異教徒調査
「私から見て、彼はこの国に被害を与えるような男ではなさそうだ。しかし、それでも思想・常識・習俗によっては、予想外の角度から実害が出るとも限らない。女神教の視点から、三代目勇者が有益な存在なのか有害な存在なのか、見極めてくれないか」
国王直々に命が下ったのは、三代目勇者の召喚に成功してから一月が経とうとした頃だった。
既に三代目勇者は第二王女の篤い信頼を得ていると聞くが、正直期相談に来るのが遅くないか、と思った。思想汚染してからでは遅いのではないか?
しかし、国王や宰相、または影のものたちから共有された情報を鵜呑みにするのであれば、新勇者は基本的には「座って」いるだけだという。
もちろん疑問をぶつければ(座ったまま答えないこともあるらしいが)、彼なりの「ブッポー」で諭してはくるものの、総じて言葉による積極性はなく、ただ「座る」ことを促してくるだけの男だそうだ。
「確かに姿勢や作法、身体技法が思いのほか精神を引っ張るのはわかる。しかし、座るだけで解決できる問題など……どう考えてもたかが知れているのでは?」
女神教としての正しい作法、大小儀式の流れ、説法をするときの「ウケやすい」視線や抑揚のつけかたに至るまで 。
長いこと宗教家として務め、今教皇としての地位にある私の体にはそういった「型」が骨の髄まで染み付いていた。
しかし、身についたこそ分かる。
実際に人を動かし導くために必要なのはそういった「型」ではなく、結局は、
・宗教という自分の土俵で戦うのではなく、相手の得意分野に対する意図的なリスペクト
・謙虚に振る舞い、かつ主導権を渡さず、双方の妥協できる部分とできない部分を見抜くバランス感覚
・細かい連絡や訪問による「あなたのために時間は惜しまない」という演出
といった泥臭いコミュニケーションが全てだ。
それを「座る」だけで片付けるなど、確かに聞いたとおり、直ちに「実害」を生むような器ではないのかもしれない。
一宗教家としては分からんでもないが、教皇という、実質一ギルドの頭とそう変わらん立場から考えて、注視する相手にはどうしても思えない。
私は一般信者を装った部下に指示を出し、彼の調査・監視を丸投げして、本日予定されていた執務に戻っていった。
しばらくして、この国最大の兵器である二代目勇者が、三代目勇者を拠り所にしはじめている、という報告が入ってきた。
王政と潜在的反体制派貴族、そして陰ながら我が女神教がつかず離れずコントロールしてきた二代目勇者だが、ここにきて三代目勇者が完全にコントロールを奪ってしまった。
調査の結果、放置で問題ないと結論が出るくらいには無害な男だ。しかし、今は実害が出ていないからといって放置していいフェーズではなくなってしまったようだ。
「……国王に、謁見と相談の申し込みを。それと、『騎士修道会』の一部を、いつでも動かせるようにしておいてくれ」




