第146話 帝都に帰還
慰霊碑の式典を終え、城の一室で別れの挨拶をする。
「ループレヒト卿、先に帝国へ帰還いたします」
「皇帝陛下によろしくお伝えください」
オレが携わっていたことの引き継ぎも終わっている。
「ゲオルク、余もそろそろリラヴィーゼ王国へ帰還する」
「ラインハルト陛下もご帰還ですか」
オレが去っても帝国からヴァイスベルゲン王国への支援が続くように、ラインハルト陛下が去っても、リラヴィーゼ王国からヴァイスベルゲン王国への支援は続く。
「うむ。余と其方は次に会う機会はそうないであろうが、またいつか会えるのを楽しみにしている」
「ラインハルト陛下、わたくしもいつか会えるのを楽しみにしております」
リラヴィーゼ王国と帝国は遠い。それに公爵であり皇帝陛下の代理であるオレと、リラヴィーゼ王国の国王であるラインハルト陛下は、お互いに国を離れることが難しい。
今生の別となっても不思議ではない。
「ゲオルク、ご助力ありがとうございました」
「ロベルト陛下、わたくしが去っても帝国からの支援は続きます。もし、それだけでは足りぬ場合はわたくしへ連絡をいただければお力添えをいたします」
「ありがとうございます」
若き王であるロベルト陛下はヴァイスベルゲン王国の復興という重荷を背負っている。
ローレンツのような王を出ささないための助力は惜しまない。
「ロベルト陛下、いつか会える日を楽しみにしております」
「ゲオルク、余も会える日を楽しみにしています」
城での挨拶を終え、エーデル号に乗り込む。
「ユリア船長、またお世話になります」
「お任せください」
戦時中の時とは違い、ユリア船長の雰囲気は柔らかい。
ユリア船長だけではなく、エーデル号の船員たちも表情が柔らかい。船全体の緊張感が減っている。
エーデル号の雰囲気が変わったと周囲を見回していると、視界の中に白いものが見える。
「雪か」
雲が広がっている天気だとは思っていたが、とうとう雪が降り始めたか。
短い秋が終わろうとしているようだ。
「すぐに出港します」
「分かった」
ユリア船長が指示を出すと船員たちが忙しく動き始める。
ヴァイスベルゲン王国といえども、雪の降った初日から大雪になることは滅多にないのだが、出港できるうちに出た方がいいのも事実だろう。
出港の邪魔にならないよう、オレは船内へと下がる。
帝都の港が見えてくる。
エーデル号での船旅は寒さゆえに快適とまではいかないが、戦時中とは違いゆったりとしていた。
水流眼を使って船の速度を上げていたが、気分的には随分と楽だった。
「帝都の港は相変わらず混んでいるな」
「エンデハーフェンの開港後、少しは船の量が減りましたが、いまだに混雑は解消されたとはいえません」
「多少は減ったのか……?」
王都の港を見た回数がそう多くないため、オレでは減ったかどうかがいまいちよくわからないな。
「ゲオルク閣下、最優先での入港になるため、すぐに迎えがくると思います。下船の準備をよろしくお願いいたします」
「分かった」
ユリア船長の言った通り、このまま帝城に向かい皇帝陛下に会うことになる可能性が高い。
皇帝陛下の前に出ても問題がないよう正装に着替える。
船が港に着くと予想通りに迎えが来た。
帝城に直接向かい皇帝陛下と会うこととなった。
久しぶりに会う皇帝陛下はいつも通りの存在感。
しかし、若干だがやつれているようにも見え、激務なことがうかがえる。
「ゲオルク卿、久しぶりであるな」
「お久しぶりです、皇帝陛下。随分と長い期間、国を離れたことをお詫びいたします」
数ヶ月で帰ってくる予定が一年以上帰って来れなかった。
想定外もいいところだ。
「国を離れていた期間については気にする必要はない。もっとも、聖堂が襲撃され、ゲオルクが狙われるとは想像もしておらなんだがな」
皇帝陛下は苦笑を浮かべている。
オレも聖堂で襲撃されるとは考えてもいなかった。さらにそこから、戦争へと繋がっていくとは想像できるわけもない。
