第99録 邂逅、ベルフェゴール
気怠そうに居座っているベルフェゴールに、エリスとアザゼルは口を開けたまま固まる。
そんな2人を気にもせずに彼は一方的に喋り出した。
「ユフィーから聞いたんだー。
先に行っといてって言われたから来ちゃった」
「そ、そうスか……。早い駆けつけで助かるッス」
「ベルフェゴールさん、初めまして。私はエリス・テオドールと申します。
よろしくお願いします」
「うんー。よろしくねー、エリス」
そう言いながらベルフェゴールは立ち上がった。
彼は紺色の半袖ローブを纏い、作業の邪魔にならないように袖や裾を革ベルトで固定している。
また、頭には重そうなゴーグルを着用しており、緑色のレンズが不気味に光っていた。
そして、分厚い指抜きグローブをつけた手をエリスに差し出す。
エリスは戸惑いながらも応じた。
「部屋に入ってきた時から思ってたけど……アンタ魔力高っ。
ユフィーが言ってた通りだ」
「やっぱり皆さんは見ただけでわかるんですね……」
エリスが肩を落として言う。
以前、アザゼルから『悪魔は見ただけで魔力量がわかる』と聞いていたからだ。
それに、ユフィールは自分の魔力について何も言及していなかったが、
彼も気に留めていたことを知って複雑な気分になった。
「そんな落ち込むようなことじゃないけどねー。
人間でここまで高いのも珍しいってだけ」
ベルフェゴールはエリスを軽く慰めると手を離した。
そのまま奥にあるベッドを指差す。
「それで本題に入るけど、あの人冥睡病なんでしょー?
それでサタンの魔力がいるんだってね」
「そうッス。でも封印されてるかもしれないから、
何か代替えの物作れないかと思って——」
「うん、作れるよー」
「え?」
「は?」
当然のように言ったベルフェゴールにエリス達は一斉に視線を向けた。
彼はのんびりと話を続ける。
「他の人の魔力を混ぜて人工的にサタンの魔力を創る。
まぁ完全再現ではないけどねー」
「そんなことができるんですか……?」
「できる。
特定の人達の魔力を集めて、寸分違わない分量で混ぜる。
そしたら人工魔力のできあがりー」
「……で、結局誰の魔力がいるんスか?」
「まぁ、7大悪魔はいるよねー」
「7大悪魔……?」
瞬きを繰り返すエリスにアザゼルが説明する。
「悪魔の中でも特に力を持った7人のことッス。
タイチョーやベルフェゴールも含まれるッスね」
「ベルフェゴールさん……7大悪魔の1人だったんですか?」
エリスが顔を引きつらせて言った。目の前にいる男がとてもそんな風には見えないからだ。
ベルフェゴールはワザとっぽく驚いた声を出す。
「えー、知らなかったの?」
「すみません……。ベルゼブブとサタンさんとルシファーさんぐらいしか知らないんです」
申し訳なさそうに頭を下げるエリスに、ベルフェゴールは気怠そうに言う。
「へー、そうなんだ。じゃあこの機会に覚えておいてよ」
「はい、覚えておきます」
2人の会話が途切れたのを見計らって、アザゼルが口を挟んだ。
「ベルフェゴール……。
アモンについてなんスけど、この前タイチョーがシバいちゃったんスよね。で、サタンが連れて帰って行方知れずッス」
「ベルゼブブがシバいた?……本当面白いねー、アンタ達」
ベルフェゴールが楽しげに微笑む。
それから、数秒顎に手を当てて考えてすぐに顔を上げた。
「じゃあアモンから取るのも厳しいから、疑似魔力だね。
貰ってくるのが難しいヤツは疑似魔力だー」
「疑似魔力……ですか?」
「そう。サタンの魔力を造っちゃうから、取れそうにない悪魔の魔力も造っちゃう」
「それで補えるんスか?」
「サタンのも疑似魔力だからどうにかなるよ。きっと」
次々と答えるベルフェゴールにエリスとアザゼルは頭を抱えた。
「……頭が熱くなってきました……」
「オレもッス……。どうやったらそんなにスラスラ出てくるんスか」
「頭の造りが違うんだよー、たぶん」
ベルフェゴールが自分の頭を指しながら平然と答えた。
それから口元を引き締める。
「よし、そうと決まればちょっと装置作ってくるねー。
1日ちょうだい!」
「1日!?」
「早い方。
えーっと、装置造るにはアレとアレと——ああ、あのゲテモノも要るかも……」
その場で演算を始めたベルフェゴールにアザゼルが呆れ顔で声をかける。
「それ、帰ってからやりな……」
「わかった。
調子出てきたから……止めるなよ?」
ベルフェゴールは紫の両目をギラつかせると、黒い霧を纏ってあっという間に姿を消した。
黒い霧が完全に消えると、アザゼルが深いため息を吐く。
「わざわざ止めるヤツ居ないッスよ……。研究素材にされる」
「悪魔って変わってる人多いわね」
「今さらッス」
「そうね……。あなたも含まれるし……」
目を細くして言うエリスを見て、アザゼルはニヤリと口角を上げた。




