女神をよろしく
正直、なにか効果を得たという確信はない。やはりこの男、適当ではなく緻密なホラを吹いているのではないか? と大きく疑っている。
それでも、坐っていると、想像の中の女神様が、苦しみとともに溶けていったように感じた。地下室に眠るような無表情ではなく、女神像のような安らかな表情で。
「常日頃祈っているあなたになら分かるはず。こういった型にはめる修行は、続けることが大切だと。毎日少しでも坐ってみてください」
「……で、結局いつまで坐れば、私に必要な教えだったのか、それとも君がただの詐欺師かと分かるのかね?」
「坐禅はいつまで坐ればいいというものではありません。ゴールを目指すのではなく、坐る姿そのものに意味があるので。とりあえず坐ることです」
卑怯だな、と思わず毒づいてしまう。それではいつまでもこの詐欺師かもしれない男を断罪できないではないか。
「今日はずいぶん喋りましたが、ぶっちゃけ全部忘れてもらってもいいです。坐りつづけてくれれば、それに勝るものはないので。いや積極的に忘れてもらっても悲しいですが」
「……フフフ、ちょっと何言ってるかわからないですが。少なくともあなたが口からでまかせを言っている。そうではないことは分かった気がします」
過激な手段を決意し、激昂したというのに。ほんの少しだけ、坐ることに賭けてみてもいいのかもしれない。そう思ってしまった。
彼の言うロジックが完全に正しければ、負けたことはいずれ分かりそうなものだが、賭けに勝ったことは死の瞬間まで分からないのだろう。死んでも分からないのかもしれない。
「せっかく教えてくれた坐禅ですが、私は自身の信仰を捨てるつもりはありません。そして依然、この世界は人類が統べるべきだと、それが女神教のあるべき姿だと信じています」
「それは私が問題とすることではありません。私が問題するのは、今、目の前にいるあなたが少しでも苦しみから解放される。それだけです」
「……それはありがたいことです。信じてませんが、あえてあなたの話に乗るなら、私なんかより、女神をよろしくお願いします」
「ご心配なく。女神は私が責任を持って坐らせます」
「信仰の強制はよくないですよ……では、本当に時間がギリギリのようです。またお会いしましょう……」
「また会えるのを楽しみにしています。今度は女神もおススメするほうじ茶を持っていきますよ」
「フフフ、なんですかそれ……」
女神が真水以外のものを口にするわけないじゃないか。そう笑いながら、私は部屋を後にした。




