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第7話 要注意人物リスト第1号

 拓馬は、初対面の山本を見つめながら、こんな人間は僕の18年の人生で初めてだ、と率直に思った。

 初対面の人にいきなり機関銃のように、しかも、こちらが訊いてもいないことをラジオのように一方的に話す······。


(この人に捕まったら延々と話を聞かされそうや)


 拓馬は、自分の中に『要注意人物リスト』を立ち上げ、さっそく山本を加えた。

 山本は、記念すべき第1号になった。


 杉野がニヤニヤしながら拓馬の肩をポンと軽く叩いた。


「山本は車に詳しく、ピット作業に関しては僕よりも仕事が早い。車のことで、わからんことあったら山本を頼ればいい」


 杉野の言葉に、拓馬は内心「えっ」と驚いたものの、とりあえず「はい」と返事だけしておいた。そのとき、山本がまだ自分を見ていることに気がついた。目を合わすと機関銃トークの掃射を受けそうなので、杉野に顔を向けて視界から山本を消した。

 その直後、背後から背中をツンツンと優しくつつかれた拓馬は反射的に振り返ってしまった。その瞬間、内心「しまった」と思ったが手遅れだった。

 拓馬は、再び山本と目が合った。


「財前君。車のことならなんでも僕に質問してくれていいよ。懇切丁寧に教えてあげるから······」


「はい、ありが······」


「ちなみに僕の初めての車はカローラで水色だったんだ。水色といえば、水の色と思うかもしれないけど、僕の車は空の水色で、まるで4月の雨上がりの空なんだよ。4月といえば花粉症だよね。僕の初めて花粉症は······」


 山本は拓馬の言葉を遮って話し続ける。話しているときの山本は楽しそうで、目はアーチのような形になっている。

 拓馬は呆れたように山本の顔を見つめた。


(山本さん、絶対にカノジョいないだろな)


 会話のキャッチボールどころか自動球出しボールマシンのように一方的に話し続ける山本。高校卒業したばかりの18歳の拓馬でさえ、こういう男はモテないに違いない、と素直に思えた。


「山本君、そこまでだ」


 杉野が山本を制止すると、山本の機関銃トークが止まった。


(さすが店長! 山本さんのボールマシンを止めたわ!)


 拓馬は、ニヤついている杉野を半ば尊敬に似た眼差しで見つめた。


「山本君、もうすぐオイル交換のお客さんが来るから準備したってや」


 杉野が口にした『オイル交換』という言葉に山本が素早い反応を示した。先ほどまでのアーチ状の目が、大きな一重の鋭い目に変わり、顔全体が引き締まって凛々しくなった。


「オイル交換、了解しました!」


 山本は気合いを入れて頷くと、背筋をまっすぐ伸ばしながらピットへ向かって歩いていく。拓馬は、山本の背中を見つめながら、その豹変ぶりにまたしても驚かされた。

 杉野は、半ば呆気にとられている拓馬に気がつくとニヤリとした。


「どうや、財前君。うちの店は神酒ちゃんといい、山本といい、変わり者ばかりや。これからのバイトが楽しくなるでー」


 拓馬は杉野の言葉に違和感を覚えた。


(いや、赤羽さんは普通だと思うけどな)


 拓馬がそんなことを考えていると、杉野が拓馬の左肩をポンと軽く叩いた。


「財前君、何を悩んどるか僕にはわかるで。山本君のことやろ。あの一方的な喋りに対して不安を抱いとるんやろ」


 杉野の予想は外れていたが、山本に対して抱く拓馬の不安は的中していた。


「え、ええ。まあ······」


「そうやと思ったわ。じゃあ、とりあえずお客さん来るまで待機しとって」


(なんや、突き放すんかい!)


 てっきり山本への不安を解消してくれるアドバイスをもらえると期待していた拓馬は、残念そうな表情で杉野を一瞥した。


 杉野はレジ横にある接客用の机に再び腰を下ろすと、途中だった事務作業を再開した。

 拓馬は、杉野が事務作業を再開したのを確認すると、山本がいるピットの方向をチラ見した。ピットの山本は工具の清掃をしている。

 次に従業員休憩室の方向をチラ見した。そこでは、神酒が簡易ソファーに座りながらローテーブルに並んだ伝票を整理している。


 拓馬は、ため息をついた。


(もし、いま客が来たら、真っ先に向かわなあかんのは僕かー。初めての接客は緊張するから嫌やな)


 拓馬は、今日一日お客が来ないことを願った。しかし、商売の神は拓馬ではなくガソリンスタンドに味方した。1台のカローラフィールダーが、ゆっくりとフィールドに入ってきた。


(まだ待機しとらへんのに!)


 拓真は、身構えた。






(つづく)

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