10%の確率
「キシャアアア!!!」
通路を進むと、バタバタと大きな翼を羽ばたかせながら接近してくる、蝙蝠のモンスター、ビッグアイ・バッドが現れた。数は4体。体長は50センチほど。1体だけ、70センチの個体がいて、これはビッグアイ・バッド・リーダーと呼ばれる。名前の通り、ビッグアイ・バッドを率いるリーダーだ。なので、他の個体より体が大きく、ステータスも若干高い。ビッグアイの名の通り目玉が顔のほとんどを占めるほど大きく、1つ目だ。強力な牙にはHP・MP吸収効果に加え、毒効果も付与される可能性があるため、出来るだけ被ダメ回数を抑えたい敵である。
工藤が気合の入った様子で、真っ先に前へ出る。
「いくぜ――アクセル!」
同時に、自己強化スキルも発動させる。工藤の前へ駆ける動きが数段早くなった。
アクセル LV1
俊敏を20パーセント上昇させる。効果時間は1分。クールタイム30秒。消費MP20。
工藤は素早いスピードでビッグアイ・バッドを翻弄しながら、囲まれないよう上手く立ち回りつつ、適格に一体――ビッグアイ・バッド・リーダーへ向けて重いパンチを与えていた。
アクセルによって早くなった工藤に、ビッグアイ・バッド・リーダーが追いつけていない。
それに加え身軽な格闘術はリーチが短いものの、攻撃の出が早く、小回りの利くスピーディーな戦い方だ。
「よし。俺も暴れるか」
武宮も前へ駆け、と接敵する。
ビッグアイ・バッドが反応して、牙を見せるも――斧の一閃で、呆気なく絶命した。
工藤が攻撃している個体を除く、残りの2体が武宮を警戒し、同時に襲いかかった。しかしスピード面でも相手にならないため、斧を2回振るったところで、残りの2体とも血を撒きながら撃破されていく。
「ファイアボール!」
五十嵐が攻撃魔法を発動し、工藤と戦っていたビッグアイ・バッド・リーダーを倒す。
工藤が軽く右手を上げた。
「サンキュー、五十嵐!」
「あっそ」
「すげー冷たいな……」
「間違ってもツンデレとか思わないで。戦力的にあなたがサポート必要だから攻撃魔法入れただけ。ふんっ」
「お、おう……なんかオレ、どこへ行っても嫌われるな……」
工藤が肩を落とす。昔と比べればかなりマシになったとはいえ、五十嵐の人見知りは相変わらずだ。さらに2人旅を邪魔されたという状況と、第一印象が悪いため、工藤への好感度はマイナスになっている。
「にしても、武宮はマジで強いな。びっくりだ。敵があっという間に片づく。レベルは20以上ってとこか? そのくらいの強さに感じるぜ」
「気になるか?」
工藤は助けてもらっている身とはいえ、武宮サイドからはステータスを提示してもらっていない状態で、パーティーを組んでいる。
「まぁ、あんまり喋りたくねーなら、詮索はしねーよ。ユニークスキルを隠す奴とか、いるらしいからな。隠蔽スキル、なんてステータス表記をいじれるレアスキルもあるらしいぜ? そこまでして隠すのかよって、オレは思うけど……人それぞれだし、不満はねーよ。問い詰められる立場でもねーし」
「そう言ってもらえると助かる。助かるついでに、ちょっとの間離れて耳を塞いでくれないか?」
「え? あ、ああ……まぁ、いいけどよ」
工藤が言われるがまま、少し離れて両手で耳を塞ぐ。五十嵐がビッグアイ・バッドとビッグアイ・バッド・リーダーの肉を切り、焼いて武宮へ与えた。鶏肉みたいな食感であった。
『――グルメリストにビッグアイ・バッドが追加されました。初喫食ボーナス、HP+5、防御力+5加算されます』
『――本日の料理ボーナスの上限に達しました』
『――グルメリストにビッグアイ・バッド・リーダーが追加されました。初喫食ボーナス、HP+5、防御力+5、精神力+5加算されます』
「料理ボーナスを攻撃全振り、といきたいところだが……この辺りの敵は、すでにワンパンだしな」
武宮が腕を組んで考える。五十嵐がステータスを覗き込みながら、アドバイスを出す。
