無意識の法界定印
「ホージョーサンが魔王軍に連れ去られてから早一週間……手掛かりはいまだ無し、か……」
「幸い三代目勇者の存在は民衆に公開していないが、国としての重要人物を魔族に囚われた失態は、徐々に漏れ出しているでしょうなぁ……」
王は宰相と二人、執務室で溜息をついていた。
二代目勇者ことシンペーと三代目勇者ことホージョーサンは、前線といえどまだ過激な戦火に見舞われていない地域に駐屯していた。
次にシンペーに抑えてもらいたい防衛線と、ホージョーサンが立て直していた村が比較的近所だったので、しばらく別行動をしていた二人を合流させる手筈だったのだが、シンペーに合流するより先に魔王軍の者が勇者一行に扮し、ホージョーサンの居る村を訪問。
村に一切の被害はなかったが、それを信じたホージョーサンがウキウキで彼らに坐禅を披露したところ、後ろから首に手刀を喰らい、そのまま誘拐されたとのことだった。
ちなみにもちろん護衛は付けていて、交代で 24 時間護衛(と監視)をしているはずだった。
しかし護衛対象である道安に感化され、連日、朝課だとか作務だとか夜坐とかいう行事に付き合わされて、全員仲良く早寝早起きになっていたらしい。お前たちまで修行僧になってどうするんだよ。
寝不足のせいで咄嗟の誘拐に反撃できず、負けず嫌いが高じて無理やり結跏趺坐にいそしんだ彼らの足は棒のようになっており、魔族に追いつくことができなかったとか。悟ってる場合じゃない仕事しろ。
護衛どもの罪は普通に考えて重いものだが、ホージョーサンのマイペースっぷりを考えると厳しい処分にする気にもならなかった。適当な理由をつけて給与半年タダにし、直ちに道安捜索の任務に就かせることにした。
「しかしこんなことを言ってもいいのかと思いますが……囚われたのが二代目勇者殿でなくて不幸中の幸いと言えるかもしれませんな。彼に比べればまだ損失は少ないとも言える」
「あいかわらずお前は一言多いな……」
「し、失礼しました」
彼の言う通り、仮に二代目勇者のシンペーが捕まっていたら、国としての損失は計り知れないものになっていただろう。洗脳でもされて、兵器と言って差し支えないかれの力が我が国に向いたらチェックメイトと言って過言でない。
しかし、当のシンペーは責任ゼロだというのに、「俺がもうちょっと早く迎えに行っていれば……」とか言って軽い鬱になっている。実害がないと言えば、嘘になる。
「……とりあえず、いまのところこの情報は極秘とし、情報共有は最小限に留める。ホージョーサンは変わらず各村を回っているとし、シンペーもしばらく後方で温存しておけ」
「ハッ」
宰相が短く返事をし、部屋を出ていく。
いつまでこの事実を隠し通していられるだろうか。いつになったらホージョーサンは帰ってくるのか? いや、そもそも帰れるのか?
王は無意識に、彼に教わった法界定印を結びながら、頭の中でいろいろなことを考えていた。
ホージョーサンのことだから、きっと無事ではいる気がするが。
それでも、最悪の事態を考えられずにはいられない。シンペーは確実に取り乱し、軍勢にも無視できない影響が出るだろう。
しかし、王の中では、事実を知って泣きじゃくるであろうマショーダワでいっぱいだった。
そしてなにより、自分が思っているより私はホージョーサンを心配している。そのことが自分でも驚きだった。
「とりあえず坐りましょう……とか言って坐ったら、隣に現れたりしないか?」
試しに坐ってみるも、隣に見慣れた姿は現れなかった。




