第141話 ローレンツ
花までいけられた城。
飢餓に苦しむ国民。
あまりの落差にオレも怒りを覚える。
「ゲオルク、きたか」
「ラインハルト陛下」
城の中を進み広い部屋へとたどり着く。
そこは王座のある謁見の間。
王座に王はおらず、部屋にはラインハルト陛下とリラヴィーゼ王国の者たちが集まっていた。
「ローレンツは王座にはいなかったようだ。大人しく捕まるか、自害するか、最後くらいは覚悟を決めるべきだと思うのだがな」
「逃げましたか?」
「わからぬ。港を閉鎖しておらぬため逃亡した可能性はある。ただ、逃亡先を用意できるとは思えぬ」
貴族が住む王都の屋敷は荒れ果てている家が多く、多くの貴族は領地にこもっている様子だった。国内に逃亡を手助けしてくれるような人望があったかも怪しい。
仮に国外へ逃亡するにも、国境を接している帝国とリラヴィーゼ王国を敵に回している以上、逃亡先の用意は相当難しいだろう。
「見つからない場合面倒なことになりますか」
「その場合は王太子であるロベルトを探すことになるが……生きているのかわからぬのがな」
ロベルトについてはヴァイスベルゲン王国に入ってからも調べているが、今のところ居場所はわかっていない。
城の中にいるといいのだが……。
ローレンツが城の中から逃げ出している可能性を考慮して、兵士に王都中を探すようにと指示を出す。
城の中を探し終わってもローレンツは見つからない。
オレたちはローレンツに逃げられたと判断。今後のことを話し合っていると、兵士が部屋に駆け込んできた。
「ローレンツを港で捕らえました!」
港で見つかったか。
船で逃げられる前に捕まえられたようだ。
帝国の兵士だったため、ループレヒト卿が指示を出す。
「この部屋に連れてきなさい」
「はっ」
兵士が二人の男を逃げられないように捕まえて連れきた。
一人は白髪混じりの黒髪を刈り上げた痩せた老人。
もう一人は金髪を刈り上げた小太りな老人。
どちらも貴族とわかる立派な服を着ている。逃亡するには不向きな格好。
「余を誰だと思っておる!」
金髪を刈り上げた小太りな老人が喚く。
声を張っているが視線を彷徨わせており、虚勢を張っているのが見て取れる。
「ヴァイスベルゲン王国国王、ローレンツでしょう」
アンナは凍えるような冷たい声音。声だけではなく表情まで凍えるような冷たさでローレンツを睨んでいる。
アンナは相当怒っているようだ。
「アンナ・フォン・カムアイス?」
老人が幽霊でも見たかのような声を出しながら顔をアンナに向けた。老人は顔に驚きの表情を浮かべている。アンナがヴァイスベルゲン王国の国内にいると知らなかったようだ。
アンナはラインハルト陛下とループレヒト卿に向き直る。
「ラインハルト陛下、ループレヒト卿。ローレンツ・フォン・ヴァイスベルゲンとレオポルト・フォン・クリフファルケ本人です」
「うむ、助かった」
「アンナ卿、確認感謝いたします」
ローレンツが本物かの確認をどうするかはアンナに任されていた。
ラインハルト陛下もローレンツとは会ったことがあるが、数十年前に会って以来とのことで見た目での判断が難しかった。ローレンツの判別は、死亡した第四王子の婚約者であったアンナが一番正確だと判断された。
「カムアイス女伯! 余を助けよ!」
アンナを見たまま固まっていたローレンツが騒ぎ始めた。
アンナはローレンツに冷たい視線を送る。
「なぜ助ける必要が?」
「女伯はヴァイスベルゲン王国の貴族であろう!」
「まだカムアイス家の爵位を廃していないのですか?」
ローレンツは口をつぐむ。
アンナのカムアイス伯爵という身分はすでに無くなっているのだろう。カムアイス領も取り上げられ誰かの領地になっていはずだ。
「再びカムアイス伯爵に命じる」
「必要ありません。結構です」
