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【第2部完結】エレ レジストル〜最強悪魔と旅する生き残り少女の冒険録〜  作者: 月森 かれん
第2部 敗北者達の復讐編

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第86録 逆襲

 「お前、まさか……」 


 ベルゼブブが目を見開いて小声で言う。

アモンはそんな2人の様子など気に止めず、アザゼルに命令した。


 「このまま続けてもいいが、モンスターの乱入がないとつまらん。

アザゼル。命令を書き換えてやるからこっちに来い」


 アザゼルは無表情のままアモンの側に移動すると――素早く懐から赤い薬液を取り出してアモンに浴びせた。 


 「グオオオォッ!?なんだコレは!!」


 「ケヒヒッ。オレ特製の毒薬ッス。痛いだろ?」


 楽しそうに笑うアザゼルの目から文様は消え、いつもの生気のないものに戻っていた。


 「おっ、お前!いつからコントロールを解いていた!?」


 「最初からッスよ。耐性あるんでなぁ!」


 そう言うと同時にアザゼルがアモンを崖から蹴り落とす。

地面に叩きつけられた衝撃でアモンがうめき声を漏らした。

 しかしすぐに起き上がるとアザゼルを睨みつけた。


 「ふ、ふざけるな!!俺がお前如きに負けるなどあり得ん!!

今度こそ支配下に置いてやる!!」


 「余所見してんじゃねえよ」


 充分時間を与えられたベルゼブブが赤黒い気を纏った右手を振り上げる。


 「ハハハッ!俺を倒しても終わらんぞ!」


 「何!?」


 アモンの言葉にベルゼブブは思わず動きを止めた。

アモンは狂ったように笑いながら叫び続ける。


 「モンスター共のコントロールは解けるが、契約者に強力な暗示をかけておいた!それは俺を倒しても効果は続く!解く方法などない!

アイツは永遠に俺の駒だ!」


 「やかましい!獄砕拳(ヘル・ブレイク)》!!」

 

 ベルゼブブはアモンの顔面に渾身の一撃をくらわせた。

衝撃で地面が波状にヒビ割れ、アモンはピクリとも動かない。


 「殴っちゃうんスね……」


 アザゼルはぽそりと呟いたあと、崖から飛び降りて倒れているアモンに

ゆっくりと近づいた。


 「それはそうとオレを何度も名前で呼びやがって。

蹴り落としただけじゃ気が済まねぇ」


 「そういやそうだったな……。

完全にお前を操ってた気になってたからな、コイツ」


 アザゼルが足を振り上げた直後、場の空気がピリピリと張り詰める。


 「ん?」


 動きを止めた隙に彼とアモンとの間に小さな影が割って入った。


 「その辺にしておけ、ダル男」


 「…………。退いてもらえます?」


 アザゼルは眉を下げると目の前の少年――サタンに尋ねる。

サタンは表情を変えないままアザゼルを見上げた。 


 「断る。どうせコイツにいろいろやられたのだろうが、

命を取るのはやめておけ」


 「………………」


 アザゼルは諦めたように足を地につけた。

それを見たサタンは満足そうに笑う。


 「物わかりが良いな」


 「どっかのヤローとは違うんでね」


 「フン……。

 さて、コイツは余が預かっていこう。

どういうわけか「契約」も結んでいないのに地上に出おった」


 「おいおい、しっかり管理しとけよ」


 サタンは無言のまま微動だにしないアモンを魔法で浮かばせた。

それからベルゼブブに向き直る。


 「仕方あるまい。魔界は広いからな。

どうしても綻びが出る箇所もあるだろう。

すぐに修復はするが……」


 「綻びをそのままにしていたらやりたい放題ってことか!?」


 「ああ。だが、そうならないようにするのが余の務めだ。

お前達は気にするな」


 サタンは短く答えるとそのまま姿を消した。





 ベルゼブブはサタンがいた場所をチラリと横目で見てから、

アザゼルに声をかける。


 「部下1号、操られてなかったんならオレ様と戦う意味なかっただろ?」


 「それに関しては申し訳ないッス。完全にアモンのことをわかってなかったんで、従っといた方が良いと判断したんスよ」


 「だが、アイツはコントロール魔法の使い手だろ?」


 「オレには効きにくいんスよ」


 「耐性強すぎんだろ」


 ベルゼブブのツッコミにアザゼルは満足そうに口元を緩めた。

それを見て呆れたようにため息を吐きながら、頬をさする。

 

 「それとさっきオレ様にブッかけた液体は何だ?

