雨宿りのしかた
女神の見た目はまさしく少女だ。
出会ってから何日か経ったころから、道安には彼女が少女に見えなくなっていた。
年齢の話ではない。
神か人間かという話でもない。
例えば、人生の酸いも甘いも経験として咀嚼した老婆が放つ、超然とした凄み。
そこから、余計な迫力と人間性だけを削いだような。
(言動は、ただの少女なのですが……)
動きと動きの間、僅かな間に、それを感じさせる。
道安は神などの超越的存在を信じていない。
信じていないとは、完全な否定ではなく、存在するかどうか断定しない、という意味だ。
しかし、仮に常識的な寿命を取り払われた人間が存在したとしたら。
(……そうだったとして、私がすることは変わりません)
目の前で作り笑いをする少女。
自分があれこれ語るより、只、隣で坐る。
結論は、変わらない。
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道安に対してとっさに笑顔を返した女神は、すぐに他愛のない話を始めた。
道安が持ってきたホージチャの感想。作り方の質問。一緒に手伝ってくれた農夫の話。
久々の雑談は、普段頭の中を回り続けている想いを、坐禅とは違った形で遠ざけてくれる。
時間が、一人の時よりも、ずっと早く過ぎていく。
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「スー……スー……」
昼夜も無い空間だというのに、正確な体内時計を持つ道安は「夜」の時間になるとさっさと寝てしまう。
かつて「床と壁さえあれば場所は問いません」と言っていた通り、彼はどこでもこの調子なのだろう。
(「変わらないものなんてありません」とか言って、あなたが一番変わらない人だよね……)
女神は一人、道安の寝顔を見つめながら、心の中で呟く。
変わらないものなんてない。それは、彼に教わる前からよく知っていた。
例えば、歴代教皇の祈り。
例外はない。
彼らの祈りははじめ純粋で、少しづつ、真摯で必死なものに変わっていく。
そして必ず、ポッカリとした穴が空くのだ。
そこからは、折れてしまうか、萎んでしまうか、もしくは空洞を空けたまま形だけは残るか。
(まるで、私の記憶と一緒ね……)
長い長い時間が経っても、忘れない記憶がある。
それでも、繊維のほどけた古い布のように、小さな穴が無数に空いて、それらは大きな空洞になる。
楽しかった。幸せだった。哀しかった。痛かった。苦しかった。
記憶の血肉だったそれら感情は。いつの間にか本に書いてある文字のような、ただの記号になってしまった。
それを哀しいと思う雨が、一人でいるときの心に降る。
「……」
女神は、寝ている道安の横で、一人坐禅を組む。
この不思議な男が教えてくれた、単なる姿勢と呼吸のしかた。
(……それが、なぜか雨をやりすごす)
雨跡は残る。
でも、なぜか、坐禅が私の心の雨宿りになっていた。




