表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界禅僧はとりあえず坐る  作者: ホゲファイブ
教皇編 ― 超越か実存か
PR
33/94

雨宿りのしかた

女神の見た目はまさしく少女だ。


出会ってから何日か経ったころから、道安には彼女が少女に見えなくなっていた。


年齢の話ではない。


神か人間かという話でもない。


例えば、人生の酸いも甘いも経験として咀嚼した老婆が放つ、超然とした凄み。


そこから、余計な迫力と人間性だけを削いだような。


(言動は、ただの少女なのですが……)


動きと動きの間、僅かな間に、それを感じさせる。


道安は神などの超越的存在を信じていない。


信じていないとは、完全な否定ではなく、存在するかどうか断定しない、という意味だ。


しかし、仮に常識的な寿命を取り払われた人間が存在したとしたら。


(……そうだったとして、私がすることは変わりません)


目の前で作り笑いをする少女。


自分があれこれ語るより、ただ、隣で坐る。


結論は、変わらない。


----


道安に対してとっさに笑顔を返した女神は、すぐに他愛のない話を始めた。


道安が持ってきたホージチャの感想。作り方の質問。一緒に手伝ってくれた農夫の話。


久々の雑談は、普段頭の中を回り続けている想いを、坐禅とは違った形で遠ざけてくれる。


時間が、一人の時よりも、ずっと早く過ぎていく。


----


「スー……スー……」


昼夜も無い空間だというのに、正確な体内時計を持つ道安は「夜」の時間になるとさっさと寝てしまう。


かつて「床と壁さえあれば場所は問いません」と言っていた通り、彼はどこでもこの調子なのだろう。


(「変わらないものなんてありません」とか言って、あなたが一番変わらない人だよね……)


女神は一人、道安の寝顔を見つめながら、心の中で呟く。


変わらないものなんてない。それは、彼に教わる前からよく知っていた。


例えば、歴代教皇の祈り。


例外はない。


彼らの祈りははじめ純粋で、少しづつ、真摯で必死なものに変わっていく。


そして必ず、ポッカリとした穴が空くのだ。


そこからは、折れてしまうか、萎んでしまうか、もしくは空洞を空けたまま形だけは残るか。


(まるで、私の記憶と一緒ね……)


長い長い時間が経っても、忘れない記憶がある。


それでも、繊維のほどけた古い布のように、小さな穴が無数に空いて、それらは大きな空洞になる。


楽しかった。幸せだった。哀しかった。痛かった。苦しかった。


記憶の血肉だったそれら感情は。いつの間にか本に書いてある文字のような、ただの記号になってしまった。


それを哀しいと思う雨が、一人でいるときの心に降る。


「……」


女神は、寝ている道安の横で、一人坐禅を組む。


この不思議な男が教えてくれた、単なる姿勢と呼吸のしかた。


(……それが、なぜか雨をやりすごす)


雨跡は残る。


でも、なぜか、坐禅が私の心の雨宿りになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