ハズレ部屋での戦い
3体のゴーレムは大きな右腕を前へと突き出す。刹那、先端から魔法陣が展開され、そこから魔法の弾丸が放たれた。赤のゴーレムから炎、青のゴーレムからは水、黄のゴーレムからは雷の、30センチほどの大きさだ。
魔法攻撃の類に見えるが、詠唱時間0で放ってくる。攻撃魔法のファイアボールよりは威力が弱そうだが、手数の多さがウリなのだろう。
武宮とアクセルで俊敏を上げた工藤が、素早い動きで避けながら接近。すぐに2発目も放たれるも、被弾ゼロで距離を詰めた。
工藤が赤のゴーレムへ先制のパンチを放つ。がぎん! と硬い感触が拳へ返ってきた。
「っ、武宮、こいつかてーぞ! 耐久力が高いみたいだ!」
「わかった!」
ずどん! と斧の一閃が青のゴーレムの硬い体へ深い切れ込みを入れた。
「ゴォォォォ~~……ッ」
青のゴーレムが断末魔と共に倒れる。工藤が苦笑いを浮かべた。
「これも一撃かよ……」
気をとられた工藤の元へ、黄のゴーレムが放った雷の弾丸が放たれる。弾丸は工藤の体に命中した。バリバリバリ、と魔力の雷が彼の全身へ迸る。
「ぐわあああっ!?」
武宮がすぐさまフォローへ入り、黄のゴーレムへ斧振り下ろす。ゴーレムは両腕をクロスさせてガードしようと試みるも、腕ごと一撃で粉砕され、ばたりとその場に倒れ込んだ。
そして桃がため息をつきつつ、即座に回復魔術を詠唱し、工藤のHPを回復した。
「わりぃ! 助かったぜ、五十嵐」
「……」
「その「あーあ、なんでこんなやつ回復しなきゃいけないんだろ」みたいな顔やめてくれ! それが一番ダメージでけーから!」
工藤が叫びつつ。赤のゴーレムへパンチを放つ。
少しでも挽回しようと素早い攻撃を何度か入れる。ゴーレムのボディにへこみが入っているため、ダメージは与えているが、戦闘不能までには至らない。
そうしている間に、武宮がゴーレムの背後に回り、その背中を両断。赤のゴーレムは真っ二つになり、動かなくなった。
「なんか武宮1人で充分だな……」
工藤がつい本音をこぼしてしまう。
彼のステータスは悪くない……どころか、むしろ良い方なのだが、高ステータスを獲得する武宮と並んで前衛を張ってしまうと、どうしても数字の差を実感させられてしまった。
『――武宮 昴のレベルが8へアップしました。HP+52、MP+2、攻撃力+18、防御力+11、俊敏+7、魔力+2、精神力+9』
『――五十嵐 桃のレベルが8へアップしました。HP+65、MP+13、攻撃力+17、防御力+17、俊敏+15、魔力+18、精神力+16』
『――工藤 蓮のレベルが9へアップしました。HP+69、MP+8、攻撃力+15、防御力+18、俊敏+19、魔力+8、精神力+17』
そしてゴーレムの撃破と同時に、3人のレベルがアップする。
レアスキルの影響もあり、工藤は同じ狩りをしていても、一歩先のレベルへ進んでいくようだ。
レベルが数個上なのは、やっぱりシンプルながら強いよな、と武宮は改めて考える。RPGでもパーティーのエースを務めるのは、一番レベルの高いキャラクターに大抵はなるだろう。
「さて。悪いけど工藤、また離れて耳を塞いでいてくれないか。すぐ終わるから」
めんどくさいといえばめんどくさいが、ユニークスキル「愛の手料理」の存在を知ったらかなり騒がれるのは目に見えている。なにせ武宮はこれだけの活躍を見せておいて、工藤よりレベルが1個下なのだから。
「おう、了解」
工藤は素直に離れていき、耳を塞ぐ。
五十嵐がゴーレムの体をナイフで切り取る。ゴリゴリ、とクッキーのような感触であった。
工藤がいるのに、五十嵐は「はい、あーん♥」とやってくるので、武宮は増々顔を赤くしながらそれに応じた。
『――グルメリストにファイアゴーレムが追加されました。初喫食ボーナス、HP+5、MP+5、魔力+5加算されます』
『ファイアゴーレムの「ファイアバレット」がスロットに追加されました』
