二代目勇者、坐る
お付きの彼女から感じる複雑な感情を感じつつ、俺はベッドから起き上がってシャツに袖を通す。
彼女は俺がこの世界に来て最初に「親しく」なった女の子だ。
最初はあんなに幸せそうだったのに、最近は複雑そうだ。
気持ちは分かるが、俺は「来る者拒まず、去る者追わず」を守っているだけなんだが……
「……あの、勇者殿。新勇者殿は、あの……」
「あー、わかっている、俺と同郷なんだろ?」
「はい、そうです」
事務的な会話の裏を読み、ホントは私だけを愛してほしいんだろ? などと、我ながら思いあがったことを考えつつ、「教育者」が待つ部屋に向かった。
なにが教育だ。俺は求められたことに応える、いわばサラリーマンと同じことをしているだけなのに。意図的に悪事を働いているわけでもないのに。
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「お初にお目にかかります勇者様。とりあえず坐りましょう」
「……」
まさか新勇者様が、兄と同じく住職だとは思っていなかった。しかし、頭をツルツルにしているということは、兄と違う宗派だろう。
座るってあれか? 坐禅とかいうやつ?
「……住職さん、何歳ですか? 多分俺の方が年下なんで、そんな堅く話さなくても」
「つい癖で、ご容赦頂ければ幸いです。同郷だったら、余計に丁寧が無難だって分かるでしょう?」
「……まあ、そうかもしれないけど」
住職はわずかにほほえみつつ、振り返って俺と目線を合わせた。
そう、態度は思いのほか柔らかいようだが、この住職、俺が入ってきたときに顔も合わせず壁に向かって座っていたのだ。
なんだ、そのゲームの隠しボスみたいな演出。
「あと、私は特定の寺に属しているわけではないので、住職という呼び方は正確ではありません。和尚さんで構いませんが、個人的には方丈のほうが好きですね。そうそう、この前王様に一方丈の空間を用意してもらったんですよ。イグサみたいな草を見つけたので、干して編んだら完璧に整いました。畳です。増設したら分けてあげますね」
無口な男と聞いていたが、大分テンションが高い。畳のせいか、同郷の俺のせいか。
「……いや、それより、せっかく同郷なんだから名前教えてくださいよ……隠しているわけではないんでしょ?」
対して俺は、いつもより暗いトーンにならざるをえない。前世では、自分より年上の男性は無条件で苦手だった。
この世界の人間は不思議ととるにたらない存在に思えるが、同郷出身と聞くと本能が「前世」に戻ってしまう。
「これは失礼。私は道安と申します。得度した後の僧名ですがね。あなたは?」
「……親平。したしいって文字にたいら。前世のみんなはそのままシンペーって呼んでたよ」
「ではシンペーさん。よろしくお願いします。王命により、あなたの教育係を承りましたが、王本人も私が教えた上で下された命です。王も私の教え方を承知の上でしょう」
「なんの話しですか……?」
「つまり問答は不要ということです。あなたも私に小うるさく説教されるのなんて望んでないでしょう? とりあえず坐りましょう」
聞いたことがある。言葉で説くのではなく、ひたすら丸い布団の座っているだけの宗派があると。道安さんはその宗派の人のようだ。
「……あの、坐るのはいいんですが、なんでですか? なんで坐るんですか?」
「目的はありません。坐る姿そのものが修行であり、悟りそのものです。言葉の説明では誤解を生むかもしれません。不格好でも気にすることはありません。とにかく坐りましょう」
思っていたのと大分違う方向でめんどくさいのが来てしまった。どうせ来るのが女の子だったら篭絡してなぁなぁにできるのに……
そこまで、考えて、俺は前世の女に関しては何一つ思い通りにならなかったことを思い出して、少しだけいやな気分になった。こっちに来てまだ一年くらいしか経っていないのに、随分偉くなったものだな……。
キラキラした目でこちらの姿勢を直すおっさんを眺めながら、この嫌な気分を流してくれるのなら、このおっさんが来た意味も出るのかな、とこれまた偉そうな感想を抱くのだった。
そして、道安さんは坐禅の作法を教えてくれた。俺の姿勢を丁寧に直し。呼吸を一緒に整える。
さてこれから無言タイムか。
そう思っていたら、道安さんはギラギラした目で大きな謎の板を取り出した。




