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【第2部完結】エレ レジストル〜最強悪魔と旅する生き残り少女の冒険録〜  作者: 月森 かれん
第2部 敗北者達の復讐編

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第88録 アレキサンドル家、決着

 「父上……」


 「オヤジ……」


 ジョルジュとグラドはそう呟くことしかできなかった。

 久しぶりに会う父親は少し痩せているようにも見えたが、

それよりもダークグリーンに光っている両目に意識が向く。

 正常ではないことは明らかだった。

 ロイトも2人から少し下がった位置で、訝しげに目を細めて言う。


 「叔父さん、あんな目の色だったっけ?」

 

 「いいえ。私達と同じ水色です……」


 「じゃあオヤジも操られてるってことか!?」


 グラドは事前にジョルジュから、今回のモンスター騒動は悪魔・アモンの仕業であると聞かされていた。

 悪魔を信じるような性格ではないが、兄の言うことなのでひとまず信用している。


 その間にもラングはゆっくりと歩を進めていた。

 庶民風の服はずっと着たままなのか、所々擦り切れている。

纏っているオーラの影響なのか彼が歩いた後の道の草は枯れ、地面は黒くなっていた。

 ジョルジュはあまりの変わりぶりに唾を飲み込みながらも、父に声をかける。


 「父上……こんな所で何をしているのですか?」


 ラングはピタリと足を止めると、怪しげなダークグリーンの目で彼等を見つめる。


 「……お前達こそ何をしている」


 「何って……」


 「城に戻るぞ。時間を取っている場合ではないのだ。

一刻も早くメリアの命を奪った者を特定せねばならん!」


 ラングは目を光らせながら語尾を強めた。

ジョルジュは慌てて1歩踏み出す。


 「父上!母上の命を奪ったのはエベロスではありません!

つまり、内輪の——」


 「そのことは知っておる」


 「え?」


 予想外の返事にジョルジュは目を丸くした。

ラングは表情を全く変えずに話を続ける。


 「直接エベロスから聞いたわ」 


 「なら、何故……」


 「言ったであろう。一刻も早くメリアの命を奪った者を特定せねばならんと。ジョルジュよ、今の王はお前か?」


 「は、はい。代理ではありますが……」


 「今すぐワシと変われ。特定を急がねば逃げられる」


 ジョルジュは口を閉ざした。

父親の言っていることは間違ってはいない。ただし正常ではない。 

城に戻って王位を代わった瞬間、国民を殺戮する可能性もある。

 すると、ずっと黙っていたグラドがこめかみに汗を浮かべながら口を開いた。


 「オ、オヤジ。まずは体調を整えてからでどうだ?

万全な状態の方が良くね?」


 「…………急がねばならんのだ」


 少し怒りを含み始めた声に、ジョルジュ達は顔を見合わせた。


 短気な父親がまだ完全な怒りを顕にしていない。

正常ではないからだとしても、彼等にとっては不気味だった。



 グラドは珍しく目を伏せて不安そうにジョルジュを見ている。


 「アニキ……やっぱりいつものオヤジじゃないよな?」


 「うん、違う」


 ジョルジュは迷いなく答えた。

 畏怖している父親ではあるが、今の彼はどう見ても異常。

怒鳴られても構わないから、どうにかして正気に戻したいと思い始めた。


 その間に、ラングはジョルジュ達の背後——ロイトに気づくとギロリと睨みつけた。


 「貴様は誰だ?何故ここにいる?」

 

 「ロイト・アレキサンドルです。訳あってここにいるんですけど……」


 「邪魔だ。帰れ。

同じアレキサンドルだとしても話を聞かれるわけにはいかぬ」


 「わかりました……」


 ロイトは残念そうに眉を下げるとジョルジュの肩を軽く叩く。


 「じゃあ、僕は帰るね。これ以上留まって叔父さんの怒りを刺激したら大変だから。どうなったか、手紙送ってね」 


 ロイトは早口に言うと颯爽と南東の海岸に向かって歩き始め、あっという間に姿が小さくなっていった。

 ラングはロイトの姿が完全に見えなくなったのを確認すると、

再びジョルジュ達に向き直る。

相変わらずダークグリーンの目が不気味に光っていた。


 「邪魔者はいなくなった。城に戻るぞ」


 ラングが声をかけても2人は動かない。ただまっすぐ彼を見つめている。

その様子を見てラングは声を荒くした。


 「何をしている!ワシの言うことが聞こえなかったのか!?」


 「父上は、何をそんなに焦っているのですか?」


 「ここで時間を無駄にしている間に逃げられるからだ!

なんとしてもあぶり出して報復せねばならん!」


 語尾が強くなり始めたラングに、グラドは少し肩をすくませながら声をかける。


 「オヤジ……。もう10年も前だぜ?すでに国から出ている可能性も——」 


 「それはない!おそらくその者は何食わぬ顔をしてのうのうと暮らしておる!

お前達はそんな奴が許せるのか!?」


 「そりゃあ許せはしねぇけどよ……」


 「ならば来い!こんな所で時間を無駄にしている場合ではない!」


 「父上。こんなことをしても、母上は帰ってきません」


 ジョルジュの静かな返事に、ラングの目が揺らいだ。

まるで想定外のことのように大きく目を見開いている。


 「私も許せと言われても許せません。ですが、報復するのは間違っていると思います」


 「ならば、このまま黙って悲しみに暮れていろと言うのか!?」


 ラングの言葉に、ジョルジュ達は口を閉ざした。


 報復するのは間違っていると言ったものの、代替案が思い浮かばない。


 黙り込んでいる2人を見てラングは眉をつり上げ、拳を震わせながら叫んだ。


 「ワシらは突然悲しみの底に叩き落とされた!それは同じだ!

