昔、アホなハゲがいた
「……夜坐がおススメで、尊い修行であることに嘘はありません。しかし、伝えるのが遅れたことは申し訳ありません。あなたを度々訪ねてきたであろう貴族の娘さん達。彼女達はもう来ません。本日は私と寝ましょう」
「????」
道安さん、やっぱヤバい趣味の人じゃないか。ヤだよ偏見はないけど、俺は女の子しか……
いや待て待て、そういう意味じゃなくて、道安さんのことだから僧堂で川の字になって眠るあれのことだろう。そんなことはどうでもいい。大事なのは前半部分だ。
「今王様より連絡がありました。少なくとも紛争地帯には、事前申請した軍組織以外を派遣するのは違法だそうです」
お坊さんの姿でインチキ西洋ファンタジー政治のドロドロを語るの、最高に似合わないなー……とか思いつつ、それをなぜ道安さんが語るのかの意味を考えた。
「……違法なのは置いといて、それを道安さんから言うってことは、つまり『教育』ってやつですか? 俺が『悪い』ことをしているから」
「あなたは在家の人ですから、男女の縁を結ぶこと自体を戒める気はしません。しかし、悪い縁というのは報いの形で現れます。慎むべきです」
「……なんで求めてきた女を受け入れることが悪いんですか? 同意の上だからウィンウィンじゃないですか」
「悪い縁は、必ず苦しみとなって現れます。例えば、あなたと親しくなった女の子が、他の男とも特別な関係だったと知ったら苦痛じゃないですか? それを、あなたは少なくない女性に対してしている」
「関係ないです。一時の相手が他の誰に盗られようと、俺は気にしません」
「それがどうして他人も同じだと言えます? そんなことが分からないあなたでは無いはずだ。それは、あなたの身を守るための嘘です」
「……悪いことだとして、それがなんです。善悪関係なく大きな力に振り回されるだけの世界で、誰かが不幸になったって俺には関係ないじゃないですか。所詮一人にコントロールできないっていうのが、仏教の教えでしょう?」
「……というのは?」
仏教の話にわざともっていって、即否定されるかと思いきや、道安さんは意外にも続きを促した。
促されたからには、俺も続けた。
「個人の努力ではどうにもならない。だから、全てを任せるしかない。この俺の、女神から授かったチートみたいにさ。結局自分でできることなんてほとんどないんだ。実際に好き勝手して虚しさを感じることはあるけどさ、それが一番いいに決まってるんだ。どうせみんな救われるなら。俺みたいな強大な力を持った個が、悪人ごと全て救えば良いんだ」
道安は、この青年の行動原理を断片ながら理解した。
宗派は違うから、消化器科が肺を診るかのようだが、僧侶を名乗る以上この間違いは正さなければならない。
見過ごしてはならない。
「…………かつて、自分をアホなハゲと蔑んだ大悪人が居ました。私はその大悪人の思想全てに賛同できません 。でも私は彼のことが好きです」
「……何の話ですか?」
「そんなアホなハゲの大悪人が、なぜ聖人と呼ばれるのか。なぜ、あなたは悪人のままなのか、それは明日坐ってからにしましょう」
そう言うと道安さんは先に俺の部屋へ向かっていった。怒っているかと思って追いかけたが、道安さんは驚くべき速さでミノムシのようになり、すやすやと寝てしまっていた。
俺はアホなハゲ以下って言いたいのか……? いや、わざわざアホなハゲって言うからには、アホなハゲが大暴れしていたのか……?
気になることは沢山あるが、怒りも虚しさも全て眠気が飲み込み、俺は意識を手放した。




