桃、愛しているって。言って?
「すーくんと2人きり♪ ラン、ランラン♪」
「上機嫌そうな歌が背後から聞こえてくるな……」
(工藤、無事だといいけど。考えれば考えるほど、厳しいんだよな)
工藤達と別れた後、ビッグアイ・バッド2体と遭遇したが、すぐに撃破した。ふう、と武宮は一息つく。
後衛に桃を配置し、前衛で武宮が暴れる。
そんな立ち回りで、推薦レベル10のEランクダンジョンでの狩りはかなり安定した状態で進んでいた。
被ダメもほとんどなく、武宮と五十嵐はスーパーアーマーのバフを維持したままだ。
(でも今後もこれで安定するかと考えると……なんとも言えないな)
早くもゴーレムのような、遠距離攻撃をするモンスターが出てきた。
武宮の心情としては、高いスピードで前衛をこなす工藤が1人いただけで、安心感が違う。攻撃力……ややパワー不足があって押しきれない場面があったものの、それは適正レベルでの戦いであったから、仕方のないことだ。むしろあれが正常であり、普通の戦いである。ズバ抜けた攻撃力で無理やり押し込んでいる武宮がイレギュラーだ。
(Eランク帯で留まることはないって考えると、やっぱり人は増やしたいよな)
モンスターの死体まで保管出来るアイテムボックスは、重量ではなく単位で保管するシステムだ。どんなに軽い物でも、ペットボトル1つを格納したら枠が1つ埋まる。ゴーレムの死体のように重いものでも、枠は1つしか埋まらない。また、リザレクト・ポーションなどの回復アイテムも、1つにつき1枠だ。同じ種類の物でも1枠で複数個保管することは不可能である。
このような保管方法で、デフォルトの保管枠は20が限界だ。
そのため持って帰れるモンスターの数にも限度がある。レアモンスターなどで振れ幅はあるが、日給はEランク帯だとせいぜい10000~30000円程度。
収入の面で考えても、早めに上のランク帯での狩りをしていきたいところだ。
(桃は2人旅希望っぽいけど。今度相談してみるか)
そんなことを考えながら歩いていると、またしても部屋へ続く穴を見つけた。
「お、またワープ部屋を発見」
「でも、もうゴーレムは食べちゃったね~」
「まあ、普通にお宝狙いでいくか」
ワープポイントへいき、他の部屋へとワープ。
すると部屋の真ん中に宝箱が置いてある部屋へと移った。
共通スキルである開錠を発動させ、宝箱を開ける。ここの宝箱にはトラップがない、というのが事前情報だ。
マジック・ポーション×3
MPを40%回復。
「普通の中身だな」
回収しつつ、ついそんなことを呟く。
可もなく不可もなく。ゴーレム部屋のような旨味はなかった。
「あっ。すーくん、これ」
「ん? ……ああ」
メニューにシステムのメッセージが表示される。『パーティーリーダー長谷川 蓮からの救助信号をキャッチしました。救難地点へワープしますか?』
「レスキューストーンを持っていたのか」
ボス部屋の扉は一度閉まると侵入が出来ない。なので、一度入ってしまうと、他の冒険者へ助けてもらうのが不可能となる。
レスキューストーンは、その不可能を可能にするアイテムだ。
周囲5キロ以内の冒険者へと救難信号を送る。ワープ先がボスフロアであろうと関係ない。
ただし、使用者とそのパーティーにはペナルティが課せられ、使用した後の1時間は経験値の獲得・スキルレベルの上昇が0になる。
ちなみに、一部の例外を除き、ボス部屋は1パーティーしか入ることは出来ない。
レスキューストーンは、そのルールも破ることが可能なのだ。
「ちっ」
「桃、今、舌打ちしたか?」
「すーくん優しいから、助けにいくっていいそうだもん」
