第142話 レオポルト
ラインハルト陛下が捕えられたもう一人の男を見る。
「レオポルト。其方も新大陸の開発を邪魔し、戦争を起こそうとしたな?」
今まで一言も言葉を発することなく大人しくしていた黒髪の老人。
レオポルト・フォン・クリフファルケ。
「はて? 私は国王陛下に付き従ったのみ」
レオポルトはとぼける。
ローレンツが凄まじい形相で睨みつけている。
「とぼけずとも良いぞ、カールハインツが喋っておる」
「っ……」
レオポルトの顔が歪む。
カールハインツはおおよそのことは喋っているが、レオポルトについては詳しく喋っていない。ラインハルト陛下のはったりに見事に引っかかっている。
顔を歪めるレオポルトを見てローレンツが笑う。
ローレンツとレオポルトは一緒に逃亡していたが、お互いを信頼しているわけではないようだ。
「カールハインツの話になどなぜ乗った」
「カールハインツが約束したのは南方の領土。ヴァイスベルゲン王国は北方にあり、南方の地域を欲するのは当然」
「南方の土地が欲しければ新大陸の開発に加わればよかった」
「新大陸では遠すぎます」
なんと身勝手な言い分だろうか。
新大陸が遠いのはどこの国でも同じであり、開発に加わらない理由にはならない。
「遠すぎるからと、武力を行使するか。なぜ交渉から始めなかった?」
「逆にお聞きしたい。他国に領土が欲しいとお願いしたところで、自国の領土を譲るわけがないでしょう?」
「普通は譲ることはない」
「そうでありましょう」
レオポルトはラインハルト陛下の同意に、にやりと笑い得意げな表情を浮かべる。
「しかし、なんらかの対価によって譲ることはある。開拓した新大陸の領土と交換など考慮に値する」
地理的な問題から領土の交換が発生することは地球でもあった。
特に国境を接している場合、飛び地となる領土ができることがあり、国同士が話し合って飛び地を解消するため領土の交換が行われる。
以前の友好的な関係であれば、開拓された新大陸の領土との交換であれば帝国も受け入れた可能性はある。
「し、しかし、交渉に応じてもらえない場合、開拓した新大陸の土地が無駄になります」
「先に交渉しておくのがレオポルトの仕事であろう」
ラインハルト陛下の正論にレオポルトが言葉に詰まっている。
「で、ですが……」
「レオポルト、其方はカールハインツを信用しすぎであるな」
「くっ……」
「そもそもカールハインツは帝国の領土を欲してはいなかったが、レオポルトもそれは同じであろう?」
ラインハルト陛下は再びレオポルトに鎌を掛ける
「その通りです。某の領地であるクリフファルケはヴァイスベルゲン王国の東側にあり、帝国とは反対側ですからな」
レオポルトは国のために動いたのだと言いたげだ。
「それではレオポルトに得るものがない」
「国の発展を願っていただけにございます」
国の発展とは白々しい。
「違うであろうレオポルト」
「何が違うというのですか?」
「其方の狙いはヴァイスベルゲン王国を滅ぼし、リラヴィーゼ王国の貴族になることであろう」
カールハインツは偉大なるリラヴィーゼ王国という妄執に囚われていた。戦争することが目的ではなく、リラヴィーゼ王国に服従させることが目的。
リラヴィーゼ王国に服従していないのは帝国だけではない。ヴァイスベルゲン王国も同様に服従してはいない。
「そ、それは……」
「カールハインツがレオポルトと契約を交わした書類を残していた」
レオポルトは書類と聞いて、一瞬固まったたが、次の瞬間にやりと笑う。
「余の国を滅ぼす契約!?」
会話に加わらず影のように徹していたローレンツが騒ぎ出す。
「レオポルト、余を裏切ったのか!」
「裏切る? 最初から忠誠など誓っていないのですから、裏切ったのではありません。利用していたのです」
「貴様!」
