第85録 ベルゼブブVSアザゼル
その頃、ベルゼブブは知光石の光を頼りに森に入り込んでいた。
「光が弱くなってきてるな。この辺りか……」
開けた場所を見つけて、足を止めると慎重に周囲を見回した。
虫の鳴き声だけが静かに響いている。
「にしても、不気味すぎんだろ。
おい、とっとと出てきやがれ!」
「そう急かすな、ベルゼブブよ」
突如響いた低い声にベルゼブブが素早く振り返ると、近くの崖の上にアモンが立っていた。
フード下からダークグリーンの目が妖しく光る。
「やっぱりテメェの仕業か!!」
「そう噛みつくな。久しぶりの再会だというのに」
「うるせぇ!部下1号を返せ!」
フードの下でアモンが意外そうに眉を上げた。
「ほう、察しが良いな」
「そうじゃなきゃどんだけ鈍感なんだよ!」
「クックックッ。わかっているなら説明は不要だ。
お前に連れて帰れればの話だがな!」
アモンが右手を上げると、彼の側にアザゼルが現れた。
目に妖しげな紋様を浮かべて、ベルゼブブを眺めている。
そこに感情はなかった。
「部下1号……。お前、操られたのか?」
「…………………………」
ベルゼブブの問いにアザゼルは答えない。
変わらず彼を眺めているだけだった。
「そうかよ……。
なら、テメェを倒せば解けるよなぁ!アモン!
《影の投槍》」
ベルゼブブは喚び出した1本の黒い槍を素早く投げる。
しかし当たる直前にアザゼルが飛び出し、彼の左腕に突き刺さった。
槍先を中心にローブが黒く染まってゆく。
ベルゼブブは彼の予想外の行動に叫んだ。
「待て!なんでお前が庇う!?」
「俺が命令しているからだ。『体を張ってでも守れ』とな。
アザゼルよ、遊んでやれ!」
アモンが低く呟くとアザゼルがベルゼブブに飛びかかる。
槍が刺さったままの左腕のことなど気にも止めていないようだった。
「痛覚ねぇのかよ!?」
「そうなのかもしれんなぁ。俺は知らないが。
ただ、俺を倒そうとすればその前にコイツが出るぞ?」
「本当、めんどくせぇな!!」
そう叫びながらベルゼブブはアザゼルの蹴りを避けた。
アザゼルは無表情で注射器や薬品を使った攻撃を繰り出している。
ベルゼブブは難なく避けるが、動作はどこかぎこちない。
その様子を見ていたアモンが愉快そうに笑った。
「どうした?反撃しないのか?」
「やかましい!
部下1号のコントロール解き終わったら叩きのめして――ッ⁉」
アザゼルがベルゼブブの隙をついて、頭に紫色の薬液をかけた。
フードを貫通して濡れた髪や肌から白い煙が上がる。
「痛ってぇ!?……酸か!」
ベルゼブブは素早くローブフードを脱ぎ捨てた。
腰まである銀髪が顕になり、起こされた風になびいて揺れる。
アモンの動きが一瞬止まった。
「おぉ……。相変わらず整っている……」
「テメェよくもフード外しやがったな!!」
ベルゼブブは銀髪を乱しながらアモンを指差して叫んだ。
アモンはハッと我に返ると、不気味に笑いながら言う。
「文句ならその男に言え。俺は『俺の邪魔する者を倒せ』としか命令していない。
ふん、いくら最強と言われているお前でも、慕われている者からの攻撃は辛いだろう?」
「テメェ絶対叩きのめしてやるからな!」
「それは楽しみだ」
アモンは焦る様子も見せずに余裕たっぷりに嘲笑った。
直後、森の奥からブンブンと嫌な羽音が響き始める。
その音は徐々に大きくなり、無数の蜂――ポイズンビーが集まってくる。
「なんだこの群れは!?」
「当然、俺が操っているヤツラだ。
お前達の勝負に花を添えようと思ってなぁ」
「そんなモンいるか!!」
アモンは不敵な笑みを浮かべたまま、左手を振り上げた。
蜂の群れがベルゼブブとアザゼルに襲いかかる。
「って、部下1号も巻き込むのかよ!?」
「そうしなければ不公平だろう?
なに、アザゼルならこれぐらいは避けれる」
しかしアザゼルは懐から緑色の薬液を取り出すと、群れに撒き散らした。
毒薬だったらしく、蜂達は白い煙を上げながら次々と消滅してゆく。
咄嗟に飛び退いたベルゼブブは白煙を見ながら息を吐いた。
「危ねぇ……。飛沫がかかるところだったぜ」
「なんだ?『俺の邪魔する者に』そのモンスター共も入ったのか?」
アモンが不機嫌そうに眉をひそめる。
その間にアザゼルはベルゼブブを見て――ニヤリと口の端を上げた。




