第147話 魔眼の転生者
純白のドレスを着たアンナは美しい。
「アンナ、とてもきれいだ」
「ありがとうございます」
アンナは少し照れた様子で顔をうっすらと赤らめる。
アンナのドレスはオレたちが帝都に帰ってくる前から用意されていたもので、複数の中から選べるようにと準備されていた。アンナが気に入ったドレスを体型に合わせ修正することで短期間に完成している。
純白のドレスの上に貴族の証である緑色のサッシュ。斜めにかけられたサッシュには勲章が付けられている。
ドレスに合わせている宝石は帝城の宝物庫にあったものを借りている。大粒の真珠がついたイアリングに、ダイアモンドがあしらわれた金のティアラ。
全身を包む白に、サッシュは髪の色と同じ緑、身につける金属は瞳の色と同じ金色で統一されている。
「ゲオルクもよく似合っていますよ」
「いつもとそう変わらないけれどな」
貴族としての正装が礼装の中で一番格が上と教わった。新品の礼装を用意されたが見た目が大きく変わるわけではない。
黒地の布に金糸で縫われた服。正装の上にはアンナと同じように緑色のサッシュを斜めにかけている。
長めの黒髪は後頭部で結んだ。
「いえ、変わりました。眼帯をつけなくなり、髪で瞳を隠さなくなって随分となりますが、表情や雰囲気が随分と柔らかくなりました」
アンナの手がオレの左目近くの頬を撫でる。
自然と自らの魔眼に手が伸びる。アンナの手に添えるように手が重なる。
「言われてみれば変わったな」
身分が変わったのもそうだが、人目を気にしなくなった。
舐められないようにと口調を乱暴に変え、自分の心が傷つかないように相手との距離を取り、身を守るようになった。口調は完全に戻りはしなかったが、距離を取らずに傷つかなくなってどれほど経っただろうか。
いつの間にか自分を偽らなくなっている。
「ゲオルクは諦めなかったから変わったのです」
添えていたアンナの手を握る。
「アンナがいたから諦めなかったんだ。ありがとう」
「お礼を言うのはこちらの方です。私が生きているのはゲオルクが諦めなかったからです」
確かに諦めなかったからこそ今がある。
しかし、実際に諦めずに行動するのがなんと難しいことか。
「二人だったから諦めなかった。これからも一緒にいよう」
「はい」
準備が整ったと伝えられる。
「アンナ、行こうか」
「ええ」
謁見室に皇帝陛下の声が響く。
「ヴィント州エンデハーフェンに港を開港させるのに尽力した、ゲオルク公爵とアンナ宮中伯に帝国一等大勲章を授与する」
勲章を受け取り身につける。
勲章は港の正式な開港後に授与が決まっていた。
「リラヴィーゼ王国との戦争を未然に防いだ、ゲオルク公爵とアンナ宮中伯に一等星勲章を授与する」
勲章の授与は続く。
「ヴァイスベルゲン王国との戦争を勝利に導いた、ゲオルク公爵とアンナ宮中伯に一等星勲章を授与する」
服の勲章が増えていく。
「治癒眼の使い手であるゲオルク公爵に緑聖勲章を授与する」
聖堂で治癒眼の使い方を学んだものには勲章を授与される。
「これほど多くの勲章を渡したのは初めてである。功労者である二人に願いがあれば聞こう」
「皇帝陛下、わたくしとアンナ・フォン・カムアイスの結婚を許可していただけますでしょうか」
「分かった」
以前に許可はもらっているため、茶番であるがこれもまた必要な演出。
「グリュンヒューゲル帝国皇帝アウグスト・フォン・グリュンヒューゲルが、ゲオルク・フォン・エルデとアンナ・フォン・カムアイスの結婚を認める」
「感謝いたします」
オレとアンナの結婚は多くの貴族が見ている場所で認められた。
謁見室から大広間へと移動する。
披露宴は作法に厳しい形にはしなかった。
ヴァリ、モニカ、オイゲンが例え失敗しても目立たなそうな立食にした。それに披露宴に参加するララやラースにも、立食なら失敗を恐れずに楽しんでもらえるだろう。
「ゲオルク、おめでとう。勲章いっぱい増えたね」
「ありがとう。ヴェリも増えているだろうに」
「そうなんだけどさ」
ヴェリ、モニカ、オイゲンは先に勲章をもらっている。
