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魔眼の転生者 〜忌避された者たちは、かけらの希望を渇望する〜  作者: Ruqu Shimosaka
第三章 ヴィント州

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第145話 鎮魂の祈り

 ロベルト陛下との話を終え、部屋を出る。

 結局、オレが喋ることはほとんどなかった。しかし、付き添い以上の意味がなかったわけではなく、自分が徴兵で行った内戦がなぜ起きたのか知れたのは良かったと思う。


 城の借りている一室へとアンナと共に戻る。

 椅子に座り、お茶を飲み始めるとアンナがつぶやく。


「ローレンツはレオポルトとカールハインツに狂わされたのですね」


 狂わされた。確かにそうかも知れない。

 ローレンツは王として向いていなかったかも知れない、それでも王の勤めをこなせていた。しかし、劣等感や不信感を刺激されたことで、人を信じられなくなり狂ってしまったのか。


「狂ったローレンツにお父様、お母様、お兄様、皆が殺されてしまったのですね」


 アンナが静かに泣き始めた。

 オレはアンナを抱きしめる。


 アンナの背中を撫でながら死について考える。

 内戦が起こった原因であるローレンツ、レオポルト、カールハインツの三人は死んだ。しかし、三人が死んだことで誰かが蘇るわけではない。

 そう、復讐を成し遂げられたとしても、人は蘇りはしないのだ……。


 アンナは少しすると泣き止んだ。

 オレはアンナの涙をハンカチで優しく拭う。


「ゲオルク、もう大丈夫です。ありがとうございます」

「無理していないか?」

「今は大丈夫です」


 アンナはお茶を飲んで一呼吸おいた。


「無理しているつもりはありませんでした。ですが、つもりなだけで実際には無理していたようです」


 アンナは目を伏せ悲しげな笑みを浮かべる。

 やはりアンナをヴァイスベルゲン王国に連れてくるべきではなかっただろうか……。

 カムアイス家の中で唯一生き残ったアンナほど、オレはヴァイスベルゲン王国に強い思いはない。思いの違いから、無理していないかどうかの判断は、本人に任せるしかなかった。


「アンナ、ヴァイスベルゲン王国に来ない方が良かったか?」

「分かりません。ですが、内戦が起こった理由を直接知れたのは良かったと思っています。報告を聞くだけでは納得できたと思えませんから」


 報告を聞くだけでは納得できないか。

 確かにアンナの立場からすると、詳しい状況を知りたがるのは当然。レオポルトとローレンツが死んだ後ではどうしても知り得る情報に差が出てしまう。

 しかし、アンナの心が傷つくほどに必要なことだったか……?


 オレが悩んでいるとアンナがオレの目をみる。


「私はロベルト陛下の話を聞いてもローレンツを許すことはできませんでした。ですがそれでいいのだと思い始めています」

「そうだな、ローレンツが狂わされたのだとしても、狂った結果多くの人が死んだのは変わりようがない。ローレンツが起こした災いは到底許されることではない」


 ローレンツを狂わしたカールハインツとレオポルトが許されないのは事実であるが、ローレンツも決して許されないことをした。

 しかし、後世の歴史家に批判されるのはローレンツとなるだろう。全ての責任を王が負うというのはそういう意味でもある。


「ゲオルク、一つわがままを言っていいですか?」

「どんなことだろうか?」

「慰霊碑を建てたいのです。処刑された貴族だけではなく、餓死した民を含めた慰霊碑を」


 ヴァイスベルゲン王国を復興させている状況で慰霊碑を作るのは大変である。

 しかし、大変ではあるが作る意味があるのではないかと思う。

 現在のヴァイスベルゲン王国では個人で墓地を用意するのも大変だろう。共同の墓地は用意しているが、疫病を広げないための措置でもあるため、死者を弔うことを優先していない。慰霊碑が建てば死者を悼むこともできるだろう。