『――グルメリストにウォーターゴーレムが追加されました。初喫食ボーナス、HP+5、MP+5、魔力+5加算されます』
『ウォーターゴーレムの「ウォーターバレット」がスロットに追加されました』
『――グルメリストにサンダーゴーレムが追加されました。初喫食ボーナス、HP+5、MP+5、魔力+5加算されます』
『サンダーゴーレムの「サンダーバレット」がスロットに追加されました』
サンダーバレット ※ファイア、ウォーターは同性能で属性違い
消費MP3。詠唱時間0。小さな雷の弾丸を放つ。クールタイムは1秒。
「おっ。トレースアーツのスロットが埋まったな」
「ゴーレムの使っていた、詠唱時間0の魔法だね」
「ああ。消費MPも少ないし、威力は低いかもしれないが、使いやすそうだ」
本人の魔力の低さもあり、使用用途は牽制用といったところか。今の武宮は遠距離攻撃の手段がないので、悪くはない。
そしてボリボリゴーレムを食べながら、武宮は五十嵐にも勧めた。
「桃、ゴーレムめっちゃ美味いぞ。ほんのり甘いお菓子みたいだ」
「本当?」
五十嵐もゴーレムを食べてみる。
「え、すごっ。部位によって味も食感も違う」
「すげえな。歩くクッキーだ。いや、今は歩いてないけど」
「もぐもぐ。おいふぃ。ほどよい甘みだね~」
「だな。戦っている時は硬かったくせに、死ぬとほどよい感じになるんだな」
「うん。クセもないね」
「ゴーレムのお菓子売っていたのは、こういうことだったのか。なるほどな」
「ね~。すーくんの食後のおやつ、これでもいいかも」
「そうだな。ほら、桃ももっと食べろよ」
「あ、あとちょっとだけ……」
「そんなにカロリーなんてないって、大丈夫だろ。一緒に食べよう」
「もう、すーくんってば……太っちゃうよ、私……」
もぐもぐ。もぐもぐ。もぐもぐ。
もぐもぐ。もぐもぐ。もぐもぐ。
もぐもぐ。もぐもぐ。もぐもぐ。
「――って、なげーよ! すぐ終わるんじゃねーのかよ!」
「あ、工藤。まだいたのか」
工藤がいきなり大声でツッコミを入れて来たので、武宮がわざとぞんざいに扱う。
「いるよ! 耳塞いで「あ~、まだかな~」って待ってたよ!」
「また追放されたかと思ったか?」
「思ったよ! このまま人間不信になりそうだったぜ! いつまでもイチャイチャ、イチャイチャしやがって! どうせオレはお邪魔虫だよ!」
「いいい、イチャイチャなんか、してないって」
武宮が顔を赤らめる。元30歳の男とは思えぬほど、ピュアな反応だ。
「オレの背後でめっちゃラブラブしといて、なんだその反応……つーか、今更けどさ。お2人さんは、付き合っているってことでいいんだろ?」
工藤の問いに、五十嵐が頬に両手を当てて、いやんいやんと体を振る。
「きゃー、すーくん、やっぱり私達はカップルに見えるんだよ~」
「そ、そうみたいだな……」
「実際どうなのかな~、すーくん?」
「ど、どうなんだろうな」
武宮としてはまだ恥ずかしいので、はっきりとこの関係性を恋人と断言は出来なかった。工藤は不思議そうな表情を浮かべる。
「??? まぁ、いいけどよ。なんとなく、同じ男として武宮の気持ちはわかるからよ。とりあえず、すっげー仲良しってことだな!」
なんて工藤が言って、少し良い空気感になっていた時である。
ゴゴゴゴゴゴ、とダンジョン内が揺れた。工藤が動揺して声を上げる。
「な、なんだ!? 地震か……?」
がこんっ! という音と共に、天井の一部が開く。
そこから、どっしりとした音を立てながら、体長2メートルほどの白いゴーレムが勢いよく着地した。先ほどのゴーレムと似たフォルムだが、体がやや大きい分威圧感がある。
「なに、これ。こんなの、協会のデータに乗ってないよ……?」
五十嵐が茫然と呟く。
地震が止む。そして同時に、白いゴーレムは個室内へ「ゴオオォォォ!」と重低音を響かせたのであった。




