはりつけている。
「まったく……とりあえず無事なのだな、ホージョーさん」
「心配したんですからね。あくまで女神教のトップとして」
「はい。おかげさまで。しかし、二人ともせっかく坐っていたところを中断させてしまった。とりあえず一緒に坐りましょうか」
教皇と王は顔一瞬を見合わせ、やれやれといった顔で道安に向き直る。
「それよりも、あなたは国へ報告することが山ほどあるでしょう」
「まさしく。帰ってきて早々悪いが、これから三日は質問攻めにされると思ってくれ」
「なんだ、残念です。それではまたの機会に」
正直、帰ってきても洗脳とかされているんじゃないかと疑っていたが、ホージョーさんはあまりにもいつも通りだった。今は、無事に帰ってきてくれたことを喜ぼう。
そう思ったのも束の間。そんな道安への取り調べが終わり、反体制派のやつらは道安が魔王軍のスパイとして操られていると騒ぎ出した。
いくつか質問させてもらったが、たいして情報も持ち帰っていない上、三代目勇者殿の言動は普通とは言えない。これは魔王軍による奇跡でも魔法でもない、おそらく未知の技術による精神汚染に違いない! と。
王は頭を抱えた。アイツこれでいつも通りなんだって。これ以上私の胃をいじめないでくれ。
王は自身の胃をかばいつつ、不安になっているであろう道安もかばってやることにした。そんな騒ぎになっているが心配ない。ホージョーさんは王室が責任を持って庇護する。
王直々にそのような言葉をかけてやると、道安はいつもの調子でこう返した。
「では、もう一回捕まってきましょうか? おそらく殺されないようですし、魔族の方々も問題なく坐れそうでしたので」
王の胃はいよいよ未知の領域に突入していく。
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道安は謎の自信で自分は殺されないだろうと言った。
誘拐され目覚めてからずっと牢におり、看守とケラク以外と会話することもなかった道安が、なぜ自信を持ってそう言い切れるのか、正直理解できないでいた。
しかし、女神の奇跡により王城へ帰ってこれるということは、もしかしたら自国よりも魔王国のほうが安全かもしれない
さらに、考えたくない想定だが、仮に道安が魔王軍に奪われ、さらに洗脳されたとして被害は限定的だ。
圧倒的武力を持つ二代目勇者は言わずもがな、元軍人を大量に洗脳(?)して率いている初代勇者に比べれば、三代目勇者である道安は「眼に見える脅威」をほぼ持たない。
結論、道安は単身魔王軍に潜入するという任務を負って旅立つことになった。
最後まで反対していた二代目勇者とギャン泣きしている王女、複雑そうな顔の教皇を見ると心が痛んだが、決定を下すのは王で、送り出されるのは勇者。
これだけ愛されている道安だが、彼には勇者としての任を全うしてもらうより他ない。
(……しかし、だ)
悲壮感もなく、飄々とした足取りで小さくなっていく道安を見送りながら、王は一人思う。
(……あいつ、もしかしたら魔族もことごとく坐らせてしうまうのではないか?)
王女。
二代目勇者。
教皇。
そして、この私。
自分で言うのもなんだが、このひとクセもふたクセもある連中を、それぞれの立場そのままに坐らせてきた男なのだ。
もはや、人間か魔族かなどという区別も意味をなさないのではないか?
そうだといいな。まぁ、国教は女神教のまま変えるつもりはないが。
不安五割、達観四割、もしかしたらという期待一割。そんな思いで、王は城へ戻って行った。