ヒリヒリ痛むんだが」


 「グラトニースネークの胃液とミストツリーの樹液を混ぜた物ッス。

所持している中で1番軽いのがソレだったんで。

 毒薬とかブッかけられるよりはマシだと思うんスけど」


 「そりゃそうだが……」


 「それにタイチョーにかけた薬は治癒薬持ってるんで」


 アザゼルはそう言って懐から薬瓶を取り出した。

中には淡い黄色の軟膏が入っている。

 そして満面の笑みでベルゼブブとの距離を詰め始めた。

うっとりとした表情で明らかに様子がおかしい。


 「タ〜イチョ〜」


 「ちょ⁉待て!ニヤニヤしながらこっち来んな!

自分で塗るから薬だけ渡せ!」


 「イヤッス。冷や汗かきながら逃げなくてもいいじゃないスか〜。

 ほら、おいで?」


 ベルゼブブが普段フードを外さないのは、素顔による魅了が強すぎるからだった。耐性のない者は卒倒し、なんとか耐えれても心を乱される者が多い。

それは悪魔も例外ではない。


 「今頃魅了が効くヤツがあるか!

 ちょっと待て!聞きたいことがある!」


 「何スか〜?」


 「お前、そういう趣味だったのか?」


 アザゼルは立ち止まってベルゼブブを見つめる。

そして口を開いた。


 「雑食ッス」


 「お、おう……。

わかった!塗っても良いから止まれ!アザゼル‼」


 アザゼルは満面の笑みからすぐさま普段通りの表情に戻った。

少し眉を上げてベルゼブブを睨んでいる。


 「チッ、一気に冷めたッス」


 「相変わらず切り替え早ぇな」


 呆れ顔で言うベルゼブブにアザゼルは淡々と提案した。


 「とりあえず薬塗るんで、こっち来てください。

もうダイジョーブなんで」


 「ああ……」


 ベルゼブブのキズの位置を確認したあとアザゼルが薬を塗り始める。

滲みるようでさすがのベルゼブブも顔を歪める。


 「グゥッ⁉」


 「少し溶けてるッスからねぇ。そりゃあ滲みるでしょーよ」 


 「そこは魔法使ってくれよ……。

お前ヒーラーなのに魔法使おうとしねぇよな?」


 「急ぎの時は魔法使うけど、基本は自作の薬で治すッスね。

 オレは元々魔力の回復が遅いんで、できるだけ温存しときたいんスよ。

……はい、塗り終えた」


 「痛みがなくなった。さすが部下1号」


 「そりゃどーも。で、これからどうするんスか?」


 「ひとまずアイツの所に戻る。こっちはケリついたからな。

お前はどうすんだよ?」


 ベルゼブブに尋ねられてアザゼルは左腕を指差した。

まだ黒い槍が突き刺さったままだ。


 「とりあえず地下に戻って腕の治療してくるッス。

なんでタイチョー、魔法解かないでくださいよ。血が噴き出すんで」


 「ああ、わかった。

 そんなことよりお前、オレ様のフード溶かす必要あったか?」


 「タイチョーの素顔見て行動不能になったらよかったんスけど、ちょっと戸惑っただけだったッスね。魅了に効くことに賭けてたのに」


 「オレ様のフードは賭ける道具じゃねぇよ!

 替え持ってねぇからな。

このままアイツのところまで戻らなきゃならねぇのか。はぁ……」


 頭を抱えたベルゼブブを見て、アザゼルがニヤニヤしながら声をかける。


 「薬品の匂いだらけで良ければオレのローブフード貸すッスよ?」 


 「いらん。このまま帰る」


 「了解ッス。じゃあタイチョー、少しの間お別れッスね」


 「フン、どうせお前とはすぐに会うだろうよ。

ちゃんとケガ治しとけ」

 

 アザゼルは頷くと黒い霧を纏って姿を消した。


 「さて、アイツの方は片付いたのか?」


 ベルゼブブは眉をひそめながら、東側に視線を向けた。

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