ローレンツの身勝手な物言いに、アンナの声がどんどん冷たくなっていく。
「アンナ卿はグリュンヒューゲル帝国のカムアイス宮中伯である。勝手にヴァイスベルゲン王国の貴族にしないでいただこう」
ループレヒト卿がローレンツに注意する。
「宮中伯!?」
ローレンツがアンナを見る。
「い、いや、ヴァイスベルゲン王国から亡命した貴族が宮中伯などなれるわけがなかろう!」
「アンナ卿を見出したグリュンヒューゲル帝国皇帝アウグスト陛下を愚弄するか」
ループレヒト卿の鋭い声にローレンツが震える。
ローレンツの様子を見ていると、想像していた人物像とは大きくかけ離れている。もっと気の強い我儘なのだと思っていたが、気の弱そうな老人。
皇帝陛下やラインハルト陛下とは比べられないほど平凡。
「ローレンツ、其方はもう助からん。死の覚悟を決めよ」
ラインハルト陛下がローレンツに終焉を告げる。
「余がなぜ死なねばならん」
ローレンツはなんとか助かろうと必死だ。
「帝国に砂をかけ、我が国の聖堂に手をだす。友好のある国を裏切るどころか敵対したのだ、当然であろう」
「敵対などしておらん」
敵対していないとは白々しい。
「聖堂に手を出して敵対していないとは片腹痛い」
「余が命じたのは聖堂ではなく、ヴァイスベルゲン王国から逃げ出したものの始末である。リラヴィーゼ王国と敵対するつもりはない」
「治癒眼で治療を施しているところを狙っており、聖堂に手を出すつもりがないというのは無理がある。そもそもヴァイスベルゲン王国の兵士が身分を偽り、リラヴィーゼ王国の国内で活動していたのも問題であるがな」
ラインハルト陛下に続き、ループレヒト卿が鋭い声を出してローレンツを責める。
「ローレンツ、あなたが狙ったのはグリュンヒューゲル帝国のエルデ公爵。エルデ公爵は皇帝陛下の代理を務めており、命を狙ったということは帝国との完全な敵対を意味する」
「公爵? 命じたのは亡命者の始末である。誤解だ」
「誤解で済む話ではありません」
オレは亡命者でもあるが公爵でもある。
公爵については知らなかったのかもしれないが、知らなかったからと許される問題ではない。そもそも国から逃げ出したからと他国で命を狙っていい理由にはならない。
ローレンツはカールハインツに仕組まれたのであろうが、退路が全て塞がれている。
「そ、そもそもなぜ、帝国とリラヴィーゼ王国が手を取ってヴァイスベルゲン王国を攻める。事前に聞いていた話と違うではないか」
ローレンツはなんとか死から逃れようとしているのか、話題を変えようと必死だ。
ループレヒト卿から変わり、ラインハルト陛下が再び喋り始める。
「リラヴィーゼ王国の王である余から帝国を攻めるなど言っておらぬ。ローレンツに帝国を攻めると語ったのはカールハインツであろう」
「そ、そうである! 責任があるとするならばカールハインツであろう」
「うむ、すでにカールハインツには責任を取らせておる」
「は?」
ローレンツは口を開け唖然とした表情。
カールハインツの処刑後すぐにヴァイスベルゲン王国を攻めたため、ローレンツはまだカールハインツの死を知らない。
「すでにカールハインツは死んでいる」
「な……」
「リラヴィーゼ王国はグリュンヒューゲル帝国への謝罪のため、カールハインツの首と賠償を支払った。ヴァイスベルゲン王国も同様に何かを差し出す必要がある」
ローレンツは絶句している。
しばらく無音が続く。
「ヴァ、ヴァイスベルゲン王国もカールハインツに騙された被害者である」
「そのような側面も確かになくもない」
「そうであろう!」
「しかし、新大陸開発の計画を邪魔し、無駄に戦争を起こそうとしたのだ。知らなかったは通るまい?」
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