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第6話 突然の、機関銃

 杉野から差し出されたコンビニ袋。その中には車のタイヤに潰されたおにぎりが入っている。

 拓馬は、杉野が差し出したコンビニ袋を呆然と見つめた。


「ほら、財前君。まだ昼飯が決まってないんやろ。これあげるわ」


 椅子に腰掛けている杉野は、拓馬を見上げながらニヤリと笑みを浮かべた。

 そのとき、神酒が店内に戻ってきた。

 神酒は、コンビニ袋を拓馬に差し出している杉野を訝しげに見つめた。


「店長、なにやってんですか?」


「おー、神酒ちゃん。あのな、財前君が昼飯をまだ決めてないって言うから、これをあげとるとこなんや」


 杉野は満面の笑みで答えたが、なぜ彼が満面の笑みで答えられる状況なのか、神酒には理解できなかった。


「これって、中身は潰されたおにぎり······ですよね?」


「うん、そうや。梅おにぎりと昆布おにぎりが混ざりあって美味そうやんか」


「混ざりあって······て。これ、タイヤに潰されたんですよ! 汚いじゃないですか! それを財前君に食べさせるんですか?」


「あかんのか?」


 杉野は、神酒の言い分が理解できない、といった感じで不思議そうに彼女を見つめた。


「あかんに決まってるじゃないですか! タイヤに潰された段階で、もう食べ物じゃなくゴミになったんですよ? それを財前君に食べさせようなんて、いくらなんでも酷すぎます! でしょ? 財前く······」


 神酒は語気を強めて杉野を批判したあと拓馬に顔を向けた。しかし、拓馬の思わぬ行動を目にした神酒は言葉を失った。


 拓馬は、いつのまにか杉野からコンビニ袋を受け取り、潰れて混ざりあったおにぎりを指先でつまんで口に運んでいた。


「食べとるんかい!」


 神酒は驚きのあまり声を出すと、信じられない、という目つきを拓馬に向けた。

 拓馬は、潰れて梅と昆布が混ざりあったおにぎりの残骸を口にすると首を傾げた。

 神酒は、ゴミ同然となったおにぎりを食べてしまった拓馬を心配そうに見つめた。


「財前君、大丈夫?」


「あ、これ、美味しいです!」


 拓馬の表情がパッと明るくなった。そのまま、さらに二口目を口に運ぶ。


「ほら、そうやろ。タイヤに潰されたおにぎりは昔から美味しいってよく言うんや」


「そうなんですか! 良いこと教わりました!」


 杉野の言葉に対して、拓馬が目を輝かせながら、うんうん、と頷いた。

 神酒は呆れた表情を浮かべた。


「もう知らんわ。店長、私、裏で伝票整理してますね!」


 神酒は、2人には付き合っていられない、とばかりに頭を振りながら従業員休憩室に入っていった。


 結局、拓馬は潰れたおにぎりをたいらげてしまった。その様子を見ながら、杉野は満足そうに頷いた。




「おはようございます」


 突然、店内に低い声が響いた。

 拓馬は背後から聞こえた挨拶に反応して振り返った。すると、そこにはデテオスの青いキャップ帽と青いツナギ服を着た浅黒い肌の男が立っている。細身で、身長は拓馬と同じくらいだ。

 浅黒い肌の男は、無表情で拓馬を見つめている。


「あ、おはよう、ございます」


 拓馬は、相手の服装からしてガソリンスタンドの店員だと察して挨拶を返した。


「おー! 山本君、おはよう。彼は今日からうちの店で働く新人の財前君だ」


 杉野は立ち上がりながら「山本君」と呼んだ浅黒い肌の男に拓馬を紹介した。浅黒い肌の男・山本は、拓馬を無表情で一瞥すると、無言のまま従業員休憩室へ歩き去った。


 拓馬は振り返って、従業員休憩室へと入っていく山本の背中を見つめた。


(機嫌悪いんかな?)


 拓馬はそう思うと、その答えを求めるかのように杉野に顔を向けた。杉野は拓馬の不安そうな顔を見ると、ニヤリとした。


「まあ、見とってみ」


 杉野は笑みを浮かべたまま拓馬に告げた。


「おはようございます」


「おはようございまーす」


 従業員休憩室から山本と神酒が挨拶を交わす声が聞こえた。その直後、カシャンという音が微かに響いた。


 拓馬が従業員休憩室の開け放たれたドアを見つめていると、山本が浅黒い顔を突き出すようにして現れた。

 山本は拓馬を無言のまま見つめる。拓真は意味が分からず動揺した。

 そのとき、突然、山本の表情が動いた。

 笑顔になった。一重の瞳がアーチのような線になった。


「僕は山本、山本山門やまもと やまとです。僕は出勤したらすぐタイムカードを押さないと仕事に来たという気分になれないからすぐに押しにいったんです。ちなみに今日の僕のランチは近くのコンビニでサンドウィッチか菓子パンにするか迷っていて、でも、昨日のランチは焼きそばパンだったから、焼きそばパン以外にするとなると、やっぱりサンドウィッチか菓子パンになるから、でも、それじゃあ栄養が偏るし。あ、そう言えば、さっきパトカーの回転灯が······」


「そこまでだ、山本君」


 突然、拓馬に向かって機関銃のように話し始めた山本を杉野が制した。拓馬は、先ほどまで無表情だった山本の豹変ぶりに対して呆気にとられている。


「というわけで、山本君はピット作業は完璧にテキパキとこなすんやけど、話し下手なんや」


「はあ」


 杉野が山本の特徴を説明すると、拓馬はポカンと山本を見つめながら間の抜けた返事をしたのだった。






(つづく)

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