救難信号に答えるのはリスクが多い。メッセージだけでは状況がわからず、敵もなにかわからない。そして答えればピンチを迎えたパーティーの近くにワープし、戦闘へ巻き込まれる形となるのだ。
そのため、救難信号に答えるのは自由とされている。
むしろ、余裕のあるパーティーでなければ、慎重に決めなければいけないことだ。
「まずは、しばらく考えよう。すぐにこの信号に答えるパーティーがいれば、それだけ自信のある強いパーティーの可能性が高い。その人達に任せるのが一番安定だ」
もしも自分達が戦うとすれば、勝算はあるのか。武宮は改めて、自身と五十嵐のステータスを確認した。
本日の初喫食+料理ボーナス 合計値
H45 M35 攻60 防20 俊30 魔35 精15
武宮 昴 18歳 男
レベル8
HP 422(+110)
MP 10(+120)
攻撃力 136(+250)
防御力 91(+60)
俊敏 43(+175)
魔力 10(+65)
精神力 61(+75)
スキル 斧術LV1 状態異常耐性LV1 スーパーアーマーLV2 トレースアーツEX
武器 アイアンアックス 攻撃力+30 要求 斧術LV1以上
装飾品1 赤の腕輪 攻撃+15
装飾品2 赤の腕輪 攻撃+15
五十嵐 桃 18歳 女
レベル8
HP 489
MP 116
攻撃力 125
防御力 123
俊敏 103
魔力 132
精神力 115
スキル 剣術LV2 回復魔法LV2 探知能力LV1 気配遮断LV3 攻撃魔法LV1 愛の手料理EX
武器 エナジーブレード 攻撃力+40 HP+100 要求 剣術LV2以上
装飾品1 黒の腕輪 HP+50
装飾品2 黒の腕輪 HP+50
レベル20は200越えのステータスが多いだろう。そこを基準に考えると、武宮のステータスで200を超えているのは俊敏と攻撃のみ。特に攻撃力は386とレベル20後半に届く高さだ。他はレベル10前半クラスといったところか。
(トレースアーツを上手く使って、パワー押しって感じだな)
などと考えている間、救難信号には誰も応えていなかった。呼べるのは1パーティーのみなので、信号が消えていないということは、誰も救助していない証拠なのだ。
「俺、工藤を助けたい」
「……ふーん。なら、桃、愛しているって。言って? 真っ直ぐ、私の目を見ながら。そしたらいいよ」
武宮は顔を赤くしながら、五十嵐をじっと見つめる。可愛らしい顔と、宝石のように綺麗な相貌と、ばっちり視線が重なった。
「桃、愛している」
「ふふふ、私も♥」
「っ。じゃ、じゃあ、いくぞ」
「うん」
「……もちろん一番の優先は、桃の安全だ。後ろに下がって、サポートを頼む」
こくりと五十嵐が頷く。武宮はメニューの救難信号を操作した。
2人の体が光に包まれ、ワープ。
一瞬にして、ボスフロアへと転送された。
☆
大部屋で天井も高く、広々としていた。
そのフロアの奥で全長2メートル後半はある大きなカニが、ハサミをカチカチしながら、口から大量の泡を吐き出し拡散。
20~40センチほどの泡が空間へ無数に漂っていた。
部屋の隅には、大怪我をしてダメージを負った様子の長谷川パーティー。
フロアの中央には、血を大量に流し意識を失い倒れた工藤がいた。
「――っ! 君達か!? だが、桃ちゃんはまだしも、武宮 昴が来たところで、なにが出来るっていうんだ!?」
救難に答えたのがたった2人とわかり、落胆した声を出す長谷川。
まあそうだろうなと思いつつ、武宮はアイテムボックスから「リザレクト・ポーション」を取り出し、前へ駆けた。
「桃! 味方の回復を頼む!」
「すーくん、気をつけてね!」
「ああ!」
武宮に気づいたバブルマン・クラブが、10本の足をカタカタ言わせながら、素早く前へと駆けたのであった。




