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怪僧→陰キャ→怪僧

「また勇者が貴族に手を出しおったか……」

報告を聞いた後、王は深いため息をはいた。これで子を身ごもられると話が一気にややこしくなる。


現王政は安定しているとは言えないものの、勇者が魔王領を少しづつ取り戻していることにより、少なくとも右肩上がりであることは確かだった。


民衆の不満は勇者の召喚に成功した聖女教と二人三脚で抑えることに成功したし、自分の代では無理でもあの若造勇者はいずれ魔王を討つだろう。最初は陰気な青年だったはずが、今のあれは明らかに兵器の類である。


いきなり魔王を討たないようにしているのは、魔王軍に余力を残さない状態で王手を打ちたいからだ。まだ余力があるうちにトップを潰しても、かの実力主義である脳筋どもは代わりの頭を据えて反撃してくるに違いない。

現魔王の盤面の動かし方はまるで人間の王のようで緻密で、戦略的なものを感じる。厄介ではあるが、むしろ意図が読みやすいぶん、こちらがある程度コントロールできる相手とも言えるだろう。こちらとしても話が通じるうちに下積みをしたほうが良い。


しかしそれでは民衆の鬱憤は溜まるというもの。そこで勇者には特に被害が大きい、防衛線に近い辺境で戦果を挙げてもらっているのだが……。


「まさか戦火の激しい辺境の地にまで娘を潜り込ませるとは……あの狸ジジイめ」


勇者は強い。それなのに、海千山千の猛者とは真逆の純粋さがある。世界の危機に手を貸して欲しいと直々に「説明」したところ、驚くほど簡単に協力してくれるようになった。

普段は腹に一物二物持っている連中とばかり交渉しているため逆に芝居を疑ってしまったが、今回の勇者はあまりにも都合が良い「アタリ」だったと言えよう。


しかし、勇者は自分の下半身に大きな弱点を抱えているのが唯一の欠点だった。純粋すぎて、悪意ある好意と己の欲を疑うことを知らないのだ。


「勇者殿は剣の腕前も見事だが、槍も積極的にあつかうのですな笑」

苦笑いしてそう語る宰相の鼻っ柱をへし折りたかったのがつい二週間前のことだ。まぁその娘の親はもともと黒い噂の絶えない下級貴族だったので、既に抑えていたネタを使って失脚させたが。


ぼちぼちではあるものの、既に王政内では魔王軍に勝利した後の各種調整・計画が始まっている。

その中でも魔王を打ち倒すであろう勇者の待遇は今後の政治に無視できない影響を与えるだろう。娘しか居ない王が王配も視野に入れていることは、公言こそしていないものの誰の目にも明らかだった。


しかし、革命を企ている貴族どもにとって勇者の存在はまさに僥倖。自身たちの娘が既成事実さえ作ってしまえば、政治の中心が一気に近づく。適当なストーリーさえでっちあげれば民衆は勇者の慶事に沸き、熱狂するだろう。


おまけに最初陰気だった勇者は自信をつけてからというもの見事な二枚目となっていた。政治関係なく貴族の令嬢達が熱視線を送っているのであるから、親達としてもさぞやりやすいであろう。


というわけで、かつて魔族軍に対しての諜報戦を主な任務としていた、王直属の影の者たち。彼らは今、専ら勇者に仕掛けられる敵味方によるハニートラップの事前防止に奔走していた。


「魔王問題は解決しても、これじゃあ後が大変なことになるじゃないか……」


王はストレスによる胃痛に悩まされたながら独り頭を抱えた。


勇者は女神教の教皇により、民衆の信仰力を使用して年に一度召喚できるとのことだ。魔王軍の侵攻が激化してきた二年前に最初の勇者を召喚した。


そのときは勇者による単騎〜少数パーティによる進撃なぞ非現実的だと思ったので、むしろ連合王国軍を従える指導者として適性のありそうな勇者を召喚するようにリクエストした。ある程度の人物指定はできるようなのだ。


魔王軍の勃興によって急ごしらえで組まれた連合王国軍は、ぶっちゃけ烏合の衆だった。わが国の軍は確かな奇跡で信仰を集める女神教のもとにある程度統率が取れているものの、異国の異教者な違う理論で動いており、連合王国軍とは言っても統率が取れているとは言い難い状況だった。


身体能力よりも精神的支柱となる、異教者も喝破し導いてくれるような勇者を求めた。


結果、妙な布を纏ったハゲが来た。手を貸してくれるよう「説明」をすると、途中で「喝ァツ!!」とか言われた。なんなんあのハゲ。その後問答を続けるも、話が噛み合うことはなかった。片手の音ってなんだ?


明らかに「ハズレ」を引いたと思って、諦め半分で軍の訓練を任したところ、なんと嘘みたいに軍が纏まった。


というか、


・命令なしで動きが揃った

・なぜか全員が同じタイミングで突撃した


といった、ある意味不気味な奇跡が起きたのだ。奇跡と呼べない頻度で。


何故か影響された兵隊長まで話が噛み合わなくなったのが心残りだが、木の棒を肩に叩きつける謎の修行で軍の心は一つになったようだった。


しかしこれは思わぬ幸運、と思っていたのも束の間、では実戦に投入するかという直前で、軍の四分の一が頭を剃ったかと思えば、勇者はそいつらを連れて遠くの山へ籠もってしまった。なんなんあのハゲども。


以降、使者を送ってもトンチンカンな答えしか返ってこないまま、一年が経ち、今度は余計な知恵を持たないかわりに大きな戦闘力を持ちうる勇者を求めた。この勇者は下半身に重大な脆弱性を抱えているものの、概ねよくやってくれていると言ってもいいだろう。


しかし、その勇者が召喚されて丁度一年。次の新しい勇者を投入するタイミングとなった。


今回の勇者には何を求めるのか、もう腹づもりは決まっていた。


余計なことは語らない、扇動しない、話を遮らない、現勇者の下半身を潔癖とは言わずとも正しい方向に導いてくれる人格者。


正直武力はもう間に合っているので、今年の勇者は今の勇者×2 をどうにかする方向で召喚することにした。


現勇者を良い方向にコントロールし、旧勇者を納得させ軍隊を返してもらえるような、それでいて王政に余計なことを吹き込まない無口な男。


王は胃痛とともに、召喚の儀を期待を込めて見守っていた。現時点でこの国はだいぶ勇者に救われてはいる。だが願わくは、勇者が原因で生じた問題は同じく勇者に、あとできればこの胃痛も、今回の勇者に救って欲しい。


祈る王の目の前に現れたのは、記憶と似ている妙な布を纏ったハゲだった。


終わった。王は胃から逆流する胃酸を感じながらも、努めて荘厳な威容を崩さず挨拶から「説明」に入った。


「喝ァツ!!」は飛んでこなかった。


これはもしや? と少し胃痛の遠のいた王は「説明」を終える。

「して、人類の未来のため協力してくれまいか?」

「……」

「……?」


目は開いているが、妙な座り方のまま、微動だにしない。


「…………」

「…………あ、あのー……」

「…………………………」


おもわず、後ろでなりゆきを見守っていた宰相と顔を見合わせる。


「……生きておるのか? 死んでおるのか?」

「陛下、もしやこれは……『沈黙こそが最大の肯定』という高度な政治的メッセージでは?」

「(胃を押さえながら)絶対違うと思う……」


終わった。王は胃に穴が空く感覚を静かに噛み締めていた。

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