イチャラブしつつカニ鍋
「ごはんだよ~」
「いただきます!」
「手洗うんだよ~」
「はいっ!」
子供みたいになりながら、手を洗い、リビングへ。食欲を誘う、ものすごく良い匂いがした。
横長のテーブルの中央に置かれた、グツグツ音を立てるカニ鍋。昆布だしの効いた汁に豆腐、ネギ、白菜、ニンジン、しいたけと具もたっぷりである。カニは大きいので、切った身を何本か投入している形だ。
「「いただきます」」
大スプーンで2人それぞれの皿へ分けた後、食べ始める。
だしの染みたカニは肉厚で、プリプリであった。上品ながらも濃厚な甘みが、噛めば噛むほどに口の中で広がっていく。
「うんま~!」
「ねー。やっぱり地球のカニさんとはまた違うね。弾力すごい……」
高級なカニに負けない良質な味と食感に、2人は感動した。そして五十嵐は幸せ顔を浮かべる武宮の顔をパシャパシャ携帯で撮影する。
他の具材も美味しく、仲良く同じ鍋をつつくだけでも楽しく、日常の尊さを感じられた。
そんな感じであっという間に鍋の中身が少なくなる。そのタイミングで五十嵐がごはんをよそい、卵を割って上から投入した。白いお米が黄色に溶け込み、ダシと絡み合った。そこへさらに三つ葉とちぎった海苔を入れて、見栄えを良くしていく。
「締めは雑炊だよ~」
「おおー! やっぱ鍋といえば、雑炊だよな~」
「うん!」
パクパク、と2人は美味しそうに雑炊を食べていく。卵の甘味とダシの深み、お米の美味しさともう文句ナシの味だ。三つ葉と海苔も良いアクセントである。
「すーくん、喫食ボーナスは?」
「まだだな。あれじゃないか、桃がここまで料理って思っているところを完食するまでは、発動しないんだと思う」
「あ、なるほど……」
幸せな時間はあっという間に終わり、鍋の中が空になる。片づけている間に、システム音が新しい通知を知らせた。
「お、来たかな」
「じゃあ、あとはやっておくから。すーくんはステータスを確認してて」
「わかった」
椅子に座り、メニューを開く。
『――グルメリストにバブルマン・クラブが追加されました。初喫食ボーナス、HP+20、MP+15、攻撃力+15、防御力+15,俊敏+15、魔力+15、精神力+15加算されます。さらにスキルポイントが3加算されます』
『バブルマン・クラブの「バブルトラップ」がスロットに追加されました』
『スロットの枠は5つまでです。外すトレースアーツを選択してください』
バブルトラップ 消費MP 60
周囲へ水属性ダメージを与える泡のトラップを撒く。この泡は発動者にはダメージを与えないが、パーティーメンバーに対しては発動し、ダメージを与える。泡は近くの標的へ近づく。対象を指定した場合は、対象に向かって近づく。ディレイ時間は60秒。
「うおっ! さすがはダンジョンのボス……今まで一番上がっている! しかもスキルポイント3だ!」
「え、見せて見せて」
五十嵐が武宮の隣に座る。
何故かやたらと近く、ぴったりと武宮の左肩に体をくっつけていた。柔らかな感触が、特に胸の感触がすごく、武宮は指先が動揺で震えた。
「本当だ~。いいね」
「スキルはスーパーアーマーをLV4にするか。これで一度の発動で、味方全員へかけられる」
「うん」
「余りは、斧術かな。そろそろ装備は変えたい」
「それでいいと思う」
スーパーアーマー LV2→3
クールタイム60秒から50秒へ短縮。
スーパーアーマー LV3→4
消費MP40。対象者の体に、ダメージを肩代わりするバリアを形成。バリアの強度は最大HPの25%。クールタイムは50秒。このスキルの効果は重複しない。一度の発動で、パーティーメンバー全員へ効果が付与される。
斧術 LV1→LV2
「バブルトラップは……ウォーターバレットでも外すか。この説明を見る限りでは、フレンドリーファイアするってことだから、ちょっと使いづらそうだけど」
トレースアーツ一覧
ポイズンブレス
ステルス
サンダーバレット
ホーリーツインバレット
バブルトラップ
「すーくんつよつよだね~」
五十嵐が皿洗いに戻る。武宮は少しだけほっとした。
「そういえば、すーくんの好きなバニラアイスも買ったんだよ~。冷蔵庫にいっぱい入っているから」
「やったー。食べる~」
大きなカップに入ったバニラアイスを取り出し、食後のデザートとしてスプーンで食べ始めた。
五十嵐はふと、あることを自分にだけ聞こえる声量で呟いた。
「……いつも不思議だけど。すーくんはあんなに食いしん坊なのに、どうして太らないんだろ」
五十嵐は自身のお腹を手で掴んだ。
むにゅっ。
「っ!?!?!?」
武宮が美味しそうに食べてくれるのは嬉しく、しかもこっちまで食欲をそそられるため……つい、五十嵐も箸が進んでしまうことが多い。
というか、五十嵐も食べることが大好きなのだ。
しかし……彼女は現役の、恋する乙女でもある。
お腹のその感触は、女子にとっては致命的なソレであった。
(す、すごく掴める!? やだっ! で、でもたしかに最近の私、いっぱい食べているし……今日だって、カニ鍋美味しくて、雑炊だってたくさん、お米食べちゃった……!)
「どうした、桃? お腹なんて触って」
「ななな、なんでもないよ!」
「??? なぁ、桃もアイス一緒に食べよう。美味いぞ」
「負けない負けない誘惑に負けない負けない、絶対に負けませんっ!」
「なにをボソボソ言ってるんだ……? 満腹のお腹に、別腹の甘いアイス。最高の贅沢だぞ~。いやー、この瞬間のために生きている!」
「ああぁ……あああああああっ!」
しばらくした後、皿洗いを終えた五十嵐が、涙を流しながらチョコのカップアイスを食べていた。
「ううっ。ぐすっ、ぐすっ。チョコ美味しい……アイス美味しいよぉ……うっ、ひっく」
「何故、泣きながらアイスを食べている……? どうしたんだ……?」
中身は大人なのに、乙女心がちっともわからない男、それが武宮 昴であった。




