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異世界禅僧はとりあえず坐る  作者: ホゲファイブ
二代目勇者編 ― 悪人正機
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お坊さんの持つあの棒主役回リターンズ

「誤解しないように言っておきますが、警策とは叱るためのものではありません。雑念や眠気に負けてしまいそうな修行者を励ますためのものです。あと、大きな音がしますが、音ほど痛いものではないので。安心してください。私、プロなので」


道安さんは怪しい笑顔をはりつけ、その大きな謎の板を手でスリスリしながら近づいてきた。やっぱりこのおっさんヤバいやつだったんじゃないか? まさか人を正当な理由ではたきたいから仏門に入ったんじゃないだろうな?


「……そういう趣味ってわけじゃないですよね……?」


「? 何を言っているのか分かりませんが、私の趣味は精進料理を作ることくらいです。あ、最近は畳を編むのも楽しいですね。先ほども言いましたが、恋しくなったら差し上げますのでいつでもおっしゃってください。私にとってはそれすらも修行ですから。とりあえず、これはあなたの修行を助けるための棒です。昔は杖だったそうですよ、勇者にとってはどちらも蟷螂の斧でしょうが」


難しい言葉を喜々として使うやつはドSか変態だから気をつけろ――兄の同門であるカッチャンが常々言っていたことだ。カッチャン元気にしてるかな……。


「まぁ、とりあえず、心配することはなにもないということです。早速坐りましょう」


「あの、それはいいんですが、まだ坐るんですか……」


実は既に 40 分くらいを4セット、つまり合計で 160 分くらいは坐っていた。今は夕飯を食べて入浴を済ました後だが、その後も呼び出され、まさかお代わりがあったとは思わなかった。


「はい、坐りましょう。身体は堅そうですが、見たところ流石勇者は体幹が強いように見受けられます。通称夜坐と言いますが、寝る前に頭を空にするのもなかなかいいものですよ。効果を期待してやるものではないですけど、実際ね」


(まじか……もうかなり眠い)


この世界に来て、胸を張って善行だと言えることは、早寝早起きになったことくらいだ。


なんせ、魔法がある世界にも関わらず、夜になれば照明魔法なんかがあるかと思いきや日が沈めばみんな寝てしまう世界だ。江戸時代かよ。


いや、勇者たる俺なら魔法で火を灯すなんて朝飯前だが、発動し続けるってのが面倒なんだよ。


ウトウトしてたら髪に引火しかけたし。頭部がこいつみたいになるところだったし。


結局太陽に従って生活するのが一番効率的だったんだな……。


「いや道安さん、明日俺早いんですけど……」


「御心配には及びません。目覚ましタイマーよりも正確な私がこの鈴で走って起こしにいきますから。人間ですね、ある程度禅寺で過ごすとですね、タイマーなんか要らないんですよ鈴さえあれば」


カッチャンの言う通り、道安さんはドSか変態のどちらかだと思う。逆らうべきではないか……あんまり頭が働かないけど、従っておかないとこの人に鈴にされる気がする。


鈴にされるってなんだ? 眠い……


坐禅を始めるも、しばらくすると両手の親指が離れてしまう。


眠いので、雑念が一切湧かない点については完璧に思えるが、無に飲まれたら夢の世界に行ってしまう。


くそっ、このホッカイジョーインって、居眠り発見器としてこの形なのかよ……


そこで突然、右肩に鈴が触れる。いや、鈴じゃなくてあの大きな板の方だ。




パッッッッッッッチィィィィィン!!!!!!!


「ホギャァア」




勇者の出す声か、これが……


喜べ、道安さん。あなたはこの世界で初めて勇者たる私に一撃をお見舞いした英雄になったぞ。しかも情けない悲鳴付きだ。


哀れ勇者を騙っていたただの悪人は、真の勇者に倒されたのであった…………ほんとにあんまり痛くないな……。


「……終わりです。途中明らかに寝ていましたが、気にすることはありません。私も最初はよく叩かれたものです。本日はお疲れさまでした」


強制的にやらされている坐禅だが、寝てしまって申し訳なくなっていた。しかし、まるで怒っていない道安さんを見て、その罪悪感はどこかに吹き飛んでしまった。やっと帰れる。


もう風呂には入ったから、このまま寝よう……今日は女の子は来るかな……来るとしたら狙ったかのように夜なんだよな……。


そう思って、帰りの挨拶と、明日の予定を道安さんに聞こうとしたところ。


いつの間にか現れた諜報員みたいな覆面が道安さんに耳打ちをしている。


え、あれって王の直属部隊だったよね。なんで道安さんと内緒話? 俺なんかやっちゃいました?


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