コント「とりあえず坐りましょうか」
「……で、その平べったい板はなんなんだホージョーサン」
「畳という、いわば床です。なくても坐ることはできますが、やはりこれが下にないとしっくりきません。王のぶんも持ってきましたよ」
違う世界から来た勇者に対して無礼を咎める気はないが、王の前に床材を持ってくるってどうなの?
というか、三日くらいどこに行ってたの?
「話から先に始めますか? それとも坐ってからにしましょうか?」
「急ぐ話だから、悪いが坐禅は無しだ」
それは残念、と、彼はタタミを敷いて座りはじめた。
そういえば裸足だぞコイツ。なんで玉座に座っているこちらより偉そうなのだろう。
「………今回呼び立てたのは、女神教がホージョーサンに対して本格的に動き始めた件についてだ」
あらかじめ女神から要点を聞いていた道安は冷静にうなずいた。
「まず率直に言って、私と現在の王政はホージョーサンを評価している。別の角度から言えば、問題にしていない、とも言える」
「それはなによりです」
「シンペーの教育についても同様だ。彼の武力は強力ゆえコントロールが必要だ。想定より早く、その役をホージョーサンが担ってくれた」
実は、想定より早いのには理由がある。
マショーダワの心酔っぷりを目の当たりにした王は、娘の旦那が「とりあえず坐りましょう男」になる恐怖に震えた。
勇者の称号を持っているから婚姻の資格があるのに、裸足で床材を持参してくるような男だ。
そこで予定よりだいぶ早めに二代目勇者へ道安を押し付けたのが真相だ。
それはさておき、王は続ける。
「女神教としては、直接シンペーを制御するのではなく、その手綱を引くホージョーサンを処理したいはずだ」
「私は断頭台に送られるのでしょうか」
「いやちょっと話が飛躍しすぎじゃない? 落ち着け? とりあえず坐るか?」
「ではお言葉に甘えて」
「王の冗談を真に受けるな無礼者」
少しは慌てているのかと思いきや、やっぱりいつも通りの道安。
ちょっと笑ってしまった王だが、すぐに威厳のある表情へ取り繕う。
「……どんな無礼をはたらこうが、異教徒っぷりを発揮しようが、武力行使には出ないだろう。自分たち『奇跡』の体現であるし、我々が庇護する『勇者』なのだから」
「そういうものでしょうか」
「そういうものだ」
王政と女神教は一枚岩ではない。
政教は程よく分離すべき、というのは歴史の教訓としてこの国に伝わる大原則だ。
しかしどちらも民衆を土台とする巨大勢力であることに変わりはない。
政教が分離されているとはいえ蓋を開ければ、ある時は協力しあい、ある時は牽制しあう、といった複雑な関係となっているのが実情だ。
「……身の回りは私直属の者たちに守らせよう。そして、脅しの内容に関係なく、その場では何を了承しても構わぬ。先方の牽制に対処するのは我々の仕事だ。どうせ公式の決定事項にはならないのだし、その場では何を言っても問題ない」
「ありがとうございます……嘘をつくかどうかはその場次第ですが」
そう言いながら、道安は王から壁へ視線を移す。この流れは……
「対応は任せる。本日の用件は以上だ。……今の話を受けて、ホージョーサンはホージョーサンなりの準備があるだろう……すぐに取り掛かると良い」
「そうさせていただきます。では……」
そう言いつつも立ち上がらないで、足の組み方だけを変え始める。
――すぐに取り掛かると良い。
――何に?
自分で言った言葉を反芻しながら、王はプルプルし始めた。
完全にオチが読めた。
「――とりあえず、坐りましょうか」
「わかっていたけどもっっっ!!!!」
相手が女神教だろうが、この男ならなんとかしてしまうんじゃないか?
王は必死に笑いをこらえながら、道安を摘み出すため護衛の者を呼んだ。