だがお前達にわかるか!?なんの予兆もなく最愛の妻を喪った悲しみが!!」 


 「それは…………」


 「わからねぇよっ!!!!」 


 次の瞬間、グラドがラングに負けじと叫び返した。

ラングもジョルジュも驚いて口を開けたまま彼を見つめる。


 「なに……?」


 「グラド……?」


 「俺はオヤジじゃないからオヤジの悲しみなんてわからねぇ!!

それに今までずっと黙っといて、いきなり気持ちがわかるか!?とか言われて

わかるわけねぇだろ!!」


 グラドは肩で大きく息をしながら、さらにラングに言葉をぶつける。


 「いきなりおふくろが死んで俺達も悲しかった!

だけどオヤジはどうだった!?悲しむ素振りすら見せず、何かが取り憑いたように城のヤツラを怒鳴り散らしてたじゃねぇか!」


 「黙れっ!!王が簡単に弱音を吐くわけにもいかぬだろうっ!

お前達に——」


 そこまで言ってラングの口が止まった。

手から力が抜け、目のダークグリーンが薄くなってきている。

 

 悪魔は「絆」や「愛」といった説明の難しい感情を理解しにくかった。

アモンも例外ではなかった。 


 ラングは言葉を繋ごうとするが、舌回らないのか唇を震わせているだけだった。

 


 「お、お前達に……」


 「オヤジにとって俺達は何だ!?便利な駒か!?家族じゃねぇのか!?」 


 「そ、それは、違うっ……」


 「違わねぇだろ!俺はまだオヤジと考えが近いから賛同できたけど、アニキはずっと怯えてたんだよ!」


 ラングはハッとしてジョルジュに視線を移した。

ジョルジュは父親の目をまっすぐ見つめ返している。


 「…………。父上が怖かったのは事実です。でも尊敬もしています。

私から言えるのは、以前の父上に戻ってほしいだけです」 


 「……ワシは……そんな……」


 勢いをなくしたラングは弱々しく言うと、両手で頭を抱えた。



 ラングはしばらくの間そうしたままだった。

 ジョルジュ達は不安そうに成り行きを見守っている。




 やがて、ゆっくりと顔を上げたラングの目はダークグリーンから普段の水色に戻っていた。

眠りから覚めたように瞬きを数回繰り返すと、ポツリと呟く。


 「ワシは……こんな所で何をしておるのだ?」


 「オヤジ!」


 「父上!正気に戻られたのですね!」


 ラングは息子2人の嬉しそうな声に再び瞬きを繰り返す。

2人はまだ状況がのみこめていない彼に要点を話した。

話を聞き終わると、ラングは薄くなっている夜空をみあげながら、白髪混じりの金髪を軽く抑える。


 「そのようなことを……。何かを叫んでいたような記憶はあるのだが、思い出せぬ。

アモンと「契約」を結んだところまでは覚えておるのだが……」


 ラングは少し震えている手で懐から羊皮紙を取り出す。

広げたそれを見て、ラングは目を見張った。

 

 「白紙……?」 


 「つまり「契約」を結んでいないってことですか?」


 「そのようだ……」


 実はサタンがアモンを魔界に連れ戻した時に、一方的に「契約」を解除していたのだった。


 グラドがボサボサの金髪を抑えながら話に混ざる。


 「おい、悪魔とか「契約」とか何なんだよ?俺にもわかるように説明してくれ。

 クソッ、叫びすぎて頭痛ぇ……」


 「城に帰ったらな。だが、その話は牢屋ですることになるだろう」


 ラングの発言に2人は目を見開く。


 「で、ですが……」


 「ワシは長い間、憎悪に囚われておった。その結果足元を見失い、このような事件を起こした。王位復権などできぬだろう」


 「数日置いてからにしませんか?今すぐには判断できません……」 


 悲しげな表情で言うジョルジュを見て、ラングは小さく息を吐いた。


 「それもそうだな……。

 お前達にも長い間迷惑をかけた。

謝って済むとは思っておらぬが……本当にすまなかった……」


 深々と頭を下げたラングを見て、ジョルジュ達は固まった。

あの短気な父が自分達に頭を下げている。

夢ではないかと錯覚したほどだった。


 ジョルジュはすぐに我に返ると、慎重に言葉を選ぶ。


 「いいえ。私達も父上の気持ちを汲み取れず、辛い思いをさせてしまいました。

 それで……父上」 


 「何だ」


 「私はまだまだ未熟です。しかしすぐに王位を得ることになるでしょう。

ですので、いろいろご教授頂けたらと……」


 「当然だ。それで償いになるとは思ってはおらぬがな」


 珍しく口元を緩めて言う父親に、ジョルジュは呆然とした。

するとグラドが遠慮がちに口を挟む。


 「それ、俺も混ざっていいか?

そりゃあ俺が王になれるなんてさらさら思ってないが、少しぐらいは知っておくのも悪くねぇかなって……」


 「良かろう。お前はお前にできることでジョルジュを支えてやれ。

あと、ジョルジュよ」


 「はい」


 不意に真剣な声で呼ばれて

ジョルジュは思わず背筋を伸ばした。


 「万人に受ける政など無い。常に誰かが不満を持っていると思え」


 「はい……。わかりました」


 「なら、その不満持ってるヤツラを懲らしめたらいいんだな!」


 「懲らしめるのは良くないけど、威嚇ぐらいならしてもいいんじゃないかな」


 ジョルジュ達のやり取りを見ながら、ラングは密かにほくそ笑んだ。

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