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追放者

「このダンジョンに、いくつかワープポイントがあるんだけどよ。それを使うと、ランダムで宝箱のあるフロアへ転送されることがあるんだ」


 こくりと武宮は頷く。事前に調べた通りの情報だ。

 ボスフロアへの到着には、ワープポイントを使う必要はないので、宝箱を狙えるオマケみたいなギミックである。


「けど、このワープポイントって何故か4人乗りでさ……それで、長谷川がお前は1人ここへ残れって言ってきて、取り残されたんだ。オレさ、あのパーティーでちょっと嫌われててよ……誰も止めてくれなかった。いやいや、参ったぜ!」


 ふと、焼き肉店で「灸をすえる」と発言していた長谷川を思い出した。

 4人が定員なのも、調べれば出てくる情報だ。

 元から、ワープポイントで工藤を取り残す考えだったのだろう。

 嫌いなら普通に追放すればいいものを、わざわざダンジョンで取り残すという辺りに、強烈な悪意を感じる。

 工藤になにか恨みがあるのかもしれない。


(けど、そんな恨まれそうなことするタイプには、見えないけどな)


 付き合いがあるわけじゃないのでわからないが、武宮はつい、そんなことを思う。

 ぱっと見の印象もあるし、今までの人生経験からも、そんな直感があった。

 前世では色んな人間と出会い、仕事をしたが、なんとなくすぐに良い人とクセのある人の判別がつくようになった。

 もちろん、人間はそう単純じゃないので、所詮は直感だ。

 すぐに信じるようなことはしない。

 それに「参ったぜ!」なんて気楽そうにヘラヘラ言っているのは、どうにも事態を軽く見ている節がある。


(偉そうに説教出来るほど俺は立派じゃないけど、長谷川パーティーのやったことは、許されることじゃない)


 リスクが伴うため、異世界やダンジョンでの人命救助は必須というわけではない。

 原則は、冒険でのトラブルは冒険者達の自己責任だ。

 しかし中にはそうじゃないものもある。今回のような件はまさにそうで、この業界も無法地帯というわけではないのだ。


「工藤。色々トラブルが重なったんだろうが、あいつらがやったのは立派な犯罪行為だ。ダンジョン内で意図的に1人にするなんて、殺人未遂だぞ」

「さ……おいおい、それは大袈裟じゃねーのか?」

「いや、少しも大袈裟じゃない。俺らがもしも助けなかったら、自分がどうなっていたか想像つくか? そしてその事態を招いたのは、誰の判断だ?」

「それは……その……」

「ここから出たら、冒険者協会へちゃんとこの違法行為を報告するんだ。便利なことに、メニューには証拠が残る。ダンジョンへ入った履歴と、パーティーから外された履歴が順番に残っているだろ? その時系列から、中で取り残されたという証明になる」


 パーティーメンバーは最大で6人まで組むことが出来る。パーティー申請、そしてパーティー申請受理によってステータス持ちの冒険者同士が経験値や様々な判定を共有する1つのパーティーとなる。

 このログは追放も含め、しっかりと残る。ダンジョンの出入りもそうだ。


「けどよ、それをしたらあいつらは、冒険者協会から追放どころか、犯罪者として捕まるってことだろ? そこまでするのかよ?」

「ああ。むしろ、そのレベルでも軽いくらいだぞ。下手をしたら、工藤はここで死んでいたわけだしな」

「いや、いいって、べつに。こうして、助かったしよ」


 武宮は重いため息をつく。

 やはり良い奴そうだが、考えが甘すぎるし、精神年齢がかなり子供だ。


(こいつ、あとこのまま数年経ったら、久しぶりに連絡とってきた学生時代の友達から、金とか騙しとられるタイプだな)


 前世でそういう知り合いがいたので、工藤は今のまま年をとればそのコースだと、武宮は考えた。

 彼の面倒を見てあげる義理はないが、こんな不愉快な事態をみすみすなかったことにするなんて、こっちが不快である。


「工藤。ちゃんと責任をとらせるんだ。それとも、友達だと思っていた奴を庇いたいのか? だとしても、こんなことを見逃すのはダメだ。もしも長谷川パーティーが、新しいメンバーを加入させて、そいつに同じことをしたらどうなる? もしそんな最悪なことになったら、工藤にも責任があるぞ」

「……」

「これは冒険者業界全体のためでもある。毎年死亡者が出る世界だからこそ、守るべきルールや法律ってのは、守らないといけない。冒険者だから、無茶とか無謀なことはするけど、意図的に個人を危険へ晒すのはダメだ。大体、ここまでのことをされて、庇う心理は正直理解に苦しむぞ」