「ゲオルク卿、帰還早々で申し訳ないが報告を頼めるか」
聖堂で治癒眼の使い方を教わったこと、聖堂襲撃時の様子、カールハインツの住む街を落とした状況、カールハインツの最後、ヴァイスベルゲン王国を落とした状況、ローレンツとレオポルトの最後と長い話を続ける。
一年以上の報告となるため全てを話すのに苦労する。
「ヴァイスベルゲン王国の街道は元の状況へ戻っております。国が滅亡することは避けられそうです」
「そうか。間に合ってよかった」
「皇帝陛下が冬までにヴァイスベルゲン王国を落とすと決めなければ、間に合わなかったのではないかと思っております」
「ヴァイスベルゲン王国を探らせていたが、国内が随分と荒れている様子だったため急がせた。それとは別に、帝国の業務が滞り耐えられないという問題もあったのだがな……」
皇帝陛下はどこか遠くを見る。
周囲にいる皇帝陛下の家臣たちも遠くを見ている。
以前に皇帝陛下からもらった手紙で忙しすぎると愚痴が書かれていたが、相当忙しかったのだろうと皇帝陛下や家臣の様子から見て取れる。
「戦争をしたい馬鹿どもを炙り出せたのはいいが、あそこまで忙しかったのは初めてであった……。しかし、戦争を起こそうとしていた根源であるカールハインツが死んだのであれば、今後は戦争を考えるものも減るであろう」
おそらく帝城はいまだに昼も夜もない状況であろうが、少なくともカールハインツの暗躍による忙しさは減るだろう。
完璧な状況には程遠いが、少しずつ良くしていくしかない。
「ゲオルク卿、エンデハーフェンに戻る前に報告書を取りまとめてほしい」
「承りました」
「すまぬな。それと報告書をまとめている間にゲオルク卿とアンナ卿の結婚式と披露宴を用意しておく」
「わたくしとアンナの結婚式と披露宴ですか?」
オレとアンナの結婚式と披露宴……?
そういえば披露宴を帝城でするかと尋ねられていたな。
「申し訳ありません、帝都での披露宴について忘れておりました」
「提案した時はララの治癒眼でそれどころではなかったからな……忘れるのも仕方あるまい」
ララが転生者であるとわかり護衛が配置される合間に、皇帝陛下から結婚の許可はもらった。そのためオレとアンナはすでに結婚している状態ではある。しかし、治癒眼について発表ができないため、対外的には結婚を発表できなかった。
しかも、一年以上帝国を離れていたため、結婚式など何もしていない。
「しかし、結婚式もですか?」
確か帝城での披露宴も義務ではないと聞いていた気がするのだが……。
「今回のことでゲオルク卿とアンナ卿が有能であると知られてしまった。二人ともが少々有名になりすぎたゆえ、披露宴だけでなく結婚式も申し訳ないが帝城で行ってもらう」
「有名になると問題があるのですか?」
「貴族の名簿に婚約者がいない状態が問題となっている」
見合い話が殺到するということか。
それは避けたい。
「配慮感謝いたします」
「こちらの都合もあるため気にする必要はない。申し訳ないが、結婚式と披露宴、治癒眼についての報告、帰還の報告などをまとめるため日程はこちらで決めさせてもらう」
「承知しました」
短期間に全てを終わらせるにはそれしかないか。
とても合理的。
しきたりに乗っ取った儀式としての華やかさよりも、効率を重視した皇帝陛下らしい考えだ。
同時に効率を重視しても忙しい帝城が恐ろしくもある。
「結婚式と披露宴については担当を決め、こちらで会場や段取りを準備する。かかる費用は全て帝国が持つ。何か要望があれば担当に伝えて欲しい」
「かしこまりました」
呼ばなければいけない招待客などは任せて問題ないということだろう。
報告書を作る合間にアンナとどのような披露宴がいいか考えよう。
「帰還早々に呼び出してすまなかった。貴賓館ヒムベーレで休んでほしい」
「失礼いたします」
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