第100録 魔力結晶生成装置
翌朝。
ジョルジュの部屋へ向かったエリスとアザゼルは、再び愕然とした。
昨日と同じようにベルフェゴールが部屋の中央で胡座をかき、2人をニヤニヤと眺めている。
右手には手のひらサイズの黒い箱を持っていた。
「ヤッホー、2人共。1日っつーか、半日か?」
戸惑う2人にベルフェゴールがほくそ笑む。
まだ開発後の高揚感が下がりきっていないようで、目がギラついていた。
「早っ……」
「1日は確実に経っていないと思います。
昨日お会いしたのは昼でしたから……」
「だろうねー。寝てないし食べてない」
平然と答えるベルフェゴールにエリス達は開いた口が塞がらなかった。
「徹夜じゃないスか!?」
「造るのが楽しすぎてそれどころじゃなかった。
で、今から使い方説明するから、もうちょっとこっちに寄ってくれない?
しっかり聞いといてねー」
2人が距離を詰めたのを確認すると、ベルフェゴールが解説を始める。
「これ、魔力結晶生成装置ね。
魔力ってオーラ上でしか見えないじゃん?だからこれで結晶化させるの。
それに結晶化させた方が分量を調節できるからね」
「説明というより、造った理由ッスね……」
「今から説明するの。
端に目盛りあるの見える?」
ベルフェゴールはいじけたように言うと、装置の表面を2人に近づけた。
真ん中が少し窪んでいて、その右端に赤い目盛りがついている。
エリスがゆっくり瞬きをしながら呟く。
「はい……。赤い目盛りですよね?」
「そうそれ。で、窪みに手のひらを当てて、目盛りがいっぱいになるまで魔力を注入してもらうの。そしたら勝手に生成が始まるから、あとは放置。
ちなみに生成が始まるとこんな感じになる」
ベルフェゴールはそう言いながら懐からもう1つの装置を取り出した。
それはガタゴトと鈍い音と白い煙を上げながらひっきりなしに稼働している。
エリスとアザゼルは息をするのも忘れて装置を凝視した。
「装置は2つ造れたんだ。で、ご覧の通り1つは俺の魔力結晶を造ってる最中。生成完了まで2、3日はかかるかな」
「これをあと5人分なんですよね?」
「しかもアモンは疑似魔力ッスよね……」
「まぁ、なんとかなるんじゃないー?
あ、そうそう。ついでにエリスと研究者のもちょうだい。
アモンの疑似魔力で2人のが要るんだわ」
「私のが要るんですか……?」
エリスが顔を引きつらせて尋ねると、ベルフェゴールは当然のように頷く。
落ち着きを取り戻したのか、目のギラつきはなくなっていた。
「うん。エリスのをベースにするからね。
魔力ってクセがあるからさー。人間のが1番クセが弱いんだよ。
だから最適」
「わ、わかりました……」
エリスは戸惑いながらもベルフェゴールから装置を受け取ろうと手を差し出す。しかし、彼は一向に渡そうとしない。
エリスが首を傾げると、ベルフェゴールは小さく眉を下げて肩をすくめた。
それから2つの装置を床に並べる。
「エリスのもすぐに造ってもらいたいんだけどねー。
ベルゼブブ達が帰ってくるのは早くて今日、遅くても明日でしょー?」
「そのはずッス」
「それで、レヴァイアタンとアスモデウスとルシファーは探さないといけないからね。
彼等が帰ってきた時にどっちも使用中じゃ、出発が延びる。
あんまり日にちがかからない方がいいんでしょ?」
「はい……」
「なら、余計に1つ空けておいたほうがいいよね。
はー、眠くなってきた……。寝ようかな」
途端に目が微睡み、欠伸をし始めたベルフェゴールを見てエリス達は肩を震わせた。
「今からですか!?」
「しかもここで!?」
「いいじゃん別にー。ここ、音遮断バリア貼ってあるみたいだしさー。
じゃ、おやすみー」
言い終わらないうちに、ベルフェゴールは床に突っ伏した。
すぐさま寝息を立て始めた彼に、エリス達は顔を見合わせる。
「徹夜の反動かしら……?」
「おそらくそうッスね。
ベルフェゴールは作業の前後どちらかでめちゃくちゃ寝るって聞いたことがあるッス」
アザゼルの言葉を聞いたエリスは少し考えてからハッとして目を見開いた。
「前後でめちゃくちゃ寝る?……もしかして、ベルゼブブのローブを新調してくれたの、ベルフェゴールさん?」
「間違いないッスね。
それにしてもよく結びつけたな」
「ベルゼブブが5日間の内4日も寝てたって文句言ってたから」
「タイチョーらしいッスね……」
アザゼルが苦笑した。
それから微動だにしないベルフェゴールを見下ろして、ため息を吐いた。




