第97録 治療方法
アザゼルの呟きを聞き取ったベルゼブブがすかさず質問をぶつける。
「まさか病気と魔界が関係してるとか言わねぇよな!?」
「その通りですよ、ベルゼブブ」
「はぁ!?」
「どうやったらそんなに冷静に言えるワケ!?」
「事実ですから」
ユフィールはまるで操り人形のように、眉一つ動かさずに答えている。
エリスは壮大な話の内容に身震いし、額に少量の汗を浮かべて彼に質問した。
「具体的に、教えてくれますか?」
「手短に言いますと、私は地上に出る時にサタン様の許可を頂いていません」
「それって……」
エリスは口元を手で押さえる。
以前、ベルゼブブから「契約」を結んでいない悪魔が地上に出るにはサタンの許可がいる、ということは聞いていた。
そして眼前にいるユフィールは許可無しで地上に来ている。
それが何を表しているかは明白だった。
「アイツに何かあったってことなのか!?」
「おそらくは。
許可を頂くために彼と魔界中を探し回りましたが見つけられなかったのです。
それで一部の望みをかけてゲートに体当たりしたら、簡単に通れました」
ベルゼブブに詰め寄られても表情を変えずに話し続けるユフィールに、エリス達は再び言葉を失った。
アザゼルが補足するように口を開く。
「つまり、今魔界のゲートは機能していないんスよ。
誰でも通りたい放題ッス」
「じゃあ、どんどん悪魔が出てきてるってこと!?」
「いいえ。サタン様の姿が見えなくなってまだ7日目ですから。
私が地上に出てきた時は悪魔の魔力は多く感じませんでした。
しかし、気づかれるのは時間の問題です。
攻撃的な彼等が気がつかないことを祈るしかありませんね」
「そもそもサタンを閉じ込めたヤツは誰だ?
ソイツが言いふらしてる可能性だってあるだろ?」
「仮にサタン様が封印されているとして……。
誰がそうしたまではわかりませんね」
キッパリと答えるユフィールにベルゼブブ達は顔を見合わせた。
すると、ベリアルが首を傾げながらユフィールに尋ねる。
「それで、なんでジルジルの病気が大ボスと関係があるワケ?」
「オレとユフィールの意見は「どこかに封印されている」。
それで魔界が荒れると悟って、地上に居る悪魔に知らせるためにヘルプを出したって結論に至ったッス」
「それが冥睡病?でもなんでジルジルだけ?エリエリは何ともないのに……」
「私にもわかりません。
耐性があるのかもしれませんね」
ユフィールはエリスを見ながら淡々と答えた。
エリスは気まずそうに目を逸らして尋ねる。
「あの、冥睡病の治療方法はあるんですよね?」
「はい。この病は古くからヘルプを出すものとして扱われてきました。
そして治すには「ヘルプを出した悪魔の魔力」が必要です。
今回はサタン様の魔力ですね」
ユフィールの言葉に場の空気が凍った。
しばらくの沈黙の後、ベリアルが口の端をひくつかせて言う。
「それ……ムリじゃない?
だって大ボス、封印されてるのかもしれないんデショ?」
「はい。
ですので、治療するためにはサタン様を見つけ出すしかありません」
「だけど居場所がわからないんですよね……」
「封印されているとなれば、壁も相当強力なヤツだな。
お前らでも魔力を感じ取れなかったんだろ?」
ベルゼブブの問いにアザゼルとユフィールが頷く。
黙り込んでいたアザゼルが口を開いた。
「ユフィール、魔力の代替えになる物とか作れないッスかね?」
「代替え、ですか?」
「そうッス」
アザゼルは懐から黒い石——知光石を取り出してユフィールに見せる。
「例えば、これは魔力を記憶できるんスよね。
だから、似たような物作れないかと思って」
「私に聞くよりベルフェゴールが得意でしょう。そういうのは」
「そうッスね。じゃあ、呼んでこようか」
「待ってください」
ユフィールはアザゼルを手で制止すると同時に、懐からボールのような物を2個取り出して、ベルゼブブとベリアルに投げつけた。
それは宙で大きく開き、そこから飛び出した白い光輪が2人を拘束する。
「ギャー!?何これえぇ!?」
「テメェ何しやがる!?」
「こちらのセリフです。よくも今まで私の検査を受けませんでしたね?
ベリアルは300年、ベルゼブブは500年ぶりですよ」
「んなモン知るかあぁ!!」
「ということで今から2人を連れて戻ります。
ついでにベルフェゴールを呼んできますね」
「り、了解ッス……」
「あっ、だから2人共ユフィールさんの名前が出た時、顔を歪めてたのね」
冷や汗を浮かべているアザゼルを見ながら、エリスが哀れむように呟いた。
「ちょっと待て!オレ様は「契約」があるんだが!」
「アタシもそう!だからこれ消してよ!」
「嫌です。「契約」を理由に避けようとするなんて往生際が悪いですね。
諦めてください」
どうにかして拘束具を外そうともがいている2人を見て、ユフィールはため息を吐いた。
「注射嫌がる子どもみたいッスね……」
「本当……」
エリスは呆れて目を細めたあと、ベルゼブブに近づいて声をかける。
「検査を受けてきた方が良いと思う。何ともないかもしれないけど、後々それが原因で「契約」を守れなかったら嫌でしょう?」
「オレ様は至って健康なんだよ!」
「だからこそです。
彼女の言う通り「契約」を満了出来なくても良いのですか?」
「……それは困るかも……」
代わりにベリアルが諦めたように返事をした。
ベルゼブブは口を曲げてエリス達から顔を逸らすと、小声で言う。
「……連れて行くならとっとと行けよ」
ユフィールは姿を現してから初めて口元を緩めた。




