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異世界禅僧はとりあえず坐る  作者: ホゲファイブ
教皇編 ― 超越か実存か
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ハリボテの信仰心

「……これが、『女神様』?」


「そうだ。いつからかは分からんが、ずっと死んだように生きているこの少女が『女神様』だと伝わっておる 。そして、勇者召喚のための『儀式』も」


先代が語るところによると、その少女はかつてより女神教が純粋な力を持った時代に、儀式によって「女神」となったという。


普通の人間でありながら最も純粋な信仰心を持った彼女は、世界の均衡を保つために自身が「実存としての女神」となるために人身御供となった。


それだけ聞くと信仰が生み出した残酷な伝承のように思えるが、事実目の前の少女は死んでいるようで死ぬことなく、その身を保っているそうだ。


「そして事実、歴代の勇者はこの祭壇の目の前に現れるという」


「……正直、信じられません。女神は超越的存在だからこそ、救いの象徴だったというのに」


「儂にも本当のところは分からん。しかし魔王が現れ、いよいよ国々が手を組んだとするなら、ここらが奇跡を実現する好機じゃろう……任されてくれるな? 教皇よ」


突然現れた「女神様」を前に。私の決して曇ることのなかった信仰心が、初めて揺らいだ。


----


神は手の届かないところにいるから神。決して卑近な道具ではない。


拭えない違和感を感じながらも国を挙げて執り行った勇者召喚の儀はあっさり成功に終わった。現れたのが勇者というより怪人だったのは国王の注文のせいとは言え、それでも「女神様」の前に「勇者」現れたのは間違いない。


数少ない事情を知る神官長たちは、程度の差こそあれ、伝承の正しさに感動し、無事女神教の面子が保たれたことに安堵していたようだった。


同じ気持ちを覚えなかったかと言えば嘘になる。


しかし、「女神様」の真実がこうも「実存」によっていることについて、あまりに不敬だが――私はどこか「がっかり」していた。


普通の人間が「女神」に転生して、勇者に「神託」を授けるという秘密の伝承。確かに魅力的な「システム」だ。


だが、「実存」としての女神様を知った私には、「都合の良いストーリー」だとしか思えなかった。


例えばだ。


奇跡を受けるための器として、たまたま「少女のようなもの」がある。


そこに、たまたま「女神の神託を覚えている人間のようなもの」を自動生成する仕組みがある。


誰の仕業か分からないが、「女神教」の説得力をもたせるための、舞台装置。


どちらにせよ今の力学・魔法学では説明できないが。 これは舞台装置と考えた方が現実的ではないか? 


そんなはずはないと、いくら女神像に向かい祈っても、この考えを否定する気にはならなかった。


「人を統べる手腕が無い者に教皇は『勤まらない』。かといって女神様を信じきれない者にも教皇は『耐えきれない』。儂の目には、君以外に次期教皇はいなかった」


先代は私の肩を叩きながら、そう言ってくれた。しかし、私の信仰心は、既に骨格だけは立派なハリボテと化していた。


「『教皇は太陽、皇帝は月』という言葉がある。勇者という矛を振るうは王かもしれんが、太陽は我々女神教。それが儂から最後の説法じゃ。あとは任せたぞ」


「……おまかせください。勇者とともに女神教が人類による統一と繁栄を成し遂げる。そんな未来を、私が創っていきます」


信仰心ではなく、相手がどんな答えを欲しているか。それだけのテクニックを用いて、私は先代に答えた。

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