ローレンツが顔を赤くしてレオポルトに詰め寄ろうとするが、兵士によって捕えられているため動けない。
レオポルトは笑いながらローレンツからラインハルト陛下に視線を移す。
「カールハインツとの契約に契約者の死については記載されていない。カールハインツの死後はリラヴィーゼ王国の国王が契約を守る必要がありますな」
「余が契約を守る必要はないな」
「は?」
レオポルトは口を大きく開け間抜けな顔。
「リラヴィーゼ王国で貴族として新しく家を起こすには複数の推薦人が必要。契約書にはカールハインツ一人の名前しかなく、貴族になるには推薦人が不足している」
「某はヴァイスベルゲン王国の貴族であるぞ」
「リラヴィーゼ王国の貴族ではない。率直に言うとレオポルトはカールハインツに騙されている」
今度はレオポルトが顔を真っ赤にする。
「今一度言おう、レオポルト其方はカールハインツを信じすぎておるな」
「クソがっ」
喚くレオポルトを見てローレンツが笑っている。
カールハインツに騙されていたのはローレンツも同じなのだがな……。
「ヴァイスベルゲン王国がカールハインツに操られていたという側面もあるが、最後に決めたのは王であるローレンツである。王は采配したことに責任を持つ必要がある」
笑っていたローレンツが黙る。
「…………」
「ローレンツ、余はヴァイスベルゲン王国を滅ぼそうとは思っておらぬ。それは帝国も同じである」
「…………」
「次の王として優先しようと考えているのは王太子である。ロベルト王太子はどこだ?」
ローレンツの顔が歪み口を開こうとしたところで、レオポルトが口をだす。
「ロベルトはすでに王太子ではない!」
「何?」
「ロベルトの娘が今は王太子だ」
娘?
ロベルト王太子の子供については話に出てきたことがない。何歳だ?
そもそもロベルト王太子がアンナより少し年上なだけだったはずで、大きくともまだ十代ではないだろうか。
「ロベルト王太子の娘はまだ十歳にもなっていないはず!」
アンナが声を上げた。
「八歳である」
「なんてことを!」
八歳の子供を王太子に据えるとは……。
いや、そもそもロベルト王太子はどこに行った?
あまりの状況にオレも声を出す。
「ロベルト王太子は生きているのか?」
「さぁ?」
「さあ? とは、どういうことだ?」
「ロベルトは新しいカムアイス伯爵としてカムアイスに送りました。支援もないカムアイスは滅んでいるでしょう。ロベルトは死んでいるのでは?」
レオポルトはカムアイスに住む人のことなど一切考えていない。自己の利益しか優先しない、あまりに身勝手な考えに怒りが込み上げる。
怒りから魔力が勝手に動き出し、体の外に出始める。
部屋にいる皆が恐ろしいものを見るような表情でオレを見る。
皆の視線を受けていると、ループレヒト卿が近づいてきて肩に手を置いた。
「ゲオルク卿、落ち着いてください。大量の魔力が体の外に出て皆を威圧しております」
「威圧?」
「まるでアウグスト陛下の前にいるようです。魔力を鎮めてください」
皇帝陛下の前にいるようと言われても理解がうまくできないが、皆の表情から何かしているのは事実なのだろう。ループレヒト卿のいう通りに魔力を体内に戻す。
皆の表情が恐ろしさから驚きに変わる。
大きく動いた魔力が皆を威圧していたのか。
「ループレヒト卿、魔力を鎮めたつもりですがどうでしょうか」
「ええ、鎮まっております」
ループレヒト卿以外からはまだ驚きの表情で見られている。
ループレヒト卿は皇帝陛下の幼少期から側近であるため、魔力による威圧に対する耐性があるのだろう。
「ゲオルク、大丈夫ですか?」
「ああ、すまない」
次にアンナがオレに声をかけてきた。
皇帝陛下に何度も会っているため多少は慣れたのだろう。
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