第144話 ロベルト陛下
レオポルトとローレンツの処刑は王都が落城した三日後に行われた。
アンナとともに城の一室に呼ばれる。
呼んだのはロベルト王太子改め、ヴァイスベルゲン王国国王ロベルト陛下。
ロベルト陛下がいる部屋の前は厳重な警備がされている。警備している兵士から許可を取り扉の先に進む。
「ゲオルク卿、アンナ卿。よくきてくれました」
ロベルト陛下が立ち上がって出迎えてくれる。
「ロベルト陛下、失礼致します」
「失礼致します」
ロベルト陛下に椅子を勧められる。アンナをロベルト陛下の正面に座らせ、オレは隣に座る。
今日のオレはアンナの付き添い。
オレとアンナの関係を考えて、オレも呼ばれた。
「アンナ卿、本来なら余が出向くべきところを呼び出して申し訳ありません」
「気になさらないでください。陛下の命が狙われる危険があるのは理解しております」
ロベルト陛下が狙われるのは、王位を狙ってのことではない。
使える使用人たちが完全に信用しきれていないのだ。
使用人が信用できない背景には王都の状況が悪いことが関係している。
王都には帝国とリラヴィーゼ王国から食料は運び込まれているが、まだ全ての人に行き渡っているわけではない。飢えに苦しむ人が大勢おり、ことの発端となった王への怒りはまだ残っている。
ローレンツは処刑されたが、次の王であるロベルト陛下へ不満を持っているものも少なくない。
「アンナ卿には以前から謝罪する必要があると思っていました。余の至らぬばかりに申し訳ありません」
「ロベルト陛下が内戦を止めようとしていたのは知っております。内戦が起きた後、貴族の処刑を止めようと尽力したことも」
「止めようとはしました。しかし、余は前王であるローレンツを止められなかった」
ロベルト陛下は握り込んだ拳が白くなるほど力を入れ、痛みを堪えるように顔を歪めた。
強く後悔しているのが見て取れる。
「第三王子という肩書きでは王であるローレンツを止めるのは難しかったかと」
「いえ、王太子になってからもアンナ卿に対する非礼を余は止められませんでした。余一人では何もできなかったのです……」
ロベルト陛下は今までずっとヴァイスベルゲン王国の中で足掻き続けていたのだろう。足掻き続けた結果、王太子という地位すら剥奪され、カムアイスに流刑されるように移動させられた。
無力感をずっと感じていたのではないだろうか。
「ロベルト陛下が行ったことは何もなかったわけではありません。内戦の目的を噂として王都に流したのは陛下では?」
「その通りです。あの時は他に方法がありませんでした」
ロベルト陛下は過去を悔い続けているようだ。
「陛下の流した噂のおかげで、兄ディルクの子供たちは元気にしております」
「ディルク卿の子供?」
「はい、兄の側室であるラファエラ・フォン・ヴィントヴィーゼル・カムアイスは帝国に亡命して二人の子供を育てております。義姉だけではなく、帝国に亡命したヴァイスベルゲン王国の貴族はおります」
「そうか……全てが無駄ではありませんでしたか……」
ロベルト陛下は目を瞑り黙り込む。
少しの間を置いて陛下が目を開ける。
「アンナ卿、謝るつもりが励まされてしまいました。申し訳ない」
「お気になさらず。私は帝国の貴族になりましたが、ヴァイスベルゲン王国は故郷です。滅びて欲しいとは思っていません」
「いまだヴァイスベルゲン王国を故郷と言ってくれますか」
「はい」
オレも生まれ故郷が消えるのは忍びない。
自分からヴァイスベルゲン王国を去るつもりではあったが、滅びろとまで考えてはいなかった。それに、ヴァイスベルゲン王国には悪い思い出の方が多いが、アンナと出会えたのもまた間違いない。
全てが全て悪い思い出ではないのだ。
「ロベルト陛下、私はいまだにローレンツがなぜ内戦を起こしたのか理解できません。陛下は理由を知っておりますか?」
「理由ですか……根本にあるのは前王ローレンツの劣等感によるものでしょう。ローレンツは元々王として優秀とは言い難かったようで、王子の時から周りに支えられていたと聞いています」
ローレンツが優秀ではないか……虚勢を張っていた姿を思い出す。
捕まえた時だけではなく、ずっと王であるために虚勢を張り続けていたのだろうか。虚勢を張り続けていたのだとしたら、王に向いているとは言えない性格に思える。
「ローレンツを支えている中で特に優秀だったのが側室であるグラティア義母でした」
「グラティア様は優しい方でした」
「ええ、優しいだけではなく、とても優秀な方でした」
アンナが嫁ぐ予定だった第四王子は側室の子供だったはず。
アンナはグラティア様にあったことがあるのだろう。
「グラティア様に似て、フェリックス兄上やロタール兄上はとても優秀でした。しかし、それが良くありませんでした」
「まさか、自分の子供に劣等感を抱いたのですか?」
「残念ながらその通りです」
自分の子供に劣等感を抱く? そんなことがあるのか?
「なぜそのようなことに?」
「ローレンツは結婚後なかなか子供が生まれませんでした。グラティア様が嫁いできてから、六年以上子供が生まれていません」
「王家は子供ができにくいとは聞いていましたが……」
「ええ。どうやら祖父の代から子供ができにくい体質になったのか、ローレンツだけではなく兄や余も子供がなかなか生まれませんでした。側室を取り出したのも子供を増やすためと聞いています」
近親婚を繰り返すことで先天的な障害が生まれるのは地球では有名。
ヴァイスベルゲン王国という小さな国の中で貴族同士が婚姻を繰り返したとすれば、先天的な障害を生みやすいだろうと想像できる。
「王族は子供ができにくい……もしや、グラティア様の不貞を疑ったのですか?」
ロベルト陛下は悲しそうに目を閉じる。
「不貞はないとローレンツも信じようとしたようです」
「グラティア様を信じきれなかったのですか?」
「最終的にはそうなのでしょう……。子供が生まれなかった年数と、自分以上に子供が優秀であることで不信感と劣等感を感じてしまったようです」
不貞を疑いたくはないが、優秀な子供に疑念が湧く。
不信が積み重なっているのか。
「陛下、ローレンツが劣等感を抱いた理由は分かりましたが、貴族を巻き込んで内戦を起こすほどの理由なのですか?」
「最初は内戦を起こすほどの理由ではなかったと思います。レオポルトとカールハインツに不信感や劣等感をさらに焚き付けられ、ローレンツは人を信じられなくなっていきました」
内戦を起こすためレオポルトとカールハインツが暗躍するわけか。
「不信感を抱きつつもレオポルトとカールハインツは信じたのですか」
「はい。レオポルトは以前から利己的と評判はあまり良くありませんでしたが、ローレンツにうまく取り入ったようです。カールハインツに関しては母から信用するなと言われていたはずなのですが……」
「カミラ様が自身の父親であるカールハインツを信用しないよう言っていたのですか?」
「はい。母はカールハインツのことを随分と嫌っていました。そのため余はカールハインツにあったことがありません」
カールハインツは自分の娘に嫌われていたのか。
いや、カールハインツは滅ぼそうとする国に娘を嫁に出している。普通であれば嫁に出すことをしないはずで、目的のためであれば手段を選ばない冷酷な性格が伺える。
手段の一つとして考えているだけで、そもそも家族として接していなかったのかもしれないな……。
「カールハインツとレオポルトが暗躍して、ローレンツの劣等感を刺激することでヴァイスベルゲン王国の内戦は起こったのですね」
「一部は想像の域を出ませんが、余はそう考えております」
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