番外編 人知れず流した涙
アレキサンドルを出たエリスとベルゼブブは、
まだアンスタン大陸に留まっていた。
夜。シーポルト近隣にある林。
たき火のパチパチと弾ける音だけが響き、2人共口を開かない。
エリスに至ってはアレキサンドルを出てからずっと俯いていた。
「そのまま薬屋の所に戻るかと思えば、野宿なんざ珍しいじゃねぇか」
「……………………」
エリスは何も答えない。
ベルゼブブは反応がないことにが気に入らないのか、軽く睨みながら話を続ける。
「あれか?たまには野外の空気でも味わいたい――」
ベルゼブブはそこまで言って固まった。
エリスの小さな肩が小刻みに震えていることに気づいたからだ。
「お前……泣いてんのか?」
その言葉に、ようやくエリスがすすり上げた。
「私、もう追われないのよね……?
コソコソ隠れながら生きていかなくても良いんだよね……?」
静かに声を殺して泣き出したエリスを見て、ベルゼブブは小さくため息を吐いた。
「まぁ、お前の魔力目当てに勧誘は増えるだろうがな。
コソコソ隠れる必要はねぇ」
するとエリスがフラフラと立ち上がる。
そのままベルゼブブの所まで寄って、倒れ込むように彼の胸に顔を埋めた。
「おいおい……。結局こうなるのかよ。
泣くなとは言わねぇが、あんまりこういうことすんのやめろよ。
慰め方なんて知らねぇからな」
エリスは震える手でベルゼブブのローブを掴み、
しゃくり上げながらも頷いた。
ベルゼブブは空いている両手を持て余しながら、
静かに空を見上げた。