 さすがの工藤も堪忍した様子であった。


「わりぃ。本当はわかってたんだけどよ……けど、ショックつーか、友達だと思っていた奴らに、こんな陰湿なイジメみたいなことをされるなんて、心が受け入れられなくってよ。現実から、逃げてたんだよ。でも……そうだよな。オレはあいつらから嫌われてたし、とんでもねー嫌がらせも受けた。そんで、それは犯罪行為だった」

「少しは目が覚めたか?」

「ああ。サンキューな、こんなバカなオレをわざわざ諭してくれてよ」


 工藤の表情は寂しそうであった。

 ショックなのだろう。


(……まぁ、信じたくない気持ちは、多少はわかるけどな)


 前世でクラスメイト時代に友達だった男が、金を騙しとるような奴になったのは、あまり信じたくない事実であった。少なくとも愉快ではない。

 それと似た心理なのかもしれない。

 といって、工藤のように情にほだされるというのは、全く理解できないが。


「あっ、話終わった? じゃあすーくん、いこっか」


 退屈そうにしていた五十嵐が、そんなことを言う。

 刹那、工藤がめちゃくちゃ慌てた。


「なっ、ちょっ、待ってくれ! こんなこと頼める立場じゃねーけど、オレをパーティーに入れてくれ! まだ制限時間が40分もあんだよ!」

「は???」


 五十嵐がものすごく冷たい視線を工藤へ向ける。


「エスケープストーンは? 冒険者協会からダンジョン潜入の際は、購入するように推薦されているよね? あれがないと途中で出られないの、知っているでしょ?」

「それは、その……えっと……圧すげーな、五十嵐ちょーこえー……わ、わりぃ、んなもんいいやって、思って。持ってないんだ」

「すーくん。こいつ見捨てよ。私、こういうチャラチャラした軽い奴嫌い。信用もできない」

「いや、すまんってマジで!? オレ、格闘スキル持ちで、囮にはなれるからさ! すげー頑張るから、頼む!!!」


 武宮はため息をつく。

 見捨てるつもりはないが、五十嵐のいうこともごもっともで、軽んじた心構えの冒険者をパーティーに入れるのはたしかに抵抗があった。

 ダンジョン攻略は一歩間違えれば死んでしまう。

 信用出来るような人物でないと命を共には出来ない。


「工藤。スキルも含めて、ステータスを見せてくれないか?」

「わかった!」


 必死な様子で、すぐさま工藤はステータスを提示する。


 工藤 文也 18歳 男


 レベル8

 HP 522

 MP 65

 攻撃力 117

 防御力 130

 俊敏 144

 魔力 63

 精神力 121


 スキル 格闘術LV2 アクセルLV1 騎乗LV2 獲得経験値上昇EX


(獲得経験値上昇……レアスキル持ちか。シンプルだけど、やっぱ強いよな)


 基本は1人しか存在が確認されないユニークスキルとは違い、少数ながらも複数人で確認されているのが「レアスキル」だ。

 パーティー内でレベルが上振れするであろう、獲得経験値上昇はまさにあの長谷川が好みそうなスキルである。


「レアスキル持ちなんだな。長谷川、羨ましがったんじゃないか?」


 武宮が意地悪でそう言うと、工藤が口ごもった。


「あぁ、いや、それは……」


 その様子で、武宮は長谷川パーティーで工藤が嫌われた理由がなんとなくわかった。

 ふと、冒険者協会で長谷川が言っていたことを思い出す。

 ――おい、工藤! 勝手な行動をするな! たく、お前はいつもいつも、本当にマンガの主人公気取りの奴だな! 自分が特別な人間だと思うな! そんな都合の良い才能なんて、この現実にはないんだ! 現実を見ろ!!!

 マンガの主人公気取り。

 レアスキルでどんどんレベルが上がる工藤を見て、そう思ったのかもしれない。


(嫉妬ってところか……他は俊敏上昇バフの自己強化スキル「アクセル」に、移動に便利な「騎乗スキル」と、ステータスも前衛型として良い感じだ。特に俊敏が高いし、長谷川パーティーじゃエースだったのかもな。ん? そういえば、あいつらは工藤なしで大丈夫なのか? 俺達と会った時はレベル5だったよな……)


 まぁそこは自己責任だしどうでもいいか、と考えつつ、武宮は五十嵐へ告げた。


「桃。ここを出るまでなら、一緒にいてもいいんじゃないか? 考えはちょっと甘いかもしれないけど、このステータスは戦力になる。それにこのまま見殺しっていうのは、ちょっとな」

「……すーくんがどうしてもって言うなら、好きにしていいよ」


 そう言いながらも、五十嵐はむくれていた。

 五十嵐の本心は、武宮と2人きりで冒険したいようだ。


「ありがとう、桃。じゃあ、加入だ。工藤、パーティー申請送るから受理してくれ」

「あ、ああ! サンキュー! 助かるぜ!」

「よろしくな」

「おう!」


 工藤はほっとした笑みを浮かべながら、パーティーへ参加した。

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