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いつまでもラブラブでいろよ!

 ゴーレム達とは激戦であったため、一旦休憩をとることにした。

 休む時は休むというホワイトな冒険が、武宮のポリシーだ。前世の仕事では休憩時間もなければ、トイレの個室に籠っている時にも、電話が鳴るほどの多忙であった。今世ではマイペースでいきたい。


(ああ……当たり前に休めるって、素晴らしいな……)


 ダンジョンの床に座りつつ、そんなことを考える。

 ブラック企業にいた反動なのか、武宮は根を詰めて長時間頑張る、ということが逆に苦手となっていた。あまり頑張ろうとすると、当時のことを思い出して、やる気が下がってしまうのである。

 冒険者はどちらかというとガツガツ進んでいく、貪欲なタイプが多い。冒険するからにはロマンや、最強を目指すといった大きな目標に駆られやすいようだ。

 頑張りすぎていちど30歳で死んでしまった武宮は、貪欲な気持ちもわかるが、人生はのんびりいきたいよなと考える。


「すーくん、にらめっこしよ」


 隣で女の子座りする五十嵐がそんな提案を突然してくる。

 前回の愛しているゲームといい、いつも唐突だ。


「何故。いいけど」

「にーらめっこしましょ、わーらうとまっけよ」

「あっぷっぷっ!」


 武宮が目を見開く変顔。

 五十嵐が頬をハリセンボンみたいに膨らます変顔であった。


(いや、全然面白くないだろ。可愛いだけだろ)


 武宮がそう思った刹那、五十嵐が両手を伸ばして武宮の脇の下をこちょこちょした。


「えいっ!」

「うははははっ! って、それは反則だろ! 子供か!」


 じゃれ合う2人。

 工藤は肩をすくめた。


「仲良すぎだろ……オレいんの忘れてねーか……?」


 武宮と五十嵐がしょっちゅう2人きりの世界に入るので、工藤は時折、気まずくなった。


「それにしても。あの長谷川パーティーは、一体なにに駆られているんだろうな……平凡なステータスなのに、無茶な攻略をして。工藤を追い出して。そしてあやふやな「成功」にこだわっている」


 武宮の言葉に、ずっと彼らと組んでいた工藤が困ったような表情を浮かべた。


「あいつらが変わり始めたのは、3年の夏ぐらいだったよ。ダンジョン動画配信グループ「混沌の冥界騎士団ブラック・アビス」に影響を受けたんだ」

「ああ、あれか……」


 異世界「フィールド」はこことは別次元の世界であるため、インターネットは繋がらない。そのためダンジョンの生配信というのはとある例外を除いて存在せず、動画配信のみという形だ。

 工藤が今言った混沌の冥界騎士団ブラック・アビスは、大手のダンジョン動画配信チャンネルの内の1つで、チャンネル登録者数は300万を超えている。

 また、混沌の冥界騎士団ブラック・アビスはギルドでもあった。所属人数は9人とギルドとしての規模は控えめで、あくまでもダンジョン動画制作を主目的としたエンタメ集団だ。

 

「なにそれ?」


 配信者にあまり興味がないのか、五十嵐が首を傾げた。

 武宮が大手の配信者なんだ、と解説していく。


「ただ、いわゆる炎上系でな。過激さがウリなんだ。代表的な動画としては……「男子女子全員ミニスカでダンジョン攻略、カメラへパンチラ映るたびにケツバット」「フィールドにいる冒険者達にエ〇チの経験人数聞いてみた」「アイテム・装備なし縛りでダンジョン潜ったら危険すぎたwww」とか、そんな感じだな」

「ふーん。くだらない……」

「この界隈はこういうノリなんだ。だけど、このグループはやりすぎることが多々あって、何回も冒険者協会から注意を受けている」


 武宮の説明に、工藤はこくりと頷く。


「あいつらには、このグループが輝いて見えたんだろうよ。実際、すげー配信者なんだ。なにせたった2年で登録者300万人だからな」

「たしか、去年のアリーナダンジョンの優勝チームが初期メンバーなんだよな?」


 アリーナダンジョン。冒険者協会が開くダンジョンを舞台にした大会だ。

 冒険者協会の会長――岡田 創真は世界でたった1人のユニークスキル「ダンジョンクリエイト」を持つ。

 彼はそのスキルを使い、現代へダンジョンを制作。これを使ってダンジョンのライブ配信を可能とし、協会主催で新人戦のような大会から、各国の冒険者トップクラスも参加する世界大会まで開くほどの大手バトルエンターテイメントへと成長させた。

 混沌の冥界騎士団ブラック・アビスは去年開かれた、新人向けのアリーナダンジョンの覇者で、それによって名前が売れたというわけだ。


「たしかに夢ある話っちゃ、話なんだ。あの4人、ちと進路に悩んでいたこともあったから……良い逃げ道ってやつだったんだろうよ」


 はあ、と工藤はため息をつく。


「あとこのグループ、有料でオンラインサロンとかやっててさ。あいつらに勧められてちょっと入会したけど、そんなに上手くいかねーだろって話ばっかりだったぜ。冒険者すらある世界だからよ、一発で大金持ちになりてー気持ちはわかっけど、いきなりハイキャリアになんてなれるわけねーし、みんな騙されてんじゃねーかって思っちまったよ」

