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Eランクダンジョンボス「バブルマン・クラブ」 後編

 五十嵐は武宮を救出するため、攻撃魔法を唱えた。


「ファイアボール!」


 魔法陣から放たれた炎の球体は、バブルトラップの泡によって塞がれ対消滅した。


「くそ、こうなったらオレも……!」


 工藤が前へ踏み出そうとする。だが、その瞬間に武宮が大声を上げた。


「俺なら大丈夫だ!」

「んなっ……」


 思わず、工藤は息を飲む。徐々にだが、武宮が刃を徐々に横へと押し広げているのだ。彼の強化された攻撃力による筋力は、バブルマン・クラブのハサミを閉じるパワーに勝ろうとしている。


「攻撃力は――全てを、解決する!!!」


 バンッ!!! と、勢いよく両刃をこじ開ける。武宮はハサミを潜り抜け、バブルマン・クラブの右肩へ斧を振り下ろした。


「ぐごぉ!?」


 バブルマン・クラブが短く悲鳴を上げる。硬い手応え。だが、斧は肩の甲羅へヒビを入れた。次の一撃で切断できそうだ。


「よし、いける……!」

「ゴォォォォ!!!」


 だが、ダンジョンの主は力を振り絞り、武宮の腹へ目掛けて左腕を全力で刺突。鋭いハサミの先端が突き刺さり、体をくの字に曲げられる。

 片腕を肩から斬り落とされたとは思えない、ものすごいパワーであった。


「がはっ……! まだ、こんなにやれるのか……!」


 床へ転がりながら倒され、血を吐き出す。防御力に関しては不足を感じていた。一撃がとてつもなく重く、油断すればすぐにやられる。

 立ち上がったところへ、すぐさま左腕が振り下ろされた。武宮は斧を両手で持ち、真ん中で受け止めギリギリで耐える。


「っ、いってぇ!」


 ぎぎぎぎぎ、と肩と腕の骨が軋むかのようであった。足腰がプルプルと震え、口から血が垂れた。


「すーくん! ヒーリング!」


 五十嵐の回復が入る。塞がっていく傷。力が湧き、バブルマン・クラブの左腕を払った。たたらを踏みながら、バブルマン・クラブは体勢を整え身構える。右腕は上手く動かないのか、だらりとしていた。


「トレースアーツ、起動――ステルス!」


 MPの都合上、最後の1回。ここで決めようと思った。

 武宮の姿が消える。バブルマン・クラブは闇雲に左腕を左右に勢いよく振り払った。しかし当然、そんなことでは捉えられない。安全に背後へと周り、バブルマン・クラブの右肩へ目掛けて斧を振り下ろした。

 重い一撃。ずどん、と斧の刃がバブルマン・クラブの右肩を綺麗に斬り落とした。重い音と共に、ハサミが閉じられたまま右腕が落ちる。


「ごっ……ここここぉぉぉ!!!」


 バブルマン・クラブは大きく飛んで後退し、泡を吐き出す。そして宙に漂っていた泡も、新しく吐き出した泡も、その全てが武宮へと目掛けて移動していった。


「っ!? お前……!」


 武宮が目を見開く。バブルマン・クラブは後方で待機している、五十嵐達目掛けて駆け出していったのだ。

 ここに来て、戦闘力が低い方を狙おうとしている。駆けつけたいが、泡が邪魔だ。それにいくらなんても、こんな量の泡を浴びてしまったら、HPが0になってしまう。


「こんなのどうすれば……ポイズンブレスをやってみるか? でも、もうMPが……一度回復して……そんなことしたら間に合わない! 桃!」


 ホーリーツインバレットで泡を撃退しつつ、叫ぶ。

 桃は攻撃魔法を詠唱、工藤はアクセルを発動させ、前へ出た。


「あとは任せて、すーくん!」

「おっしゃ! 弱っている上、泡ナシなら、さすがに勝てるぜ! ナメんな!」

「ファイアボール!」


 五十嵐の放った炎の球体が、バブルマン・クラブの体を焼く。ぼおおおっ、と燃え盛る音と共に、片腕だけの体を怯ませた。そしてその正面へと、工藤が回り右腕を弓のように強く後ろへ下げた。


「いくぜ――ハイパーストレート!」


 赤い魔力を帯びた右ストレートが、バブルマン・クラブの胴体を射抜く。ずどおおおおんっ!!! と、どっしりとした打撃音がお腹から発せられた。


「ごこぉぉぉっ!?」


 バブルマン・クラブは後ろへとふらつき、バタバタとゆっくり足を動かす。やがて左腕をピンと伸ばしたまま天を睨みつけた状態で体を硬め、ばたん、とその場に後ろから倒れていった。