 それにこのままヴァイスベルゲン王国の治安が悪化した状態では、ロベルト陛下の治世がうまくいくとは思えない。

 何かしらの転換を促す必要がある。

 慰霊碑を建てることで時代が変わるのだと印象を与え、同時に過去を忘れないという意味を持たせられないだろうか。


 合理的な理由を考えてはみたものの、オレがアンナの願いを叶えたいというのが本質。

 考え出した理由も無意味ではなく、ロベルト陛下、レオンハルト陛下、ループレヒト卿を説得するのに使えるだろう。


「慰霊碑を作ろう」

「いいのですか?」

「複雑なものは無理だろうが、ヴェリ、アルミン、モニカに手伝ってもらえれば少人数でも作れるさ」


 考え出した理由をもとに慰霊碑建設の許可をとり、皆に協力を願って建設を始める。




 ヴァイスベルゲン王国の短い夏が終わりさらに短い秋が訪れる。

 冷える港にエーデル号が入港してくる。

 ラファエラ様がララとラースを連れてエーデル号から降りてきた。

 三人の護衛として帝国の兵士とともにオイゲンがいる。


「オイゲン、三人の護衛、ありがとう」

「気にする必要ないだよ。ラースとララと一緒にいるのは楽しかったでよ」


 オイゲンにヴァイスベルゲン王国は転生者を嫌う人が多いと説明する。

 城にいる間はいいが、王都を見て回る場合は魔眼が見えないようにフードを深く被ることを勧めておいた。


「アンナ、心配していました」

「ラファエラお姉様、ご心配をおかけしました」


 オレがオイゲンと喋っている間に、ラファエラ様とアンナが喋り始めた。


「ヴァイスベルゲン王国に帰って来られるとは思ってもいませんでした」

「私も二度とこの地を踏むことはないと思っておりました」

「ええ」


 ラファエラ様は生まれ故郷に帰ってきたのが感慨深いようだ。

 ラースとララは暇そうだ。ラースは若干ヴァイスベルゲン王国の記憶があるだろうが、ララは初めて来た状態。子供の二人がヴァイスベルゲン王国に興味がないのも仕方がないだろう。

 ラースとララに大きくなったと声をかけ、ラファエラ様が追憶する時間を取る。

 少ししてララが小さなくしゃみをする。するとアンナが動いた。


「ラファエラお姉様、城に向かいましょう。食料が行き渡ったことで随分治安が良くなりましたが、冬が近くなり民の気が立っております」

「分かりました」


 城に着くと、オレだけループレヒト卿の元へ向かう。


「ループレヒト卿、エーデル号が港に入港しました。ララは元気な様子でした」

「それは良かった。では、予定通りに慰霊碑の式典を終えたところでゲオルク卿は帝都にお帰りください」


 ヴァイスベルゲン王国のことが心配ではあるが、冬になってしまうと雪に閉ざされるヴァイスベルゲン王国を出るのが難しい。

 それにエンデハーフェンを出てすでに一年以上経っている。ユッタもオレたちと一緒にいるわけで、エンデハーフェンに残っているホルスト卿の負担が大きすぎる。このままヴァイスベルゲン王国に残るわけにもいかない。

 そのためヴァイスベルゲン王国のことはループレヒト卿に任せ、オレたちは帰ることが以前より話し合われていた。




 式典のため慰霊碑へと向かう。

 今日の式典はロベルト陛下が取り仕切る。

 式典には王都の住人が参加しており、住人以外にもヴァイスベルゲン王国の地方から貴族も参加している。

 多くの要人がいることで警備は厳重なものとなっている。


 慰霊碑は五メートルほどの大きな柱を中心に、半円状の背の低い壁が設置された。柱は雪に埋もれない大きさを用意している。また半円状の壁には死者への追悼の言葉が書き込まれている。

 慰霊碑の周囲にはモニカによって花が用意され、色鮮やかに慰霊碑を彩っている。


 時間になるとロベルト陛下が慰霊碑の前に出る。


「御霊の安らかならんことを」


 ロベルト陛下の祈りとともに、鐘の音が鳴り響く。

 死者への祈りを捧げる。

 至る所から啜り泣く小さな声が聞こえる。

 王都中が悲嘆にくれる。

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