私とキス……して?
夜。五十嵐はピンクのウサギ耳フードつきのパジャマを着て、この間ゲームセンターで獲得した黒いウサギさんのぬいぐるみを抱きしめながら、頬を膨らませて、むくれていた。カーペットの上で、ぺたりと女の子座りしながら、ジト目を向けてくる。うさ耳フードの下の顔つきは、なんだか鋭い。
「やだ。2人きりがいい」
「まあ、桃の気持ちはわかる。けど」
武宮の部屋にて、2人は少しだけ揉めていた。
というのも、武宮が工藤 蓮をパーティーへ加入させ、そこへさらにゲスト――野良募集を1人加えようという提案をしたのだ。
「ランクDぐらいで留まりたいなら、2人旅でも問題ないだろうな。けど、それ以上を目指すとなると、やっぱり4人……あわよくば、マックスの6人を揃えていきたいところなんだ」
もちろん武宮達のようにソロ冒険者や、少人数での活動をする者もいる。
だが、基本的にはそういったパーティーは上位ランクでの狩りは危険が伴う。
やはり安全のためには、そして上位へ行くためには、仲間が必要なのだ。
「俺のトレースアーツも、桃の愛の手料理も、間違いなく上位を狙えるようなユニークスキルだと思う。地球のメシを遥かに上回るという、上位ランクのモンスターを狙うというのなら、強い仲間の力がほしい」
「うっ……」
上位ランクのモンスターは、五十嵐としても狙いたいところだ。なので、その辺りを突かれると、あまり反論が出来ない。
五十嵐の夢は、武宮に美味しい異世界料理を食べさせること。
そしていずれは、それが最高のものであってほしいと考えている。そうすれば、ごはんが大好きな武宮をとても幸せに出来るから。
そして武宮としても、大切な幼馴染の夢を叶えたい。今だって、毎日楽しそうに、そして幸せそうに愛たっぷりの異世界料理を作って、一緒に食べてくれる。そんな日常を守りたいし、力になりたいのだ。
だからこそ、いつまでも2人きりの冒険というわけにはいかない。
「……わかった。いいよ」
「よし。じゃあ、ゲストの募集をかけるか」
冒険者協会が提供しているアプリで、ゲストは野良募集出来る。
特定のギルドやパーティーに所属しない冒険者……あるいは、別のパーティーとの戦闘経験の積み上げ。または、単純に気分転換などなど、様々な理由で野良募集のパーティーを探す冒険者はいる。
レベルは同じくらいがいいので、10~15。
携帯を操作し、そのくらいの条件で募集をかけた。
「でも、条件がある」
「なんだ?」
「私とキス……して?」
「っ!?」
ベッドの上に座っていた武宮が、びくりと顔を携帯から上げる。うさ耳フードを被った五十嵐は、じっと真っ直ぐに武宮を見つめていた。
「いや……?」
「そ、そんなわけないだろ。けど、その、いきなりは」
「じゃあ、まずはハグして?」
「ハグだな。わ、わかった」
五十嵐は立ち上がって、両腕を広げる。
冷静に考えるとハグもかなりハードルが高いのだが、ベッドから降りて五十嵐をぎゅっと抱きしめた。五十嵐も伸ばした両腕を、武宮の腰へと巻きつける。
(やばい、やっぱ柔らかい……)
パジャマ越しに感じる、女の子特有の柔らかな肌の感触。両腕で抱き寄せれば抱き寄せるほど、彼女が柔らかいのだと実感させられる。お風呂上りの温かい体温。お腹と胸の境界にムニュっと広がる、プルプルとした弾力のある膨らみ。その全てが艶めかしく、気持ち良くて背筋が甘くゾワゾワとした。
「すーくん、すーくん、すーくん。大好き、大好き、大好き。私だけのもの。誰にも渡さない。ずっとずっと私のもの」
五十嵐が武宮の胸に、すりすりと頬ずりした。ぱさ、と被っていたうさ耳フードが落ちる。
ドライヤーで乾かしたばかりの、ツヤツヤとしたピンク色のセミロングの髪が、甘い匂いを放つ。
「んっ、ぅぅ……すっごく、気持ち良い。ずっと、こうしていたい」
「も、桃……」
五十嵐は抱きついた状態のまま、顎を武宮の胸に乗せて、とろんとした上目遣いをした。
「すーくん、チュ―は……? きっと、もっと気持ち良いよ……?」
「っっっ」
トロトロに甘い声を出されて、武宮は体を離し背中を向けた。
「か、考えておくから。今日は、これで勘弁してくれ……」
容姿端麗な女の子に言い寄られて、重いくらいの健気な愛を向けられて。それに答えるべきだと思う一方で、今の自分がそれに見合うのか、答えられるほどの器なのかと、疑問に思う心情もあった。
「えへへ、わかった。ゲストの件、これでとりあえずは満足してあげる。じゃあおやすみ、すーくん」
「ああ……おやすみ」
ばたん、と扉が閉められる。緊張が解けた武宮は、ぼふ、とベッドに倒れ込んだ。
「心臓が張り裂けそうだ……」
☆
冒険者協会の中にて、待ち合わせをすることになった。工藤とは連絡先を交換したのだが、パーティーへ誘うと「オレを入れてくれんのか!? そいつは助かるぜ、よろしくな!」と嬉しそうに返事をしてくれたのであった。アプリの通知では、ゲストは1人マッチングしているので、今日は初の4人パーティーとなる。
「よう、お2人さん!」
先に待っていた工藤が、人懐っこい笑みを浮かべながら右手を上げる。武宮も軽く手を上げた。
「おはよう。あともう1人来る予定だからな」
「おう。けど、意外だな。お2人さん、将来的には人集めるつもりなのか」
「まあ、いずれはな」
とはいえ、狙うは上位ランクモンスター。質の良いメンバーでありたいところであった。
「長谷川達の件は解決しそうか?」
「ん? ああ。冒険者協会からは追放みてーだし、普通にお縄みてーだな」
成功者どころか犯罪者。見事なまでの堕ちっぷりである。
と、そんな会話をしていると――ゲストと思われる女の子が、3人へ話しかけた。
「――チ~ッス! パーティーリーダーの武宮 昴で合ってる感じ~?」
「え? あ、ああ」
「あーし、如月 姫花。今日はよろ~! イェーイ!」
ウインクをして、ピースサインを逆手に出す、いわゆるギャルピースを女の子がした。
金髪のセミロング。白い肌。ネイルがキラキラ光る指、首元に光る赤いネックレス。おヘソが見える、ブラウン色のクロップド長袖Tシャツに、ダメージのジーンズ。
パーティーのゲスト……如月を見た3人は、同時に思った。
(((なんかノリノリなギャルが来た!?)))