 動いていた足が、ピタリと止まる。宙に浮いていた泡も、弾けて消えていった。


『――ダンジョンの主『バブルマン・クラブ』の撃退を確認しました』

『――ダンジョン初攻略のメンバーには、報酬としてランダムでスキルLVが1アップします』

『――五十嵐 桃の攻撃魔法のスキルLVが2へアップしました』

『――武宮 昴のレベルが8から10へアップしました。HP+104、MP+4、攻撃力+37、防御力+23、俊敏+16、魔力+4、精神力+19』

『――五十嵐 桃のレベルが8から10へアップしました。HP+132、MP+27、攻撃力+35、防御力+35、俊敏+31、魔力+37、精神力+33』

『――五十嵐 桃の剣術スキルLVが3へアップしました。剣術「ヴァルキリースラッシュ」を習得しました』


 ダンジョン報酬は初攻略時にもらえるボーナスだ。しかしこの瞬間に、武宮のあの件が確定してしまう。

 ちなみに、長谷川パーティーはエスケープストーンのペナルティによって、今回の戦果はナシだ。


(やっぱり俺は、初喫食ボーナス以外じゃスキルLVの上昇はなしか)


 ダンジョン報酬ですら上がらないのだから、もはや疑いようがない。

 あとはこの強力だったボス、大きなカニさんがどのくらいの初喫食ボーナスをくれるかだ。


「すーくん! 大丈夫? 痛いところない? ナデナデしてあげようか?」


 五十嵐が武宮の胸へ飛び込んで、ぎゅ~~~~っ、と抱きつく。良い匂いが鼻を刺激して、ものすごくドキドキした。


「だ、大丈夫だから、離れてくれ……」

「……本当は気持ちいいって、思っているくせにっ」

「なっ」


 離れながら、悪戯っぽい笑みを浮かべる五十嵐。つい、この流れにおける気持ちいいという単語の卑猥さから、大きな胸の膨らみへ目がいってしまう。武宮は慌てて視線を逸らした。


「武宮! サンキューな、また助けられた!」


 駆けつけた工藤に礼を言われ、武宮は親指をぐっと立てた。


「俺の方こそ、最後に助けられたよ」

「へへっ、ちっとは役に立てて、良かったぜ」


 2人でぱん、とハイタッチをする。

 随分と懐かしい感じだと思った。友人なんて、前世では年が経てば経つほど、疎遠になっていったのだから。

 こういうのも、悪くはないなと考えた。


「――いやいや、素晴らしい! 見直したよ!」


 長谷川が笑みを浮かべながら、こちらへ近づいた。五十嵐がこっちくんなと言わんばかりに、ギロリと睨みつける。


「君もこちら側だったとはね。良いライバルになれそうだ」

「だから、現実見えているの……? てか、お礼言え。いっそ〇ね」


 五十嵐がむっとした表情で、低い声を上げる。武宮は肩をすくめた。


(まあ、俺もこんな感じだったな……)


 自分が騙されていた、とか。現実が見えてなかった、とか。

 この手の人種にとって、それを受け入れてしまったら「今まで信じてきたこと」そして「今まで積み上げてきたもの」を否定することになってしまう。

 セミナーへかけた時間や金は、バカにならない。

 騙されていたんだな、自分は特別じゃないんだな、と思っても、受けいれられるのはまた時間がかかるのだ。

 へこんでいた長谷川の取り巻きも、いつの間にか自信ありげな表情へと戻っている。

 どこからその自信が湧いてくるのかは、不明だが。


「お前らが武宮達に追いつくことは、一生ねーだろうよ」


 と、ここで工藤が会話に入ってきた。長谷川が首を傾げた。


「なんだと? なにが言いたい」

「お前らの成功への華道は、とりあえず刑務所だ。オレを殺そうとしただろ」

「なっ……!」


 無自覚ではなかったようで、長谷川は顔を青くした。


「ま、待てッ! まさか、協会にこのことを報告する気か!」

「そーだよ。大体、ケジメつけさせるために、オレはお前らと一緒にボス部屋入ったんだぞ」

「ふざけるな! 君が悪いんじゃないか! だ、大体、僕達は友達だろう! 可哀想だとは思わないのか!」

「おめーがそれを言うなっつーの。友達じゃねーよ、せいぜい頭冷やすことだな」

「待てっ! わかった! お前をパーティーに戻してあげよう! そうすればいいんだよね、ね?」

「おっ、白い光が出てきたな。転送か。いやー、外戻ったら、フィールドから協会へ戻るとするかな~」


 長谷川達がついには、ぎゃあぎゃあ騒ぎながら土下座をしてまで謝り続ける。だが、工藤は許すことはなく、呆れたような表情を浮かべるばかりであった。

 まあ当然だろうな、と思いつつ、武宮はバブルマン・クラブの死体をアイテムボックスへ入れる。


「桃」

「なぁに」

「家帰って、カニ食って腹いっぱいになって。そんで寝るか」

「うん! カニ鍋にするからね~」

「桃が作ってくれるカニ鍋か~。やべー! 今からテンション上がってきたぁ!」


 想像するだけで、じゅるり、と早くも涎が湧いてくる。

 今夜の夕食も、とても楽しみだ。

 ヤンデレ幼馴染のあったかいごはんを、今日も食う。

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