気配なく坐る禅僧
信仰といえばだが。道安は教皇が祈りはじめた一日後にひょっこり帰ってきた。
道安が自力で帰ってきそうにないので、失踪から一週間と三日後、王は情報共有の範囲を一段階広げることにした。
相手は女神教の上部層。奇跡の力によって道安を再召喚することなどができるのではないかと考えたからだ。
「確かに事例がないわけではありません。勇者が召喚されるのは決まってこの女神廟ですが、既に召喚された勇者が再度女神に呼び出されたという伝承はいくつかある。そう考えれば、彼が再び現れるとしたらこの女神廟になります」
あくまで呼び出すのは女神様。確証は持てません。そう前置きした教皇は洗練された動きで女神とされる少女に祈りをささげた。
祭典で見せる祈りよりどこか真剣に見えるのは、この王の前からなのか、それとも女神の前からなのか。なんだ、意外と宗教家ではないか。
それでも道安は帰ってこなかったので、とりあえずその日は解散。次の日にもう一度祈ってみることになった。
しかし、やはり道安は帰ってこない。
「……祈りが届けば良いのですがなぁ……」
祈りを捧げても二人(三人?)しか居ない空間で、教皇は申し訳なさそうに言う。
「気にするな。女神教を頼りにしていないわけではないが、ホージョーサンにはホージョーサンの力強い信仰がある。女神の加護と合わせて、それがきっとホージョーサンを救ってくれるだろう」
本気でそう考えているわけではないのだが、組織のトップ同士だとどうしてもこのような会話が多くなる。まるで立場が喋っているような……
そこで王は急に、いかにもこれからイタズラを敢行しようとするような少年の顔つきとなった。
「ところで教皇よ。女神教の祈りももちろんありがたいものだが、いつでもどこでも坐るあいつのことだ。もしかしたら坐禅をしたら帰ってくると思わんか」
「そんなわけないじゃないですか………と言いたいところですが」
そう言いながら、適当な壁に向かって教皇は坐りはじめた。
「ちょうど、私も同じことを考えていたんですよ。そして、根拠はないですが、女神様なら坐禅してる我々を見て、呆れつつも手を差し伸べてくれます」
「……もしかしたら、女神様も既に坐らせているかもしれないな。ホージョーさんなら」
フフフ、と薄く笑った二人は、同じ師から習った同じ坐相で坐り始めた。
間に気配なく坐る道安に気がついた二人は死ぬほどビビり散らかした。