三人の胸元には同じように勲章が増えている。
「おめでとう」
「おめでとうだよ」
「ありがとう。モニカ、オイゲン」
ヴェリ、モニカ、オイゲンは一緒にいる。
三人とも出された食事を食べて楽しそうである。立食にして正解だったようだ。
「アンナ、結婚おめでとう」
「おめでとうございます」
「おめでとう!」
「ラファエラお姉様、ラース、ララ。ありがとうございます」
アンナにラファエラ様が祝福を伝えている。
ヴェリ、モニカ、オイゲンが固まっているのはララを護衛するためでもある。ララの治癒眼はまだ隠されているが、護衛は配置されている。
「ゲオルク兄さん。おめでとう」
「ありがとう。アルミン」
アルミンは騎士の正装に身を包んでいる。
戦争の功労者としてアルミンは騎士に叙爵された。
アルミンと一緒にいるのは着飾ったイナ。アンナの後ろにはイルゼが控えている。
「ところでアルミンはイナとの結婚はどうするんだ?」
「僕とイナはエンデハーフェンに帰ってからするよ。騎士ならゲオルク兄さんみたいに貴族へ挨拶する必要ないしね」
「そうか」
大変な思いをしなくていい、アルミンが少し羨ましくある。
「アンナ様、ゲオルク様。結婚おめでとうございます」
「ラルフ。ありがとう」
披露宴にはラルフたちカムアイスから来た兵士たちも参加している。
普通なら難しいのだが、戦争の功労者として参加が許された。
帝国の貴族は普通一代限りであるため、元々平民だった人が多いため貴族以外の人がいても気にはしない。帝城で行っている披露宴ではあるが、貴族以外も多くが参加しているため、おおらかな雰囲気が漂う宴となった。
「ゲオルク閣下、アンナ閣下。結婚おめでとうございます」
「ユッタ、ユリア船長。ありがとう」
ユッタとユリア船長が二人で祝福してくれる。
ユリア船長も叙爵されると聞いているが、軍人であるため手続きが違うため少し時間がかかっているようだ。
ユリア船長だけではなく、エーデル号の船員からも祝福を受ける。
エーデル号の船員も戦争の功労者である。
知り合いから祝福を受けていると大広間に皇帝陛下が現れた。
「皇帝陛下」
「ゲオルク卿、アンナ卿。おめでとう」
「ありがとうございます」
知り合いだけではなく、帝国の貴族と挨拶を交わして祝福を受ける。
人数が多いためオレとアンナの挨拶が増え大変である。しかし、皆が祝福してくれているのだと思うと苦ではない。
エンデハーフェンは港に船が入港しており、街の中は人の活気であふれている。
庁舎から見る街の雰囲気は港が開港する前とは違う。
窓際で街を眺めながらお茶を飲む。
不在の間に溜まった仕事をなんとか片付けた。
久しぶりにゆったりとした時間が流れる。
「アンナ」
「どうしました?」
「自分のことをオレと言うのを変えようと思う」
「いいと思います。以前から作った口調だと思っていました」
「舐められないようにと口調を作っていたのだが残ってしまった。他の口調はほとんど元に戻ったのだが、一人称だけは残っていた。だけど、いい加減変えようと思う」
オレの居場所はアンナの隣にある。
帝城でもう無理する必要がないのだと気がついた。
「それで自分のことをなんと呼ぶつもりです?」
「悩んでいたのだが、無難に私かな? 以前は僕だったのだが」
「僕ですとアルミンと同じですね」
「兄弟として育っているからな。元々の口調はアルミンとそっくりだったよ」
アンナと二人で一人称をどうするかと話し合う。
なんの変哲もない幸せな時間は続く。
以上で魔眼の転生者は完結です。
最後までお読みいただきありがとうございます。
カクヨムコンに参加するため、11月29日より新作を投稿予定です。
鏡でまじわる異世界キッチン 〜料理修行をするため世界を回るはずが、神様に連れられ異世界に〜
日本出身の料理人が異世界の人と交流するというコンセプトの小説です。
魔眼の転生者とは違い重い設定はほぼ排除しています。
新作も読んでいただけると幸いです。(カクヨムコン参加ですが小説家になろうにも同時投稿します)
ブックマーク、評価がありましたらお願いします。