「ぐふっ!?」

「どうした、武宮?」

「い、いや……工藤は賢いな……しかしあの時の俺は、俺はっ……!」

「なんでお前がダメージを負ってんだよ……?」


 当時の自分が18歳の工藤より子供に思えてしまった。





 制限時間は残り20分を経過。ここで40分以上滞在したことになる。


「そろそろいくか」


 武宮が立ち上がり、工藤と五十嵐もそれに続く。

 部屋の出口はワープになっていた。光に触れると、通路へと出る。

 扉の類はなく、やはり通常のルートではたどり着けない一室なのだろう。

 通路を直感で進んでいき、接敵もなく歩みを進めると……やがて目の前に、大きく重々しい扉が現れた。


「これって……」


 五十嵐が声を上げる。武宮がこくりと頷いた。


「ボス部屋だな」


 この奥に推薦レベル20の「バブルマン・クラブ」がいる。

 五十嵐のレベルはまだ8。後ろへ下げていても、まだ不安が残るレベル帯だ。


「桃。ここを開けるのは、また別の機会にしよう」

「うん」

「……でもでっかいカニ、美味そうだよな」

「太くて大きい分、地球のカニと比べると、肉厚で歯ごたえたっぷりなんだって」

「美味そう……」

「ふふふ、すーくん、よだれ垂れているよ?」

「はっ!? だ、ダメだ。次の楽しみにとっておこう」


 道を引き返そうとした、その瞬間であった。


「――おや、偶然だね。桃ちゃんじゃないか」


 あまり出会いたくなかったが、長谷川パーティーであった。4人も健在。そして長谷川は相変わらず、すぐに五十嵐へ反応する。


「桃ちゃんって呼ぶな」


 ギロリと五十嵐が長谷川を睨む。


「武宮 昴は、相変わらず桃ちゃんの金魚の糞をしているようだね。平凡な君に、冒険者は無理だよ」


 武宮は呆れたようにため息をついた。ようするに五十嵐と一緒なのが気に入らないのだろう。いちいち嫉妬深くて面倒な男である。


「お仲間を1人追放したようだけど、挨拶はなしか?」

「ん……? ああ、工藤。いたのか。君のことだからてっきり、1人で戦い抜くかと思ったんだが、パーティーに入ったのか」


 工藤が「その説はどーも。おかげで死にかけたぜ」と声を上げる。そして長谷川と対峙した。


「つーか、ボスへ挑む気なのかよ」

「まあね。サクッとここのボスをこれから倒すのさ」

「まだ、レベル7だろ?」

「はっ。「オレがいないとダメだろ」とでも言いたいのかい? オレTUEEEしたいなら、1人でやってくれ」

「そんなつもりじゃねーけど……頼む。オレをもう一回、パーティーへ入れてくれないか?」


 工藤のとんでもない発言に、武宮が息を飲む。


「工藤、なにを言って……」


 だが、工藤は止まらず長谷川を説得した。


「手を出してほしくねーなら、後ろの方にいるからよ」

「……」


 長谷川がギロリと工藤を見つめた。


「僕は君のそういう、自分の手で全てを救わないと気が済まないところが、ずっと気に食わなかったんだよ……けど、まあいいだろう。この機会に、君がいなくてもこの最強チートパーティーは平気だということを、知らしめてやる。つまりここからは、ざまぁ展開ということだね」

「んじゃ、決まりだな」

「ふん。前には出ず、引っ込んでいろ」

「わかっているよ」


 工藤がくるり、と武宮の方へ振り返った。


「つーわけだ。勝手に入ったり出たり、ワガママで悪い。世話になったな」

「それはいいんだが……正気か?」


 工藤は苦笑いを浮かべつつ、後頭部をガリガリと掻いた。


「武宮から言われたことは、ちゃんとわかっている。ここから戻ったら、ケジメはつけさせるさ」

「……戻ってこれると思うのか?」

「おうよ。ぜってーに勝ってやるぜ」

(工藤は戦力になるだろうが、他はこの性格の上、レベル7だろ? かなり厳しいぞ)


 ダンジョンの設置場所の都合から「バブルマン・クラブ」は駆け出し冒険者、最初の関門だと言われている。

 初のダンジョンボス撃破は、ある種1つの箔がつくといったところなのだ。冒険者にとって大きな価値がある。若い冒険者が功を急いで挑み、命を散らすというケースはよくある話であった。

 長谷川はその典型的なパターンである。

 止めてやる義理もないが、自殺行為を黙って見送るのはさすがに抵抗があった。


「長谷川。ここのボスは推薦レベル20だ。厳しそうな戦力だが、勝算はあるのか?」


 長谷川は武宮の発言に、呆れたように肩をすくめた。


「やれやれ。これだから無能は……君達のような人種はいつもそうだ。無理だの、諦めろだの、無駄だの。そう言って、死んだ魚の目をした大人になっていく。僕達有能の足を引っ張らないでくれ。視点が違うんだよ、邪魔をするな」

(そっちは現実を見てないんだから、視点が違うのは当然だ……)


 しかし忠告はした。それでも挑むというのだから、これ以上言うのは野暮だろう。

 武宮はメニューを開き、工藤をパーティーから外した。


「元気でな」

「おう! 短い間だったけど、楽しかったぜ! いつまでもラブラブでいろよ!」

「……ああ」

「今度、一緒にメシでも食いにいこーぜ。食いしん坊で、異世界料理好きなんだろ? 結構良い店知ってんだぜ!」

「その時は案内、頼むよ」


 まるで友人同士のように、軽い約束を交わす。

 工藤は長谷川達と共に、ボスフロアの扉へ向かった。武宮と五十嵐はそれに背を向け、道を引き返すべく歩みを進めた。

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