「攻撃以外にも10振って、余りを攻撃にしてみたら? 魔力もトレースアーツのことを考えたら、必要になってくるかもしれないよ」
「……わかった。じゃあ、今回はそれでいくか」
HP、MP、防御、魔力、精神、俊敏に10振って、残りの40を攻撃にした。
武宮が工藤の背中を軽く叩く。
「工藤。もういいぞ」
「ああ……なんの時間だったんだ?」
「秘密だ」
「謎の多い奴だな……」
工藤がモンスターの死体は武宮達が回収して良いと言うので、遠慮なくそうさせてもらった。
(まあ、さすがに後で報酬は渡した方がいいけどな)
成り行きとはいえ、共闘しておいて無報酬はさすがに可哀想だし理不尽だ。
3人で通路を進みながら、武宮は1つの疑問を口にした。
「長谷川パーティーでの戦闘はどうだったんだ? レベルは?」
「レベルは入った時でみんな6。途中で7になったな。正直、おふたりさんとは違って、結構危なっかしい感じだぜ?」
「レベル7か……」
武宮達と同じ。4人とはいえ、推薦レベルには達していないので、安全とは言えない状況だろう。楽な戦いにはならない。
「すーくん。あそこ、穴がある」
と、五十嵐が通路の右側の壁に空いた穴を指さす。ちょうど人が通れそうな、扉のような大きさの穴である。
「たしか、ワープポイントがあるところか」
3人が穴を潜る。
面積60メートルほどの部屋だ。その中央には、白い光を放つワープポイントがある。触れるとメッセージが警告をしてきた。『ワープポイントを使用すると、通常のルートでは入れない宝箱のある部屋へワープ出来ます。ワープしますか?』。
宝箱の中には高く売れる素材や、エスケープストーンのような貴重な便利品などが出てくる。場合によってはレアな装飾・装備品なども手に入るのだ。
「ハズレを引きたいな」
武宮が事前に調べた知識で、そんなことを言う。
イジワルなもので、システムは教えてくれないが、このワープには宝箱のない「ハズレ部屋」がある。
「そうなのか?」
首を傾げる工藤に、武宮は頷く。
「ああ……ハズレ部屋だけで戦える、ゴーレムと戦いたい」
そう。ハズレ部屋限定で登場するモンスターがいるのだ。
宝箱でももちろん良いが、本命は初喫食ボーナスである。
「そっか。まぁ、ゴーレムは結構高く売れるらしいしな」
「知っているか? ハズレを引くと、ブブーって鳴るらしい」
ハズレを教えないこのダンジョンらしく、運の悪い冒険者は煽っていくスタイルのようだ。
「え、マジかよ、クイズ番組みたいだな……なんかうぜ~」
だが、武宮達にとってはハズレがアタリのようなもの。
しかしハズレ部屋の確率は低いものであった。
「たった10%らしいけどな。一発で10%なんて、引けないんだろうな……」
武宮の言葉に、五十嵐がこくりと頷く。
「うん。10%って、低い確率だもん。私、こういうのいっつも引けない……」
「よくソシャゲのガチャ爆死してるもんな」
「ううっ……」
なにかを思い出した五十嵐が、頭を抑える。幼馴染でその辺りの黒歴史を知っている武宮は、思わず笑ってしまった。
工藤が両手を頭の後ろで組んだ。
「まぁ、狙っているなら、当たるまで何回も挑戦すりゃいいじゃねーか!」
「工藤、ゴーレムとの戦闘は構わないか? 魔法攻撃をしてくるみたいだから、結構危険な敵だぞ」
「もちろん、ついていくさ。足は引っ張らないように、頑張るぜ」
武宮がワープポイントへ触れる。
「よし。じゃあ、決まりだな」
ワープを起動させる。
ブブ~!
憎たらしい音と共にワープした先には、3体のゴーレムがいた。
部屋の広さは同じくらい。ゴーレムは全長150センチほどで、岩を積み重ねたような、全体的に丸々としたボディであった。色は赤、青、黄の3色と3体それぞれ違っている。
まさかの豪運を発揮し、一発でハズレ部屋送りである。
「ゴーレムの魔法攻撃に気をつけつつ、いくぞ!」
「おうよ!」
「うんっ!」
武宮の言葉に工藤と五十嵐が返事をし、前衛の2人が前へと駆けた。




