コピー野郎
俺が護衛役に抜擢された理由は分かり切っていた。
二代目勇者ほどではないにせよ、ほとんどの人間よりも強いこと。 そしてその強さが、「軍人としての型から外れた」強さであることだ。
俺は軍に身を置いているものの、俺が得意とするのは軍の剣術ではなく、父の槍術そのものだった。父の槍術は有名だったが、モノにするまでの修練期間が長すぎるため、修めた者はかなり少なかった。
「俺が扱うのは槍なんだが、先端の刃部分をとってしまえばただの棒になる。これでも相手を殺せるが、殺傷能力は当然落ちる。試してみないと分からんが、しばらくこれでいってみよう」
俺も軍で習った剣を使うことはできるが、命のやりとりをする戦場では最も生存確率の高い手を使うべきだ。俺は遠慮なく槍を使い、武勲をあげ、生き残ってきた。
しかし、初代の王が伝説的な剣の名手だったとかで、軍では訓練・戦略・物品管理などが全て剣を中心に構築されている。そんな「規格外品」である俺が出世できるわけもなく、俺はずっとただの兵のままだった。
「……ありがとうございます」
三代目勇者が申し訳なさそうに合掌した。
「できるだけ善処するが、殺したほうが遥かに対象しやすいのは事実だ……最低限の自衛は心がけてくれ。せめて、俺より先に死なないでくれよ? 勇者を全力で守らなかったとして責を問われたくないからな」
「……はい」
冗談で和ませようとしたが、余計しょんぼりさせてしまったかもしれない。俺は慌てて話を変えた。
「冗談だ。俺はともかく、これを教えてくれた父は「本物」だった。大舟に乗ったつもりでいてくれ。ほら、そろそろ休憩にしよう。そこで、噂の腰に良いザゼンってやつを教えてくれよ」
「是非坐りましょう。場所はどこにしましょうか。あの巨岩の前がいいですねあそこにしましょう」
……急に元気になった。よかったよかった。
俺はウキウキしながら場を整える勇者に付き合って、隣に座った。
勇者の機嫌と引き換えに、俺の足は棒になった。
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盗賊の襲撃も何回かあったが、刃を外した槍でも撃退にまったく問題はなかった。他の護衛も武に秀でた者達なので、各々の方法で難なく敵を無力化していく。
近くの衛兵に奴らを引き渡すほうが面倒なくらいだった。
そんな日々の中、三代目勇者は、欠かさず坐禅を続けていた。
俺は俺で、毎日決められた修練をこなす。決められた型を、決められた順番で、決められた回数こなす。
俺たちは、結構似ているのかもしれない。 しかし、彼は勇者で、俺はただの兵だった。
軍での陰口を思い出す。
剣中心の軍に適した形の槍術を考案することでもなく、軍式の剣術と習得の難しい槍術を組み合わせた、総合武術を興すわけでもなく。
父の真似しかできない「コピー野郎」だと。
この護衛の旅では、そんな声は聞こえてこない。はじめは快適だった。
しかし、この三代目勇者は、俺のことをどう思っているのだろうか。 実は俺が軍につまはじきにされ、父の真似しかできない哀れな男だと知ったら、失望するのではないだろうか。
「知ってると思うが、俺は父の真似しかできない、いわば劣化コピーだ。そんな者があなたの護衛をしている。それを不満に思わないのか?」
ある日、いつもの坐禅を終えた三代目勇者に、思い切って聞いてみた。
彼は足をほぐしながら、ほとんど間をおかずに答えた。
「武芸には明るくないのですが、私の持つ教えから見て、あなたのありようは理想的だと思います」




