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異世界禅僧はとりあえず坐る  作者: ホゲファイブ
教皇編 ― 超越か実存か
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教皇、坐る

「はじめまして、ホージョーサン。私は女神教で教皇を務めさせていただいております。イーケンです。王より話は聞いていますよ」


「はじめまして、イーケンさん。聞いているのなら話が早い。とりあえず坐りましょう」


本当に坐禅をすすめてくるとは。武力はまったくないとは言うが、只者でないとの評は確かなようだ。


「ははは、本当に聞いた通りで驚きましたよ。しかし申し訳ないことに、半刻近く時間をとることは難しい。不躾かもしれませんが、坐禅というのは少しの時間でも体験できるものでしょうか?」


「もちろんです。短い時間だから悪い、というものではありません。形を整えるだけでも立派な修行と考えています。ではわずかな時間ですが」


そして、頑固者でもないと。より忠実に教えを守る自分に酔い、周囲に押し付ける幹部どもに見習わせたいな。


そんなことを考えながら、彼の指示通り、床に直接座ってみる。なるほど、我々の場合女神像に向かって膝をつく形だが、彼らの場合は壁を前にするのか。祈りに余計な視覚情報を紛れ込ませないといったところか?


「形ができ、呼吸を整えましたら、浮かんでくるものを、追いかけないでください。とは言っても頭の中に思念は浮かんできますが、全て手放してください。考えず、川に流すように」


なんと、祈ることはしないのか。では、何が目的でこの姿勢を……


「目的を持ってはいけません。こうしなければならない、といったはからいは不要です。……うん、よさそうです……そのままちょっと坐り続けてみましょうか」


無意味。あまりにも無意味。


組織の頭としての私が、この男の指導なぞ従う必要なし、と警告を鳴らす。


しかし、一宗教家としての私が、あなたが最初に女神に跪いたときも同じだったでしょう? と諭す。とりあえず実践すべきだ。


「……」


無駄にするのはたかが短時間。それで相手の親近感を買えるのであれば、むしろ安いものだ。そう思って、私は彼の指示に従うことにした。


----


「本来坐禅に良いも悪いもないのですが。それでも、見事な坐想だったと思います」


「これはこれは、その道の人から見れば拙いでしょうが。それでもお褒めに預かって光栄です」


確かに頭がすっきりとした気はするが、騙されてはいけない。これは宗教が使う定番テクニックだ。


宗教家は根拠の乏しい幻想に邁進する無能力者と見る向きもあるが、その実、実はさまざまなテクニックを持っている。


「人間は思いのほか姿勢に心が引っ張られる」ことに最も自覚的なのは宗教家だろう。


これを利用すれば、初めて宗教的儀礼を体験させた人間の思考を誘導するのは難しくない。


おそらく、この男はこの「坐禅」なる技術を用いて人間の心を誘導する術に長けているのだろう。なるほど、ようは詐欺師の類か。

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