第143話 ロベルト王太子
アンナの次にレオンハルト陛下も表情を元に戻した。
「さすがアウグストの代理であるな。久しぶりに肝が冷えた」
「レオンハルト陛下、失礼しました。あまりにも人命を軽視する態度に怒りが抑えきれませんでした」
「気にする必要はない。余もゲオルクと同様に怒りを抱いていた」
正面からオレに威圧されたレオポルトは顔を真っ青にしている。
顔が青いだけではなく、小刻みに震えており、口が聞ける状況ではなさそうだ。
「少々刺激が強すぎたようだな」
「申し訳ありません」
「よい、聞き出すのは今日だけではない。それに聞きたいことの大半は聞き出せておる」
確かに聞きたいことは聞けた。
「しかし、ヴァイスベルゲン王国をどうするか。八歳の子供を王に据えるのは流石に……」
ラインハルト陛下はそう言いながらため息をつく。
まだロベルト王太子が生きている可能性はある。
「ラインハルト陛下、送られたのがカムアイスであればロベルト王太子が生きているかもしれません」
「生きている?」
「はい。我々が亡命した時、残る住人のためカムアイスには食料を残しています」
アンナは亡命時に全ての人を連れて行きたかったようだが、カムアイスに残ることを選択した者たちがいる。そのため亡命までの間に、カムアイスに残る者たちへ可能な限り食料を残した。
残したのは帝国から輸入した食料であったり、前年のうちに植えた麦だったり。千人の人口が減った上で、例年通りに麦が収穫できれば問題なく年を越せているだろう。
ロベルト王太子がいつカムアイスに行ったのかはわからない。だが、支援が全く無かったのであれば食料を奪われることもなかったはず。
「急ぎカムアイスに兵を送る必要があるな」
「いえ、すでに帝国から兵を送っております」
「送っている?」
「はい。ヴァイスベルゲン王国のあまりの状況に、王都に来る途中で一部の兵士を送り出しました」
想像以上に酷いヴァイスベルゲン王国の状況を見たアンナがカムアイスを心配したのがことの発端。カムアイスで兵士だった者たちがアンナに同調して、現状を確認したいと言い始めた。
戦争中に兵士を分けるのはどうかという議論になった。
最終的には冬になる前に、地方の調査もすべきだという結論になり、兵士を送り出すことになった。
使われていなかった街道は蟲で溢れていると想像ができたため、送り出す兵士の人選は悩んだ。戦いがあるため、大量の兵士を送り出すのは難しい。仮に送り出しても街道では戦いにくい。
街道の開通を目指さずに駆け抜けることを選択。
選ばれたのはヴァイスベルゲン王国に詳しいカムアイスの兵士、ヴェリ、アルミン。そして戦力として帝国の兵士。少数精鋭を揃えカムアイスへと向かわせた。
「なるほど……ロベルト王太子が生きている前提で、ヴァイスベルゲン王国内を整えつつ待つとするか」
「はい」
今日のところは尋問を終え、王都の中を完全に掌握すべきだろう。
ラインハルト陛下に提案しようとしたところ、部屋の扉が開いた。
「ヴェリ! 扉を開ける前に入室の許可を得ないと!」
「あ、忘れてた」
アルミンとヴェリの呑気な会話が聞こえてくる。
開いた扉を確認するとアルミンとヴェリがいた。カムアイスから王都に来たようだ。
「ゲオルク」
ヴェリは部屋の雰囲気を気にすることもなく、オレを見つけて声をかけてきた。
後ろでアルミンが手で目を覆っている。
皇帝陛下の前だとヴェリも威圧されているからか緊張しているのだが、ラインハルト陛下では緊張もしないか。
今は礼儀作法などよりロベルト王太子。
「ヴェリ、カムアイスにはいけたか?」
「うん。でも、なぜかロベルト王太子がカムアイスにいたよ」
ヴェリの発言に皆がざわめく。
あまりにも都合のいい状況に、ラインハルト陛下と視線を合わせる。
難しい顔を続けていたラインハルト陛下が笑う。
