すーくんは一夫多妻なんて認めないよね?
フロアへ入ろうとすると、先客がいた。男性1人、女性5人という極端な男女比のパーティーであった。武宮達は入口のところで立ち止まる。
「うお。ハーレムだな……まるでWEB小説の主人公だぜ」
「そうだな」
工藤の言葉に、武宮が頷く。
ほぼ現代……武宮の前世と同じ世界で、ここは「日本」という国なのだが、1つ大きな違いがある。
何故かこの世界、一夫多妻制なのだ。
武宮は記憶が戻った当初、困惑したものであった。
だけど実際に複数妻を持つ男にも会ったことがあり、本当に認められていることなのだ。
前世の常識ならばありえないことだが、ここは前の世界とは違う世界ということなのだろう。
(まあでも、ハーレムはたしかに男の夢だしな。そこはどの世界も共通ってことか)
先客のパーティーがギミックをクリアし、開いた扉へ入っていく。1人の女の子が男の腕に抱きつくと「あ、こら! なに抱きついてんの!」「え~いいじゃん」「じゃあわたしも抱きついちゃおっ」みたいな感じで、騒がしく去っていった。完全にハーレムパーティーである。
(やっぱり、ハーレムには夢がある)
武宮達がフロアの中へ入ろうとした瞬間であった。
しゃきん! と、五十嵐が武宮の首筋めがけて剣の切っ先を突きつけて来た。
「すーくん」
「OK、桃。低い声を出すのを止めて、剣を降ろしてくれないか。とても怖い。刃が首にグリグリ当たっている。ステータスがなかったらもうとっくに血を噴いて死んでいる」
「今、ハーレム良いなって、考えてなかった?」
「チガウヨ」
「すーくん!」
「あぶねぇぇぇぇっ!?」
思いっきり振り下ろされた剣を、ギリギリで回避する。あと少し武宮の俊敏が低かったら、命中していただろう。
「すーくんは一夫多妻なんて認めないよね?」
「ソウダネ」
「私に嘘つかないのに!!!」
ブンブンブン! と、剣を振り回される。
「うおうっ!? なんでこんなヒスってるんだよ!」
なにが面白いのか如月が手をパンパン叩いて笑い「ももちー、武宮大好きなんだね~」と言って、工藤は「D〇見ている気分だぜ……お前らの将来が心配だ……」なんて言って戦慄していた。
そんな命がけのコントをしつつ、ギミックをいじる。
空からクモ型のロボットが6体降り、その全てを倒した。
かれこれそんなことを、4回繰り返す。
確率でレアモンスターが降ってくるはずなのだが、まだ引けずにいた。
「おらぁ!」
工藤がクモ型のロボットを倒すと、彼のレベルが上がった。
『――工藤 蓮のレベルが12へアップしました。HP+73、MP+9、攻撃力+16、防御力+19、俊敏+22、魔力+9、精神力+18』
『――工藤 蓮のアクセルがLV2へアップしました』
アクセルLV2
俊敏の上昇値20%→25%
「よっしゃ、レベル上がったぜ。一回で6体も出てくるし、レベル上げやすいかもな」
「ああ。でも、出来れば長引かせたくないけどな……」
ゴールデンスライムの時のように、1日かけるのは精神的にも疲れるので、早めに出てきてほしいところだ。
「ボスフロアへは行く感じ?」
如月の問いかけに武宮は頷く。
「ああ。ここは、制限時間が2時間みたいだけど……それまでには、ボスへ挑みたいな。間に合わなかったら、レアモンスターは諦める形になる」
推薦レベルには達していないが、なんとか戦える戦力だと武宮は踏んでいた。
「武宮のつよつよな感じだと、そういう判断になるだろうね~。あーしらマジオマケ」
「そんなことないだろ。それにスキルを隠すってことは、本当の実力を隠しているんじゃないのか?」
当たり前だが、隠すということは隠すなにかがあるはずなのだ。現状、如月の戦いは魔力高めではあるものの、他は平凡な後衛職といったところ。正直、手の内を見せたがらない冒険者といえど、そんなに隠すほどのものではないと武宮は思っていた。
