第87録 外部からの救援
一方、ジョルジュは町の門前で静かに西を向いて立っていた。
小競り合いの音が徐々に減り、今はもう一方向からしか聞こえない。
「モンスターの数が減った?
さっきの雷も関係があるんだろうけど……」
ジョルジュが首を傾げていると、西側から蜂の群れが飛び去っていった。
アモンが倒されたことでコントロールが解けたからだ。
「もしかしてベルゼブブがアモンを倒してくれた?
なら、そろそろ父も出てくるはず……」
ジョルジュはキッと顔を引き締めると、正面を向いた。
しかしすぐに目を見開く。
コントロールから解除されたものの、パニックに陥ったウォームゴートの群れが地面を揺らしながら自分に向かってきていたからだ。
「くっ、迎え撃つしかないか……」
ジョルジュが構えた時だった。
間に茶色い人影が割り込んで呪文を唱えた。
「《大地の壁》!!」
ウォームゴート達は横広く造られた土壁を避けるように右へ向きを変えて走り去ってゆく。
最後の1匹が過ぎ去ったのを確認すると、その人物はゆっくりとジョルジュの方を向いた。
癖のある茶髪に青目。茶色のローブを身にまとっている。
ジョルジュは驚きながらもまずはお礼を述べた。
「助けていただいてありがとうございました。
ところであなたは……?」
「久しぶりだね、ジョルジュ君」
「え?」
驚いた表情で固まっているジョルジュに男は困ったように首を傾げる。
「あれ、まだわからない?なら……」
男は大きく深呼吸をすると口を開いた。
「これでわかるかな?ジョルジュ君?」
先程よりも1トーン低い声。こちらが地声のようだった。
ジョルジュはさらに目を大きくする。
「ロ、ロイトさん⁉」
ロイトの名字はアレキサンドル。ジョルジュとは3つ離れた従兄弟の関係だ。
リヤン大陸で薬屋を営んでいる魔法使いで、エリスとも関わりがある。
「リヤン大陸で1回会ったよね?エリスと一緒の時だったんだけど」
「あ、あの明るいお兄さん……ロイトさんだったんですか?」
「うん。声も自力で変えてるし、髪も染めてるからわからなかったよね?
名乗ろうか迷ったけど、何かムードが良くなかったから
やめておいたんだ」
以前、ジョルジュ達がエリスを追っている時、1度だけ対面していた。
戸惑っているジョルジュをよそに、ロイトは茶色のローブを指で触りながら穏やかに話を続ける。
「いやー、この服着たのも久しぶりでさ。薬屋として落ち着く前だから5年以上は着てなかったかなー」
「ど、どうしてこの大陸に……」
「ん?マーレ港の船長さんが言ってたんだ。モンスターの数が異常だって。
ジョルジュ君達も危ないかもしれないと思ったから、
人目のつかない浜辺まで行って海上を歩いてきちゃった」
軽く言うロイトにジョルジュは唖然としている。
「海上を……ですか?」
「そうそう。船を待つ時間がもったいなかったからね。
でもジョルジュ君、町の外にいるんだから油断はしちゃダメだよ?」
「はい……。気をつけます……」
ジョルジュの返事にロイトは満足そうに頷くと、少し真剣な顔つきになって話を続ける。
「ところで、今回の親玉は来たのかな?」
「いえ、まだです。
でももうすぐ来るんじゃないかと。主力のモンスター達も削りましたから。
それに誰なのか見当もついてますし……」
「そう……」
ロイトが相槌を打った直後、甲高い鳴き声が2人の頭上に振り注いだ。
見上げると、巨大な赤い鳥が狙いを定めて急降下している。
「あれはファイアバード!?
滅多に人の前に姿を現さないのに。近くに巣があったのかな……」
「って、ジョルジュ君!感心している場合じゃない!
避けるよ!」
すると、どこからか飛んできた大きな水球がファイアバードに直撃した。
ファイアバードは苦しげな声を漏らすと、そのまま逃げ帰ってゆく。
ジョルジュ達が顔を見合わせていると、鋭い声がとんでくる。
「アニキ!何ボサッとしてんだ!」
「グラド⁉ご、ごめん……助かったよ」
「フン、まぁいいけど。ん?隣のヤツ誰だ?」
グラドが訝しそうに2人に近づく。
しかしロイトはグラドに笑顔を向けると素早く口を開いた。
「グラド君じゃないか!元気にしてたかい?」
「ゲ⁉ロイト兄⁉」
「あ、覚えてくれてたんだ。良かったー。
でも久しぶりに会うのに、「ゲ!?」はヒドイなぁ。
ジョルジュ君もそう思うよね?」
「は、はい……。たぶん……」
ジョルジュは逃げるようにロイトから目を逸らした。
それから思い出したようにグラドに声をかける。
「グラド、隊の指揮は大丈夫なのかい?」
「ああ。なんかモンスター共のコントロールが解けたみたいでよ。勝手に逃げ出したから、アイツラには裏口からとっとと城に戻るように言っといたぜ」
「へぇー、グラド君が指揮してたんだ。成長したねぇ」
「いつまでもガキじゃねぇからな」
鼻を鳴らして言うグラドをロイトは微笑ましそうに眺めている。
「それはそうと、何でアニキはこんな所にいるんだよ?」
「言ってたよね?直接話したいって」
「じゃあそろそろ来るかも――」
グラドが言いかけた時だった。
少し緩んでいた空気が一瞬で張り詰め、緊張感が走る。
3人は一斉に気配を感じた西を向いた。
そこには、ラング・アレキサンドルが不気味なダークグリーンのオーラを纏って、ゆっくりと歩いてきていた。