「ヴェリ、ロベルト王太子はどうしている?」
「一緒に王都まで連れてきたよ」
ヴェリが後ろを振り返ると黒髪の男性いる。
細身で優しげな男性は部屋に入ってくる。
オレよりは少し年下であろうか、三十歳前後に見える。
「お初にお目にかかります。ロベルト・フォン・ヴァイスベルゲンと申します」
「余はラインハルト・フォン・リラヴィーゼ」
「皇帝陛下より遠征を任されました、ループレヒト・フォン・ヘルブラオ」
「皇帝陛下の代理人、ゲオルク・フォン・カムアイス・エルデ」
今更ながらに名前を名乗ることなく話が進んでいたことに気づく。
「リラヴィーゼ王国とグリュンヒューゲル帝国への度重なる非礼、ヴァイスベルゲン王国の王族として謝罪いたします」
ロベルト王太子が緊張からか青白い顔で謝罪してきた。
「リラヴィーゼ王国は謝罪を受け入れる」
ループレヒト卿と顔を合わせ頷く。
「帝国も謝罪を受け入れます」
ロベルト王太子は硬い表情で頭を下げた。
「謝罪を受け入れてもらえるとは思っておりませんでした。感謝いたします」
「リラヴィーゼ王国に限っては、カールハインツがリラヴィーゼ王国の王族でもあるため他人事ではないのでな」
「祖父ですか」
ロベルト王太子はカールハインツと血縁関係ではあるが、カールハインツの考えに賛同しているなら謝罪するはずはない。そもそもヴァイスベルゲン王国を嫌っていたカールハインツがロベルト王太子と会ったことがあるかも怪しい。
「うむ。謝罪を受け入れぬ限りヴァイスベルゲン王国を存続させられぬからな」
「ヴァイスベルゲン王国を残していただけるので?」
「そのつもりで考えておる」
ロベルト王太子はヴァイスベルゲン王国を残そうとする帝国とリラヴィーゼ王国思惑を知らない。そのため、未来に火種を残さないため、国を残そうとしていることを説明していく。
「なるほど……しかし、ヴァイスベルゲン王国は残ったとしても自力での復興は不可能。このままでは滅びてしまいます」
「リラヴィーゼ王国が立ち直るまで支援する」
「帝国も支援いたします」
ロベルト王太子は支援の約束を聞いて少し顔色が戻った。
今の状態で放置すれば国が滅ぶのは分かりきっている。
「ロベルト、傍系では再びヴァイスベルゲン王国が荒れてしまう可能性がある。直系の王族から選びたいのだが、其方と其方の娘しか直系の血筋は残っていないそうだな」
今最も悩んでいることをラインハルト陛下が切り出した。
ロベルト王太子は目を瞑り、口を真一文字に結ぶ。
「ロベルト、王になってくれないか?」
「……娘に重荷を背負わせるわけにはいきません。承知いたしました」
ロベルト王太子は一瞬間を開け、目を開けると王になることを受け入れてくれた。我慢するような表情から、ロベルト王太子が王になる気がなかったのがわかる。
しかし、ロベルト王太子が王になることを受け入れたことで、ヴァイスベルゲン王国を復興させる目処が立つ。
「ローレンツ、其方から何かいうことはあるか?」
いまだに捕まえられたままのローレンツにラインハルト陛下が話しかけた。
オレの威圧から時間がたったため、ローレンツの顔色は随分と戻っている。
「ロベルトを王太子と認め、王位を譲る」
「陛下?」
ロベルト王太子はローレンツの言葉に困惑した声を出す。
「余がすべての責任を取る」
ローレンツは震えながらではあるが、覚悟を決めた。
虚勢を張っていた様子とは打って変わる。
「すべての責任がローレンツにあるならば、某は——」
「許されるわけがないだろ?」
レオポルトが自分も助かろうとするのを理解してオレが否定する。
先ほどの魔力による威圧が効いているのか、レオポルトは青い顔をして再び震える。
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