「なになに、あーしに興味あるのー?」
「俺と桃は人を集めているんだ。もしも強力ななにかがあるなら、パーティーへ勧誘したい。最終目標はSランクモンスター討伐だからな」
「え、ガチ? そんなガツガツした冒険者なんだ。あんまし見えない~。もっとのんびりタイプかと思った」
如月の指摘は間違いじゃない。武宮は、今世では頑張るのが嫌いだ。
「のんびりスタイルなのは間違いないけど。目標は高いぞ。なにせ、Sランクモンスターはびっくりするほど美味いらしいからな」
「聞いたことある。でも、わかる~! 誰も食べたことない、最高のごはんって、一度で良いから食べてみたい」
「ああ。最強のドラゴンとか絶対美味いぞ。絶対」
「ん~。でも、現実ってガチ厳しいっしょ? Sランクダンジョンで通用する冒険者なんて、国内で10人くらいしかいないらしいよ~。つらたん」
「まあ、それはな。簡単ではないだろうなとは、思っているよ。危険もあるしな」
そんな話をしつつ、通路を歩く。工藤が少し深刻そうな表情を浮かべていた。
「Sランクか……」
「どうした」
「いや、なんでもねーよ」
(正直、武宮と五十嵐なら、いずれはそんくらいやれそーだよな。特に武宮の戦闘能力はやべー。長谷川達と同期でこれだろ? けど多分、オレはこのままじゃ……)
バブルマン・クラブで、そして追放された時に助けられたことを思い出す。
(実感しちまったよな。オレは弱い。多分、才能がねぇんだ。大体、獲得経験値上昇は、レベルが上がりやすいだけ。ただの成長の先取り。五十嵐みてーに色んなスキル持ちじゃねーし、武宮みたいに規格外なわけじゃねぇ……)
レアスキル持ちだと長谷川達に嫉妬され、あと実は協会の係員には褒められたことがある。なんでも、獲得経験値上昇は確認されている範囲だが、国内でたった16人しか存在しないのだという。
工藤は17人目、ということになる。
最初その話を聞いた時は、自分は冒険者の才能があるのだと思った。
レアスキル、ユニークスキル、そしてステータスの伸び幅など、その性質上冒険者は先天的な才能で大きく左右されやすい。
そのため有能なレアスキル、ユニークスキル持ちであるということは、高い価値があるのだ。
しかしいざこうして実践へ出てみると、実感が変わってくる。
五十嵐は遠距離も近距離もこなせる。数字では確認していないが、おそらく武宮は基礎ステータスがずば抜けている。
そしてもしかすると、なにか隠している如月には有能なスキルがあるのかもしれない。
工藤の脳裏をよぎったのは、もし今後強力なメンバーが集まった時に、自分が足を引っ張る光景であった。
(ちと頑張らねーと、なんつーか……男として、情けねーよな)
「どうした、工藤。面白い顔して」
「シリアスな顔だっつーの。お前の顔を面白くするぞ」
フロアへ辿り着く。武宮はボタンを押す……前に、なにやら両腕をひらひらとさせて、謎のダンスのようなものを踊った。五十嵐がくすりと笑う。
「すーくん、乱数調整?」
「ああ。今まですぐ押していたからな」
工藤が呆れたような表情を浮かべた。
「そーいう意味だったのか……オレはてっきり、ついにおかしくなったのかと思ったぜ」
「ついにって言い方はやめてくれないか? 予兆があったみたいだろ」
「メンヘラ彼女の彼氏は、精神的に疲弊するってよく言うから――」
しゃきぃぃぃん! と工藤にも剣の切っ先を突き付けられた。
「私はメンヘラじゃないもん」
「ひいいいぃ!? こえーよ! つーか、そういうところだ、そういうところ! どう考えてもメンヘラだろーが!」
「ノンデリに言われたくないもん……気にしてるんだから……でも、空回りしちゃうの……」
剣を引っ込めつつ、五十嵐は頬を膨らませた。
悩みの多い、恋する乙女のようだ。




